愛するということ

緒方宗谷

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17.尾行 

3.三つ巴

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 陸の家は、2階建ての新しい一軒家だ。模様のついた白いパネルを貼った壁に木を多用したバルコニー、今風のデザインだった。10年前に住んでいた一番町の家は売ってしまっていたので、上条家は、一橋学園駅のそばに新しく家を買ったのだ。
 前の家の売却代金を祖父母の家のリフォームに充てたが、1/4くらいは残った。それに高知の実家の売却代金に、遺産として入ってきた預貯金及び毎月分配型ファンドの売却代金をくわえて買った家だ。
「ここが上条君の家か、結構いい家に住んでるわね」
 門の前で建物を見上げて、萌愛が言う。柚奈は内心これでお終い? と思っていた。
「つまんないね」萌愛が一息ついた。「これじゃ暇つぶしにもならないわ、カラオケにでも行こうよ、柚奈」
 今来た道を戻る2人は、最初の十字路にあった自動販売機でジュースを買って、そのまま休憩がてら夕方までの予定を話し合った。
「ん?」
 萌愛の声を聞いて、その目線の先を柚奈が見る。有紀子だ。面白い展開になってきた。柚奈がチラリと萌愛を見ると、またムスッとしている。
 柚奈は、視線を有紀子に戻した。
(これこれこれこれ、こうでなくっちゃラブストーリーは始まらない)
 言うと萌愛が怒るので、口には出さない。でも柚奈はニヤニヤしてしまった。
「少し、観察していこうよ」柚奈の鼻から、抑えきれないテンションがこぼれる。
「観察って、家の中じゃ何してるか分からないじゃない、それよりカラオケ行こうよ」
「えー、でもまた出かけるかもだよ」
 里美VS加奈子VS有紀子、壮絶な女の戦いが始まる。上条君は誰を選ぶんだろう。と、柚奈の想像は止まらない。
「もしかして私かも」と柚奈が言った。
「あんた関係ないじゃん」
「いや、意外に変なところに転がったりするものよ、この展開面白くない?」
「柚奈に落ちるの?」
 萌愛は少し考えてから続けた。
「柚奈は2次元じゃん、上条君の性格そんなじゃないから、いまいち萌えないんじゃない?」
「(それあんたでしょ? まあ私もだけど)、ねぇ、2人で上条君のこと育ててみようよ」
「里美のために尾行してたんでしょ?」
「あ、そうだった、じゃあ里美のために育成……じゃなかった、監視しましょっ」
 食い下がる柚奈を訝しげに見て、萌愛が言った。
「出てこなかったらどうするの? 待つにしても時間潰せるところないじゃん」
 確かにそうだ。柚奈は後ろ髪を引かれる思いで陸の家を見やり、しぶしぶ駅の方に戻って行った。

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