愛するということ

緒方宗谷

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36.近藤美由紀の悩み 

2.生命の歴史

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(考えると、確かにそうかもしれない)美由紀は思った。
 人間が動物だった頃、今と違って弱肉強食の底辺にいた時代があったはずだ。その時代に子孫を残そうとしたら、数を撃つ必要がある。今は悪とされている浮気も、平然と出来る者が多くの子孫を残しただろう。
 やりっぱなしで妊娠も出産も子育てもしなくて良いオスは、いたるところで交尾することが種の保存方法だった。
 それに対してメスはどうだ。1年に妊娠できる子供の数は限られているし、妊娠期間も長い。例外はあるかもしれないが、大抵のご先祖様(ねずみ?)の成体になるまでの生存確率は、著しく低かっただろう。
 オスと違って数は生めないから、おのずと良い種を選別することになる。頭脳なのか体力なのか何かしらの能力を見定めて、これだと思うオスに一点集中。そして、生んだ子供を大事に育てる。
 美由紀は、その考えを自分に当てはめてみた。
 人間と動物が違うとはいえ、ネズミから進化してサルになって人間。動物の本能も残っていると思う。他の友達には誰も不特定多数の男性と関係を持つ人はいない。もしかしたら、二股三股かけている子はいるかもしれないが、自分の様に一夜限りの関係を持つ子はいない。
 愛ちゃんですら、彼氏一筋だ。相手の浮気は多いし、愛ちゃん自身も仕事の相手は多いが、本人は一筋だと言い張っている。少なくとも、洋服をとっかえひっかえ試着するような真似はしない。
 試着? そうか試着なんだ。
 しばらくしたある日、愛ちゃんと食事した美由紀は、汚名(ヤリマン)返上とばかりに試着の話をした。
 愛ちゃんは愉快そうに、ぱぁっ、と明るい笑みを浮かべて言った。
「あー、それ面白いかも。それで、買う服は見つかったの? ポケットに札束が入っているやつ」
「んーん、全然」
「目星はついているんでしょ? 大学生なんだから、原石ってやつ? でも決めるのなら、就職した後だよね、変なの掴まされたら最悪だもん」
 愛ちゃんは笑いながら、棒状のモノを握る手つきで上下に振った。
 茶化されてしまったが、美由紀は愛ちゃんに自分はヤリマンじゃない、と認めさせたかった。
 要は、動物時代のメスは避妊のしようが無かったから、1匹のオスに運命をかける必要があったが、避妊具やピルがある今、色々な男を試して本当に良い男を見定める方法だってとれるはずだ。一途に自分を愛してくれる能力の高い男を探しているのだと、美由紀は言いたいのだ。
 だが、愛ちゃんはバカのようで頭が良かった。
「生めるのは年に1人でしょ? 変わんないじゃん、ただやってるだけ。それだったら、ただ快楽でやってるだけじゃん? てことは、ヤリマンじゃん?」
 ぐうの音も出なかった。

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