愛するということ

４２．彩絵🆚美由紀

４．経済学と人生

　美由紀曰く、
「現在バイアス、認知負担、マシュマロ、機会費用、ナッジ効果、サンクコスト、その他数多の経済学があって、心理学や脳科学、神経学も駆使して、ようやく論理的客観的に投資できるのよ。
　投資したらお化けみたいな欲望や恐怖と闘わないといけないし、とても大変よ。その壮絶さはやってみれば分かるわ。
　ほら、映画でよく大富豪が多額の資産をだまし取られたとか失ったとかで突然死することだってあるでしょ？　あれだってあながちウソでもないのよ。
　ある研究によると、脳のお金に対する反応は命のやり取りをした時と同じ場所っていう結果が出ているから、投資家の受けるストレスは兵士と変わらないのね」
「えぇ？　すごく怖いじゃないですか！　私嫌ですよ」彩絵が叫ぶ。
「私は私の安売りはしないわ。特に嫌なことのために時間の切り売りや能力の切り売りはしない。大好きで楽しいことなら低賃金でもいいけどね。
　私は、私の人生を大いに楽しんで、その才能を余すことなく、更に男の能力を上乗せして子孫に託して天寿を全うするの」
　すごく壮大な人生設計だと、彩絵は思った。
　美由紀が続ける。
「でも、前に島根君が言っていたのよね。もし永遠に生きる時代が来れば、子供は必要なくなるって」
　島根が有紀子に話して聞かせたことだ。
「確かに死から解放されたら、すんごい人生変わると思うわ。でもそうなるとより一層私のような能力が必要になると思うの。
　だって、あなた達みたいな能力って、人間の脳構造上ありえないもの。あるとしたら愛着とか、若しくは同じ相手に繰り返し新たな恋愛感情を起こしているかね。
　この先、世界は日本化していくから、低賃金低利子低成長の時代になると思うわ。
　ベーシックインカムが導入されるって言う人もいるけど、財源はどこにあるの？　世界は借金まみれなのに。
　永遠に生きる時代に永遠にお金のために働くって地獄よ。好きなことの為なら別だけど、ほとんどの人は年金がもらえるまで仕方なく働いているんだから。
　だから投資商品で自分ベーシックインカムを構築して、自分の時間を生きる。博愛（多恋愛）にね」
　確かに、日本人の幸福度は低い。彩絵はテレビでそれを見たことがあったから、美由紀の言うことがあながち的外れだとは思わなかった。
　彩絵は、美由紀の話を聞き続ける。
「時代は、もうスーツを着て会社に集まって働く時代じゃなくなってるわ。まだそうしているなんて時代おくれよ。
　もう会社のために働くんじゃなくて、自分のために働かないと。あなたが人の価値基準で生きることをやめたように、会社の価値基準で働くことをやめないと。でなきゃ本当の幸せは手に入らないわ。
　私の考え方は、島根君のお世話を永遠にしたいと思っている彩絵ちゃんにも役立つはずよ」
　美由紀はそう言って、迎えに来た彼氏と一緒にカフェを後にした。
　それを見送った彩絵は思った。
「恐るべし経済学。そんな人生観もあるのね。恋愛スイッチがまだ見ぬ子供に入っているのかしら？」