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一年生の二学期
第十八話 おやつ
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奈緒が、体育館を見渡しながら、しみじみと微笑む。
「でもずっと絵を描いてると肩こっちゃう。ここいらへんが かちこちになる」と、肩をもんで眉を八の字に下げた。
春樹も奈緒の視線の先を見やる。
「ああ、俺も。バスケに没頭してると時間忘れて3ポイントの練習とかしてる。ずっとボール掲げて上向いてるから、もう首痛くって痛くって」
それを聞いたこの子が、目を輝かせた。
「戸田さんにお願いすればいいよ」
「誰それ」
「C組の?」
南が訊くと、奈緒が「ううん」と首を振って続けて、「違う。戸田さん」変なものを見るような目で言った。
「どの戸田さん?」
「戸田さん。なんで分からないの。針灸指圧の 戸田さん。わたしはいつもしてもらっているよ。そうしないと 固まってしまうから。ボランティアでしてくれて千円なの」
「ああ、動かないからね。でも健常者は無理でしょ。普通に行ったら、四、五千円はいくよ」
「あらやだ高い」奈緒が眉間にしわを寄せた。
ちょうどその時、野口先生の呼ぶ声がする。
奈緒が、「はーい。待ってくださぁい」と叫んで慌てて立ち上がり、二人に別れを告げる。
軽く背伸びをした春樹が言った。
「じゃあ、俺もバスケに戻るかな」
「うん」とそっけない返事をしてその場を動こうとしない短髪の少女を見やった彼は、しばしそこに留まって、南がプレイしていた卓球台を見やる。
そんな二人に、奈緒は「ばいばい」と手を振って背を向けた。しばらくしてから、スタート位置について手を上げる。
「成瀬いきまあす」
でんぐり返しをしたり、平均台の横を歩いたりして、くるくる回った後、ふらついて野口先生に支えられた。そのままずるずる下がっていって、しりもちをつく。そしてけらけら笑って先生にお礼を言うと、なにやら春樹と話している南のもとに、もう一度加わりに行った。
「なになに、なに話してるの?」
奈緒は、笑い転げそうなさまで訊くが、南は神妙な面持ちを崩さない。
「ねえ、成瀬」と真面目な面持ちで声を発し、「一昨日屋上で、もういじめられていないって言っていたけど、嘘だよね」と訊ねた。
奈緒の顔が強張る。そして艱難辛苦を隠すような無理に作った笑みを浮かべて訊き返した。
「んふ、なんでそう言うの?」
南が答える前に、春樹が口を開く。
「それ、俺も心配してた。なんか妙に空気がよどむって言うか、なんか感じる時あるんだよね。見てると、これと言って何事もないからスルーしてたけど、実際どうなの?」
「どうもないよ」奈緒が困った顔のような笑顔を作る。
「我慢しなくていいんだよ」
南が奈緒の顔をのぞき込むと、この子は首を傾げて答えた。
「でもずっと絵を描いてると肩こっちゃう。ここいらへんが かちこちになる」と、肩をもんで眉を八の字に下げた。
春樹も奈緒の視線の先を見やる。
「ああ、俺も。バスケに没頭してると時間忘れて3ポイントの練習とかしてる。ずっとボール掲げて上向いてるから、もう首痛くって痛くって」
それを聞いたこの子が、目を輝かせた。
「戸田さんにお願いすればいいよ」
「誰それ」
「C組の?」
南が訊くと、奈緒が「ううん」と首を振って続けて、「違う。戸田さん」変なものを見るような目で言った。
「どの戸田さん?」
「戸田さん。なんで分からないの。針灸指圧の 戸田さん。わたしはいつもしてもらっているよ。そうしないと 固まってしまうから。ボランティアでしてくれて千円なの」
「ああ、動かないからね。でも健常者は無理でしょ。普通に行ったら、四、五千円はいくよ」
「あらやだ高い」奈緒が眉間にしわを寄せた。
ちょうどその時、野口先生の呼ぶ声がする。
奈緒が、「はーい。待ってくださぁい」と叫んで慌てて立ち上がり、二人に別れを告げる。
軽く背伸びをした春樹が言った。
「じゃあ、俺もバスケに戻るかな」
「うん」とそっけない返事をしてその場を動こうとしない短髪の少女を見やった彼は、しばしそこに留まって、南がプレイしていた卓球台を見やる。
そんな二人に、奈緒は「ばいばい」と手を振って背を向けた。しばらくしてから、スタート位置について手を上げる。
「成瀬いきまあす」
でんぐり返しをしたり、平均台の横を歩いたりして、くるくる回った後、ふらついて野口先生に支えられた。そのままずるずる下がっていって、しりもちをつく。そしてけらけら笑って先生にお礼を言うと、なにやら春樹と話している南のもとに、もう一度加わりに行った。
「なになに、なに話してるの?」
奈緒は、笑い転げそうなさまで訊くが、南は神妙な面持ちを崩さない。
「ねえ、成瀬」と真面目な面持ちで声を発し、「一昨日屋上で、もういじめられていないって言っていたけど、嘘だよね」と訊ねた。
奈緒の顔が強張る。そして艱難辛苦を隠すような無理に作った笑みを浮かべて訊き返した。
「んふ、なんでそう言うの?」
南が答える前に、春樹が口を開く。
「それ、俺も心配してた。なんか妙に空気がよどむって言うか、なんか感じる時あるんだよね。見てると、これと言って何事もないからスルーしてたけど、実際どうなの?」
「どうもないよ」奈緒が困った顔のような笑顔を作る。
「我慢しなくていいんだよ」
南が奈緒の顔をのぞき込むと、この子は首を傾げて答えた。
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