愛するということ

緒方宗谷

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3.転校生

3.注目の的

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 ホームルームが終わった直後。興味津津のクラスメートに取り囲まれて、陸は埋もれていた。
 出身はここ辺りであること。小学生の時に引っ越して高知に行ったこと。根掘り葉掘り訊き出されている。
 舞という名の女子が言った。
「それじゃ、私と同じ小学校じゃん、私達友達だったんだね」
 見上げる陸に、顎ほどまである黒髪をすきながら舞がはにかむ。だが7歳の時のことだから、お互い憶えていない。
 話しかけたさそうにしている有紀子を見かねて、加奈子が落ち着いた声で言った。
「小学校一緒だったみたいだね、知ってる男子?」
 陸の話はさんざん聞かされている。加奈子は、有紀子の想い人をフルネームで記憶していなかったが、陸という名前と有紀子の反応から、思い出の彼氏である、と推察した。
 有紀子の横顔はいつもと違う。少し赤らんだ頬、何かに期待するかのようにほころびた唇。明らかに恋の予感を感じさせる表情だ。
 実際、加奈子の問いかけに対して、有紀子はほとんど上の空だった。有紀子は、何とかして陸のそばに寄りたい、と自分が割り込む隙を探すが、翡翠色の人の壁に縫い入る隙が無い。
 表情を消した加奈子が陸を見やりながら、少し小さめの声で有紀子に言った。
「なかなか格好良い男子になったね」感嘆の吐息を吐く。「有紀から見せてもらった写真の面影も残っていて少し可愛い顔もしているけれど、やっぱり男の子らしいね」
「私のこと憶えているかな?」
 不意に不安になった有紀子は、教科書を準備しながら言う。
「忘れていてもいいんじゃない?」
「どうしてそんなこと言うの?」有紀子が眉をひそめる。
「冗談よ、冗談。私には恋人がいないから、足引っ張ってやろうと思っただけ」
 加奈子には大学生の彼氏がいたはずだ。彼氏いない歴実年齢の有紀子は、今の発言にムッとした。まだ子供の自分がからかわれたように感じた。
「遅ればせながら、私も高校生デビューを目指しますよ」有紀子がつっけんどんに意気込む。
「頑張れ、ゆっこ」
 ぷくっ、と頬を膨らませる有紀子に、加奈子は「ニシシシシ」という擬音が合いそうな面白い笑顔を浮かべた。
 休み時間や昼休みに話しかけようとした有紀子であったが、全く機会が無い。もともと積極性に欠ける。今まで気にしなかったが、この時ばかりは恨めしかった。
 休み時間は陸に興味を持った数人の女子が学校を案内し、昼休みは男子に誘われて校庭に蹴鞠をしに行ってしまった。
 有紀子がため息をついて後ろの席の加奈子を見ると、やっぱり「ニシシシシ」と笑った。そのまま結局放課後を迎えてしまった。


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