愛するということ

緒方宗谷

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22.夏休みの余韻が晴れて

2.陸のいだいた有紀子への感想

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 制服を着ている有紀子は、読書が好きな静かな女子にしか見えない。スタイルの良さなんか連想できない。陸は、今日初めてスクール水着姿を見た。なぜか全ての色気を捨て去ったように見えて「くくく」と声の漏れそう笑みを浮かべる。
 そんな陸に話しかけようと振り向いた小栗が言った。
 「上条、何笑ってるんだよ」
 「いや、なんでもない」
 何か面白いことでも思いついたのか、と小栗が陸を問い詰める。それを見た寺西が言う。
 「笑い方が違うだろ、今はニヤけんるんだよ」
 「おい、上条、寺っち、誰の胸がいいと思う?」
 「知らねーよ」
 陸が突っぱねる。陸はまた「くくくっ」と笑った。小栗が訝しげに見ている。
 「だから、何がそんなに可笑しーんだよ」
 小栗の問いに答えず、陸は加奈子を見た。2人もつられて女子の方を見る。
 陸は面白い発見をした。有紀子にはスクール水着がお似合いだと思っていたが、伊豆での可愛い水着姿を見てしまったら、学校の水着が似合うなんて思えない。そこまでは良い。問題はこれからだ。
 絶対に似合わない、と思っていた加奈子にこそ、スクール水着がお似合いだ。ビギニを着ても色気が出ない何かが滲み出している。天然のガキみたいなものだ。そう思った陸は、やっぱり「くくくっ」と笑う。
 寺西の視線が桃子に釘付けになった。本人は忘れていたが、去年のプールで言ったことと同じセリフが口を突いて出る。小栗の返答も去年と同じだ。
 「木島桃子、胸デカいよな」
 「手のひらに収まんねー」
 感嘆の溜息を吐く寺西に、小栗は去年と違うことを続けて言った。
 「俺、まだ1回しかしたことねーからさー」
 そのあと話は続かなかった。小栗がチラッと寺西を見る。陸も寺西も乗ってこない。寺西がどう思ったか分からないが、陸は嘘だと思った。童貞を捨てた男の雰囲気ではない。今度はそれで笑った。
 小栗が言う。
 「だから、何で笑ってるんだよ」
 陸は、(チェリーなお前に笑ってるんだよ)と心の中で言った。
 2人が自分を羨むのもよく分かる、と陸は思った。確かに有紀子と加奈子はとても可愛い。プールにいる女子はみんな可愛かった。夏の日差しと消毒液のにおいが、彼女達に妙な魅力を与えていた。
 制服を着ていると少し太って見える綾瀬香は、実は太っていたわけではなくバストが大きいのだと気付いた寺西が唾を飲む。
 「綾瀬のやつ、なんかエロいな」
 寺西がそう言ったので、2人は見た。
 小栗が「そうだな」と真顔で答えた。
 ちょっとぽっちゃりした感じだが、胸とくびれがある。制服を着ていると分からないが、確かに魅力的だ。プールでの女子はみんな魅力的だった。
 夏休み前に、小栗と寺西の2人はプールを楽しみにしていた。「プールのために1年頑張ってきたんだ」と言っていた。陸は、確かにこの日のために1年があるんだ、と思った。

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