愛するということ

緒方宗谷

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34.知恵の心の奥

2.安らぎを求めて

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 処女ではない。(表には出さないが)自己肯定感の低い知恵は、好きな男子に媚びる性格を形成していたから、経験は早かった。陸を見初めた時すでに少女ではない。アニメチックな言動からは卒業して、ギャルぽい自分を模索していた。
 ついこの間まで中学生だったとはいえ、16歳ともなればだいぶ大人の体つきになる。半分成人としての魅力と、半分子供の魅力を兼ね備えていた。だから、より武器としての女子を駆使して、陸を魅了しようと試みる。
 知恵は気が付いていなかった。知恵は陸に隷属している。本人はそれを装っている体(てい)でいるのだが、実際には違う。
 学校の男子女子のほとんどに先んじで大人になった知恵は、その方面ではみんなを見下していた。もともとコンプレックスの塊であったから、自分はみんなとは違うと思い込むことによって、我を保っている。本来は低すぎる(と思い込んでいる)自己の価値を高めていた。
 知恵は男子に対して、(どうせヤりたいだけなんでしょ? ちょっと魅力を見せればイチコロでしょ?)と思っている。多かれ少なかれ、魅力を見せて意のままに操る(とはいってもジュースをおごらせるとか、荷物を持ってもらうとか程度だが)ことによって、自信のなさを補っていた。
 陸に対しても初めはそうであった。ちょっと格好良い転校生の先輩。2年の女子にチヤホヤされているものだから、知り合いでもない陸にないがしろにされているような気になっていた。
 その気持ちを満たすために、陸を口説き落とす。同時に先輩達を見下す。そうすることでみんなに自分の可愛さを認めさせることができる(実際は自分に示すことが出来る)。その思いが暗示となって、本当に陸を好きになっていた。
 好きな気持ちは、陸と一緒にいる原動力でしかない。それが理由で上下関係の下についたわけではない。陸が起こしたケンカ事件がきっかけで、彼の獰猛な捕食者の側面を知って、精神的に征服されてしまったのだ。自分から。
 元々マゾ要素が強い子だ。矛盾するようだが、性格にはサディスト的な部分もあった。容姿に対するコンプレックスを補うためにそれを利用している。しかし、コンプレックスが無ければマゾヒストだ。だから、ケンカの強い陸の腕に包まれることによって、安寧を手にしようとしたのだ。
 陸と知恵の精神的関係が、この様に定まるのは他にも理由がある。陸には記憶喪失というコンプレックスがあるが、それは彼に破壊的な影響を与えた。
 記憶が戻れば、いつか自分は消えて無くなる。そういう恐れがあったからこそ、中学生の時は自暴自棄になって荒れていた。どうせ消えて無くなると思うと、将来に対して無責任な行動も安易にとれる。だから、はたから見ると怖いもの知らずに映ることがあった。
 陸がそのような精神状態であったことに加えて、陸と知恵の関係に決定的な影響を与えたのは、中学生の時に既に陸が少年ではなくなっていたことだ。陸は知恵同様、同年代の男子を見下していた。ある一面において。
 現状を打破してくれそうな陸の不良的要素に、知恵は魅了されていたのだ。

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