愛するということ

緒方宗谷

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40.近藤美由紀の島根略奪プロジェクト

1.観察眼

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 彩絵は、よく行くカフェで1人アップルティーを飲んでいた。
 ニスだけを塗った木の内装とテーブル、小さな観葉植物が飾られた店内で、友達が来るまでの時間つぶしと目の保養をしようと思っていた。なのに、なんという地獄だろう。
 後方のどこかの席で、元家庭教師の近藤美由紀が男の話で盛り上がっていた。店の雰囲気に合わないエロい会話で、他のお客さんが苦笑いしている。
 彩絵に関係ない話なら良い。バカげたエロ話として、話しのネタになる。だが、そうもいかなかった。なぜなら彩絵に関係大ありだったからだ。
 散々笑い転げた後、美由紀が口を開いた。まだ笑いを堪えている様子で、隠し事を打ち明ける時の嬉々とした声色で、面白おかしいところを吟味した語り口で言う。
「それでさ、何度も島根君を誘ってさー、最近いい仲になってきたんだよね」
「ホントに? え? でも島根君って彼女いなかったっけ? あのロリちゃん――」友達の1人が息を飲む。
(私のことだ)
 彩絵は瞬時に分かった。そもそも私ほどのロリコンフェイスは、この大学にはいない。そう自負していた。そのまま美由紀の話に聞き耳をたて続ける。
「正に灯台下暗しってやつ? 色々男を物色してみて、島根君って実はいい男なんじゃないって気が付いたの」
 美由紀が知っている限りでいうと、島根には彩絵を除いて今まで3人の彼女がいたらしい。彼女がいる上で飲み会に参加するのだから、誰とでもできる男かと警戒しそうなものだが、女性達の信頼はある、と言う。理性を失うほど飲まない。暗にアルコールと盛り上がった居酒屋での集まりが好きなようだ。
 実際島根は、ちょっと良い席での飲み会などには参加しない。居酒屋でワイワイ飲んで遊ぶ。大様ゲームでも何でもする。ちょっとエッチな命令もエロあほな感じで面白おかしく実行する。
 彩絵はちょっと意外に感じた。とても良いお兄さん的なイメージ(多分向こうは彩絵を妹ではなく娘と思っているが)をいだいていたからだ。
 美味しいものを飲み込むように、友達が言う。
「へー、それ、落とすの楽そうじゃないの? 美由ちゃんなら、すぐお持ち帰りじゃん」
「それが、上手くいかないのよ。へべれけのわりに結構理性残ってて、『彼女がいるから帰ります』って、45度でおじぎしながら敬礼して帰っちゃうの」 
「本当? えらーい」
「でも最近は少し違ってきたかな。隣に座るようにしてお近づきになる感じ?」少し色気を出して、美由紀が言った。
「ああ、おっぱい押し付けるんでしょ?」
「いつもの技じゃない」
 2人の友達はあきれ顔だ。
「チューまでは持ち込んだんだよね」自慢気な美由紀。
 彩絵にとって、これほどまでにショッキングな出来事は今までになかった。
(私というものがありながら、他の子とキスするなんて)
 王様ゲームのキスは、なぜがカウントに入らない。美由紀のキスだけが許せなかった。

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