愛するということ

緒方宗谷

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6.篠原里美

1.マウンティングとアンダードック

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 里美は、中1と中2の時アメリカに住んでいた。両親は日本人ばかりいる学校に入れることも検討したが、将来国際感覚のある女性に成長してほしい、と願いを込めて、普通の学校に入れた。
 日本ではあまり報道されないが、外国に住む日本人がヘイトの対象になることがままある。大抵は先の第二次世界大戦に関することだ。
 日本人は未だに反省していないとか、今ここで土下座しろとか言われたと言う人もいて、中にはイジメの対象になって登校拒否に陥った女の子が過去にいた、と里美は聞いたことがある。
 一言でも言い返そうものなら、大声でまくしたてられる。挙句、ナチスと一緒だとか悪魔だとか散々非難されてしまう。
 里美は、第二次世界大戦のことはほとんど知らない。というか、アメリカに来て文句を言われるまで、日本が戦争をしたことすら知らなかった。それでもナチスが沢山のユダヤ人を大虐殺したことは知っている。
 さすがに、ナチス第三帝国と一緒にされては敵わないと、とても憤慨した記憶がある。表には出さなかったが。
 幸いアメリカ人の友達は友好的だったから、学校生活が耐えられなくはならなかった。それでも、1日に何度か短い時間、ケンカを売られた。
 今思うと、アメリカ人が友好的だったのは、戦勝国の余裕だ。旧日本軍の攻撃が本土に届いたのは1度だけ。爆弾が1つ投下された。被害は木が1本倒れただけだった。当時の里美は、日本がアメリカに敗戦したことも知らない。
 知り合いのアメリカ人にとって、世界の全てはアメリカだったと思う。そりゃそうだ。あれだけ国土が広い。日本から韓国をまたいで中国に行ける距離を移動してもまだアメリカ。日本なんて小さな島国は眼中にないのだろう。州1つで日本くらいある。地図を見ると日本は右端の端、隅っこに描いてある。その地図を初めて見た時、里美は日本がどこにあるか分からなかった。
 目を凝らし続けて見つけはしたものの、しばらく中国、韓国、日本の区別がつかない。一つの塊に見えた。
 日本に帰国して振り返ると、アメリカ人以外の人も、それほど反日ばかりではなかった、と里美は思う。突っかかってきたのは一部の人だけだ。殆どの人は接触してこなかった。でも当時の里美は、それを無視されている、と感じた。
 今考えると、彼女(彼)らは親日だったのだろう。日本文化が好きだけれど、それを口にするといじめの対象になる。かといって日本が好きだから反日にも加わらない。優しさだったのかも、と里美は考えた。
 そう思うと、私は成長したと感じられて嬉しい。
 アメリカ時代を振り返って里美は、当時の経験は良かった、と思う。
 とても嫌な思いをしたのは確かだ。そのストレスからハッキリ言ってやる、と思ったこともある。
 実際はっきり言えたことは無い。そもそも日本人は外国人と比べて内気だし、自己主張をしない民族で有名だ。それを美徳としてきた歴史もある。民族性か文化性か分からないが、里美も漏れることなく日本人らしさをいかんなく発揮した。
 塵も積もればなんとやらで、ストレスは毎日解消しているようでも降り積もっていく。大人しい里美は、段々と気持ちを吐露できる性格へ、微妙ながら変化の兆しを見せる。
 最初に爆発したのは、日本に帰ってきてからだ。里美は、アメリカで爆発しなくて本当に良かった、と思った。もし、クラスで爆発しようものなら、袋叩きにあったかもしれない。


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