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20.坂本知恵
3.なんとなく恋人
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夏休みが明けた頃、陸は一通りの部活を見学し終わった。いつも一緒に帰る有紀子と加奈子はテニス部だったから、待っていても夕方まで終わらない。だからここ最近は、1人で早めに帰るようになっていた。
知恵はそこを狙った。学校での陸は、いつも有紀子と加奈子といた。土日もそうだ。里美といる時もあった。加奈子や里美を怒らせると面倒そうだから、彼女らがいる時間は避けたのだ。
最近、ゲームセンターでの陸は、遊ぶゲームを変えた。早い時間帯はいつも3階にある格闘系のゲームで遊んでいるが、途中で1、2階に移動する。UFOキャッチャーとプリントシールと音ゲーしかない女の子向けのエリアだ。知恵は、陸は優しいな、と思った。自分のために安全なエリアに変えてくれたのだとすぐに分かった。
「先輩、私達付き合いませんか?」
知恵は、背もたれのない丸椅子に足を広げて座り、ももの間に両手をついて言った。騎上位を彷彿とさせる格好だ。陸の視線が一瞬下がったのを知恵は見逃さない。
男子はチラリズムに弱い。知恵は経験から知っていた。女子は、一枚貝を食べる男子にドキッとしてしまうことがある(知恵はそうだから、みんなそうだと思い込んでいる)。それと同じように、バナナやアイスキャンディを食べる女子に、男子は妄想してしまうのだ。
陸はムズムズしている。知恵は、自分が男子をムズムズさせるのが楽しくてたまらない。瞳孔が開いたようになる黒目、乱れないように深くする呼吸、平静を装う言動、陸はどこまで耐えられるのだろう。
知恵は待った。しかし、陸はなかなか落ちなかった。どうしたのだろう。他の男子だったら、もう告白してきているはず。キスだってしようとしてきているはずだ。
カラオケに移動すると、知恵は時を見計らって上目づかいで陸に顔を近づけた。透明のグロスを塗っているから、唇はとてもしっとり潤っていて、唇を重ねずにはいられないはず。なのに陸は、傷つけない程度に身を引く。でも、手をつないで次の曲を選曲する。
夏休みを経ていなければ、陸は既に落とされていたかもしれない。夏休みが終わってからだいぶ経つ。もうすぐ制服も夏服から冬服に変わる。それなのに、伊豆の海が頭を離れない。正確には有紀子と加奈子が頭から離れない。
知恵は陸を落とすつもりが、逆に落とされていた。陸が意図したわけではない。手に入りそうで入らない物に欲求を覚えるのは常だ。買物だって買うまでが楽しい。買ったらいらなくなるなんていつものこと。分かっていても買ってしまう。こんなに強い欲求って他にない。
男子が、知恵の視線や唇、悩ましい姿勢に魅了されたように、陸の視線や笑顔、力強い筋肉の躍動に、知恵が魅了された。見せていたはずの性的魅力だったのに、見られていると思うと感じてしまう。
(ヤバい、本気で好きになっちゃった)
知恵はそう思いながら、陸の視線を求めた。
知恵はそこを狙った。学校での陸は、いつも有紀子と加奈子といた。土日もそうだ。里美といる時もあった。加奈子や里美を怒らせると面倒そうだから、彼女らがいる時間は避けたのだ。
最近、ゲームセンターでの陸は、遊ぶゲームを変えた。早い時間帯はいつも3階にある格闘系のゲームで遊んでいるが、途中で1、2階に移動する。UFOキャッチャーとプリントシールと音ゲーしかない女の子向けのエリアだ。知恵は、陸は優しいな、と思った。自分のために安全なエリアに変えてくれたのだとすぐに分かった。
「先輩、私達付き合いませんか?」
知恵は、背もたれのない丸椅子に足を広げて座り、ももの間に両手をついて言った。騎上位を彷彿とさせる格好だ。陸の視線が一瞬下がったのを知恵は見逃さない。
男子はチラリズムに弱い。知恵は経験から知っていた。女子は、一枚貝を食べる男子にドキッとしてしまうことがある(知恵はそうだから、みんなそうだと思い込んでいる)。それと同じように、バナナやアイスキャンディを食べる女子に、男子は妄想してしまうのだ。
陸はムズムズしている。知恵は、自分が男子をムズムズさせるのが楽しくてたまらない。瞳孔が開いたようになる黒目、乱れないように深くする呼吸、平静を装う言動、陸はどこまで耐えられるのだろう。
知恵は待った。しかし、陸はなかなか落ちなかった。どうしたのだろう。他の男子だったら、もう告白してきているはず。キスだってしようとしてきているはずだ。
カラオケに移動すると、知恵は時を見計らって上目づかいで陸に顔を近づけた。透明のグロスを塗っているから、唇はとてもしっとり潤っていて、唇を重ねずにはいられないはず。なのに陸は、傷つけない程度に身を引く。でも、手をつないで次の曲を選曲する。
夏休みを経ていなければ、陸は既に落とされていたかもしれない。夏休みが終わってからだいぶ経つ。もうすぐ制服も夏服から冬服に変わる。それなのに、伊豆の海が頭を離れない。正確には有紀子と加奈子が頭から離れない。
知恵は陸を落とすつもりが、逆に落とされていた。陸が意図したわけではない。手に入りそうで入らない物に欲求を覚えるのは常だ。買物だって買うまでが楽しい。買ったらいらなくなるなんていつものこと。分かっていても買ってしまう。こんなに強い欲求って他にない。
男子が、知恵の視線や唇、悩ましい姿勢に魅了されたように、陸の視線や笑顔、力強い筋肉の躍動に、知恵が魅了された。見せていたはずの性的魅力だったのに、見られていると思うと感じてしまう。
(ヤバい、本気で好きになっちゃった)
知恵はそう思いながら、陸の視線を求めた。
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