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25.加奈子の告白
1.気持ち
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有紀子は、加奈子の顔を見られなかった。陸が加奈子に告白した場所とは違う校舎裏に加奈子を呼び出した有紀子は、彼女に背を向けたまま心に決めていたことを口に出した。
「陸君はさ、加奈子のことがとても好きなんだね。ちょっとしたことも気が付いてくれるし、いつも見てくれている証拠だよ。陸君だって頭いいし、私みたいなバカじゃ、つり合い取れないよね。
最近気が付いたんだ、私。そんなに可愛いわけじゃないし、頭もよくないし、運動もできないし、いくら考えても、これといった取り柄もないんだよね。こんなんじゃさ、陸君とつり合い取れっこないもんね。
加奈子はすごく美人じゃない、周りの女子なんかとは一線を画するくらい圧倒的に可愛いよ。頭もいいし、成績だって真ん中よりだいぶ上じゃない?」
「何が言いたいの?」
話を止めようとする加奈子を遮って、有紀子が続ける。
「それに……それに……大学生の家庭教師とは何でもなかったんでしょ? 付き合えばいいと思うよ、とてもお似合いだもん」
「待って、私は…」
「私に遠慮しなくてもいいんだよ。2人だって仲良いし、とてもいい彼氏彼女になれると思うよ」
意外にすんなり話せている、と有紀子は思った。心が引き裂かれるほど痛くなると思ったけれど、話し始めてからはそんなでもない。一番つらかったのは、加奈子に声をかけて、裏庭に来るまでだった。
「加奈子だって陸君のこと好きでしょ? 分かるよ。振り返ると、他の男子と話する時と距離感違うもんね。
私、バカだなぁ、今まで気づかなかったなんて。私は諦めるよ、私は――」
「待って!」
加奈子が叫ぶような声を発して、有紀子は黙った。そして、間髪入れず加奈子が言った。
「ごめん、私、有紀子の気持ちには応えられないよ」
「どうして? 私のことは気にしなくていいんだよ。それどころか、応援しちゃうよ」
嘘だ。応援なんてできるわけがない。親友との関係を壊したくない有紀子は、心にもないことを言っている、と自分でも思った。今までの話全部そうだ。
加奈子が、息を殺したような声で言った。
「私は、陸君のことなんて、なんとも思っていないよ」
信じられない。有紀子の鼓膜は加奈子の声を遮断した。
思い返せば陸と加奈子は、幼馴染みの有紀子が割って入れない雰囲気を共有する時が幾度となくあった。
言葉の意味は有紀子の頭に届いていたが、心には届いていない。それを察した加奈子は、ワナワナと口を震わせる。何かに悩んでいる様子。左下を見ていたかと思うと右下に視線をやって、苦痛に顔を歪ませる。何か言おうとしてはやめ、また言おうとする。それを繰り返してから、勇気を振り絞って顔を上げ、唇を開くも声が出ず押し黙る。うつむいて顔を上げ、歯を食いしばって眉を震わせて顔を背ける。胸を圧し殺してゆっくりと大きく息を吸い、不安を追い出すかのように息を吐く。そして全てを捨てた後、追い詰められて諦めた時の絶望に滲んだような瞳で有紀子を見る。
言葉を発せられずにいる加奈子が止めた時間に耐えられなくなって、有紀子が口を開く。
「加奈子だったら許せるよ。もし加奈子が陸くんと付き合うことになっても――」
「私っっ」
堪らず加奈子が遮る。ひどく怯えた様子で。そして言った。
「私が…、私……」
うつ向いて歯を食いしばり、思いっきりまぶたを閉じる。同時に両手のこぶしを握って、塞き止められた言葉を吐こうと、顔を上げ有紀子を見据えて唇を開く。加奈子の心は、崖っぷちに追い詰められていた。
「――私が好きなのは…君なんだよ。私は…………私は……」
有紀子の時間が一瞬止まった。
「……嘘? 冗談でしょ?」
