179 / 192
55.大葉の過去
5.相互理解
しおりを挟む
加奈子は既に寝ている。有紀子はバスの座席で1人、大葉の話を思い返していた。
「本当にひどいことをされたと思うけど、まあ、仕方がないかなって思う」
大場は、イジメをしてきた男子を非難する加奈子に苦笑いしながらそう言う。理由はこうだ。
「陸君がね、私に言ったの。あいつら不安なんだって。
女の子が男の人と2人きりになると、何かされたらどうしようって不安になることあるでしょ? 夜道で後ろを歩く男の人が怖くて逃げるとか。
男の人って、それを見て『そんなことしねーよ』って憤る人もいるらしいの。分からないのよね、力じゃかなわない女性が男性に感じる恐怖って」
確かにそうだと有紀子は思った。
大葉が続ける。
「男の人はふつう考えないでしょ? 女性に襲われることは無いし、もし襲われても力で勝てるから。
でも、自分に興味を持つ人が同姓だったらどう? もしかしたら力で敵わないかもしれないでしょ? そこは分かってあげてくれって、陸君が言うの。
直接イジメてきたやつは別にして、特別関わってこない人とか、ちょっと傷つく言葉を発してしまった人とかは、もしかしたら差別意識からじゃないかもしれないって」
セクシャリティとは違う部分で反応している。有紀子は少し分かる気がした。LGBTに対して完全に無知であった頃、加奈子に対して多少なりともの不安を感じたことがある。だが、同時に性的な恐怖は感じなかった。身体に女性を奪える特徴が無いからだ。その不安を乗り越えてしまえば、心の距離はとても縮まる。
実際、ひとえのグループは大葉にとても優しかった。女子には親しくない男子にこれ以上入ってきてほしくない、というテリトリーがあるが、ひとえをはじめ多くの女子は、大葉をそのテリトリーの中に入れてくれた。大葉を男子と認識しないでくれたのだ。
そのことを話す大葉は、当時の歓喜を思い出してとても嬉しそうだ。
確かに、加奈子の性別(性自認)が何であるかはどうでも良い。襲われないという安心(信頼)と知識の2つだけで、もとの関係を取り戻した。いや、前より絆は深まったと言っても過言ではなかった。
加奈子は本当に良い子だと思う。ずっと自分を好きでいるのに、その私を励まし彼氏を作らせる努力をしてくれた。どんな想いで、私に協力をしてきてくれたのだろう。それを知らずに、「陸君陸君」と言っていたことが恥ずかしい、と有紀子は思った。
陸が戻ってきた後も、陸に近づく手伝いをしてくれたし、里美や知恵が現れた時は、矢面に立って対峙してくれた。有紀子はずっと守られてきたのだ。
わざわざ高知まで来るほど自分を想ってくれている。高知まで来て得る物の中に、私を手に入れる、という結果は無い。
加奈子は、自分自身のためにと言っていたが、もう一つの理由の方が本命だろう。有紀子の為なのだ。陸の性格を確かめて、有紀子を渡して良いかどうか判断するために高知まで来た。ここまで人のために頑張れるなんてすごい。逆の立場だったら出来るだろうか、と有紀子は自問する。
出来ないかもしれないが、出来ないとは思わないようにした。出来なくても、北海道でも沖縄でも来ようと思った。できれば国内で収めてほしいとも願ったが。
本当に加奈子が大大大の大親友で良かった。私を好きになってくれた女の子が加奈子で良かった、と有紀子は心底思う。とても心安らかで、とても愛おしいような気持ちを加奈子にいだいて、有紀子は眠りについた。
「本当にひどいことをされたと思うけど、まあ、仕方がないかなって思う」
大場は、イジメをしてきた男子を非難する加奈子に苦笑いしながらそう言う。理由はこうだ。
「陸君がね、私に言ったの。あいつら不安なんだって。
女の子が男の人と2人きりになると、何かされたらどうしようって不安になることあるでしょ? 夜道で後ろを歩く男の人が怖くて逃げるとか。
男の人って、それを見て『そんなことしねーよ』って憤る人もいるらしいの。分からないのよね、力じゃかなわない女性が男性に感じる恐怖って」
確かにそうだと有紀子は思った。
大葉が続ける。
「男の人はふつう考えないでしょ? 女性に襲われることは無いし、もし襲われても力で勝てるから。
