愛するということ

緒方宗谷

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54.高知

4.加奈子の勇気

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「私は……私は……」
 加奈子はためらった。有紀子は完全にあきらめている。自分が頑張らなければ、真相はあやふやなままだ。
 有紀子は陸を信じていたが、加奈子は信じなかった。自分の境遇があるから仕方がない。それに、自分と同じく有紀子も信じていないとも思っていた。自分が納得するために真相を確かめたい。それが主目的である。だが、有紀子が信じて陸の胸に飛び込んで行けるようにもしてあげたい。加奈子は複雑な心境だ。
 加奈子は意を決した。
「っっ私っ――、…バイセクシャルなんだと思う、多分。そうなんだと思う。もしかしたらレズビアンかもしれないけど、何だか分からないんだけど。
 陸君は私のことを好きだって言ってくれたの。でもこの子が陸君を好きなんだ。でも私はこの子のことが、有紀子のことが好き。だからどうしても真相が知りたくてここまで来たの」
 立ち止まった大葉は振り向いて、静かに目を逸らさずに聞いていた。
 加奈子が続ける。
「私は、大好きな有紀子をひどいヤツなんかに渡したくない。それに私自身の為にも、ひどいヤツと友達でいたくない。私、一瞬でも陸君に憧れをいだいたことを後悔したくないの」
 陸への憧れ。それはどういう意味だろうか。有紀子は初耳だったから、陸のことが好きなのだと思った。複雑な気分だ。
(私にとって、加奈は陸を取り合うライバル? そして、陸君にとって、私は加奈子を取り合うライバル?)
 しかもそれぞれ幼馴染と親友だ。
 加奈子の話は続いていた。
「この心のモヤモヤを解消して、私達の関係を前進させたいの。どういう形か分からないけれど……」
 大葉が、静かに唇を開いた。
「向こうの公園に行こうよ」
 大葉はそう言って2人を案内した。3人は、自動販売機でそれぞれジュースを買って、公園のベンチに座る。有紀子はミルクティー、加奈子はカフェラテ(もちろん有紀子のおごり)、大葉はミルクセーキだった。
 ベンチに座った大葉は、缶を両手で持って、ももの間でゆっくりと左右に回しながら、唐突に話し始めた。
「中学の時さ、俺……、僕、みんなにいじめられてたんだ」
 短くも長く感じられる沈黙が流れた。
「僕、なよなよしていて女の子みたいでしょ? それで、みんなにからかわれてたの。
 みんな、僕のこと変態だって言って、……実際は別の差別的な言葉だったんだけど、いつも言葉で責めんられていたの」
 淡々と話すが、内容は壮絶なものだった。トイレの水を飲まされたり、雑巾で顔を拭かれたり、本当にひどい内容だ。
「みんな、イジメに加担するか、知らんぷりするかのどちらかだったんだけど、陸君だけは普通に話してくれたんだ」
 有紀子にとって、陸は想像通りの陸だった。
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