不意に聞こえた加奈子の言葉に対して、これといって意味のある返答もできずに咄嗟について出た有紀子の言葉を聞いた加奈子は、大きく目を見開いて有紀子を見つめる。溢れ出た涙が瞳を覆って揺蕩う。
「ごめん……、忘れて、今の」
目を逸らして宙を見やってから俯いた加奈子は、粉々に砕け散った心を表情に映し、震える声でそう言って背を向けた。
有紀子は、加奈子を激しく傷つけてしまったと急に思い、声をかけて呼び止める。だが、かけた声が彼女の背中に届くと同時に、その声を振り切って加奈子は走って行ってしまった。
「陸君はさ、加奈子のことがとても好きなんだね。ちょっとしたことも気が付いてくれるし、いつも見てくれている証拠だよ。陸君だって頭いいし、私みたいなバカじゃ、つり合い取れないよね。
最近気が付いたんだ、私。そんなに可愛いわけじゃないし、頭もよくないし、運動もできないし、いくら考えても、これといった取り柄もないんだよね。こんなんじゃさ、陸君とつり合い取れっこないもんね。
加奈子はすごく美人じゃない、周りの女子なんかとは一線を画するくらい圧倒的に可愛いよ。頭もいいし、成績だって真ん中よりだいぶ上じゃない?」
「何が言いたいの?」
話を止めようとする加奈子を遮って、有紀子が続ける。
「それに……それに……大学生の家庭教師とは何でもなかったんでしょ? 付き合えばいいと思うよ、とてもお似合いだもん」
「待って、私は…」
「私に遠慮しなくてもいいんだよ。2人だって仲良いし、とてもいい彼氏彼女になれると思うよ」
意外にすんなり話せている、と有紀子は思った。心が引き裂かれるほど痛くなると思ったけれど、話し始めてからはそんなでもない。一番つらかったのは、加奈子に声をかけて、裏庭に来るまでだった。
「加奈子だって陸君のこと好きでしょ? 分かるよ。振り返ると、他の男子と話する時と距離感違うもんね。
私、バカだなぁ、今まで気づかなかったなんて。私は諦めるよ、私は――」
「待って!」
加奈子が叫ぶような声を発して、有紀子は黙った。そして、間髪入れず加奈子が言った。
「ごめん、私、有紀子の気持ちには応えられないよ」
「どうして? 私のことは気にしなくていいんだよ。それどころか、応援しちゃうよ」
嘘だ。応援なんてできるわけがない。親友との関係を壊したくない有紀子は、心にもないことを言っている、と自分でも思った。今までの話全部そうだ。
加奈子が、息を殺したような声で言った。
「私は、陸君のことなんて、なんとも思っていないよ」
信じられない。有紀子の鼓膜は加奈子の声を遮断した。
思い返せば陸と加奈子は、幼馴染みの有紀子が割って入れない雰囲気を共有する時が幾度となくあった。
言葉の意味は有紀子の頭に届いていたが、心には届いていない。それを察した加奈子は、ワナワナと口を震わせる。何かに悩んでいる様子。左下を見ていたかと思うと右下に視線をやって、苦痛に顔を歪ませる。何か言おうとしてはやめ、また言おうとする。それを繰り返してから、勇気を振り絞って顔を上げ、唇を開くも声が出ず押し黙る。うつむいて顔を上げ、歯を食いしばって眉を震わせて顔を背ける。胸を圧し殺してゆっくりと大きく息を吸い、不安を追い出すかのように息を吐く。そして全てを捨てた後、追い詰められて諦めた時の絶望に滲んだような瞳で有紀子を見る。
言葉を発せられずにいる加奈子が止めた時間に耐えられなくなって、有紀子が口を開く。
「加奈子だったら許せるよ。もし加奈子が陸くんと付き合うことになっても――」
「私っっ」
堪らず加奈子が遮る。ひどく怯えた様子で。そして言った。
「私が…、私……」
うつ向いて歯を食いしばり、思いっきりまぶたを閉じる。同時に両手のこぶしを握って、塞き止められた言葉を吐こうと、顔を上げ有紀子を見据えて唇を開く。加奈子の心は、崖っぷちに追い詰められていた。
「――私が好きなのは…君なんだよ。私は…………私は……」
有紀子の時間が一瞬止まった。
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