でも、自分に興味を持つ人が同姓だったらどう? もしかしたら力で敵わないかもしれないでしょ? そこは分かってあげてくれって、陸君が言うの。
直接イジメてきたやつは別にして、特別関わってこない人とか、ちょっと傷つく言葉を発してしまった人とかは、もしかしたら差別意識からじゃないかもしれないって」
セクシャリティとは違う部分で反応している。有紀子は少し分かる気がした。LGBTに対して完全に無知であった頃、加奈子に対して多少なりともの不安を感じたことがある。だが、同時に性的な恐怖は感じなかった。身体に女性を奪える特徴が無いからだ。その不安を乗り越えてしまえば、心の距離はとても縮まる。
実際、ひとえのグループは大葉にとても優しかった。女子には親しくない男子にこれ以上入ってきてほしくない、というテリトリーがあるが、ひとえをはじめ多くの女子は、大葉をそのテリトリーの中に入れてくれた。大葉を男子と認識しないでくれたのだ。
そのことを話す大葉は、当時の歓喜を思い出してとても嬉しそうだ。
確かに、加奈子の性別(性自認)が何であるかはどうでも良い。襲われないという安心(信頼)と知識の2つだけで、もとの関係を取り戻した。いや、前より絆は深まったと言っても過言ではなかった。
加奈子は本当に良い子だと思う。ずっと自分を好きでいるのに、その私を励まし彼氏を作らせる努力をしてくれた。どんな想いで、私に協力をしてきてくれたのだろう。それを知らずに、「陸君陸君」と言っていたことが恥ずかしい、と有紀子は思った。
陸が戻ってきた後も、陸に近づく手伝いをしてくれたし、里美や知恵が現れた時は、矢面に立って対峙してくれた。有紀子はずっと守られてきたのだ。
わざわざ高知まで来るほど自分を想ってくれている。高知まで来て得る物の中に、私を手に入れる、という結果は無い。
加奈子は、自分自身のためにと言っていたが、もう一つの理由の方が本命だろう。有紀子の為なのだ。陸の性格を確かめて、有紀子を渡して良いかどうか判断するために高知まで来た。ここまで人のために頑張れるなんてすごい。逆の立場だったら出来るだろうか、と有紀子は自問する。
出来ないかもしれないが、出来ないとは思わないようにした。出来なくても、北海道でも沖縄でも来ようと思った。できれば国内で収めてほしいとも願ったが。
本当に加奈子が大大大の大親友で良かった。私を好きになってくれた女の子が加奈子で良かった、と有紀子は心底思う。とても心安らかで、とても愛おしいような気持ちを加奈子にいだいて、有紀子は眠りについた。
0
あなたにおすすめの小説
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
すべてはあなたの為だった~狂愛~
矢野りと
恋愛
膨大な魔力を有する魔術師アレクサンダーは政略結婚で娶った妻をいつしか愛するようになっていた。だが三年経っても子に恵まれない夫妻に周りは離縁するようにと圧力を掛けてくる。
愛しているのは君だけ…。
大切なのも君だけ…。
『何があってもどんなことをしても君だけは離さない』
※設定はゆるいです。
※お話が合わないときは、そっと閉じてくださいませ。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
某国王家の結婚事情
小夏 礼
恋愛
ある国の王家三代の結婚にまつわるお話。
侯爵令嬢のエヴァリーナは幼い頃に王太子の婚約者に決まった。
王太子との仲は悪くなく、何も問題ないと思っていた。
しかし、ある日王太子から信じられない言葉を聞くことになる……。
幸せな番が微笑みながら願うこと
矢野りと
恋愛
偉大な竜王に待望の番が見つかったのは10年前のこと。
まだ幼かった番は王宮で真綿に包まれるように大切にされ、成人になる16歳の時に竜王と婚姻を結ぶことが決まっていた。幸せな未来は確定されていたはずだった…。
だが獣人の要素が薄い番の扱いを周りは間違えてしまう。…それは大切に想うがあまりのすれ違いだった。
竜王の番の心は少しづつ追いつめられ蝕まれていく。
※設定はゆるいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる