FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の二学期

🍭

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 何かを言いかけた南に、歯を見せて紅唇の端を上げた奈緒は、続けざまに眉間にしわを寄せて言った。
「そこにいやな子共がいた。小生意気なやつ。そいつがわたしに言うの。な ん て? 君の絵は三十点だねって。僕のお父さんは 美大を首席で卒業して いるんだって。だからわたしは、お父さんがすごく ても、なんとかくんは描けますかって訊いた。そしたら、あ な た は いいですねって言うから、なんで? って訊いたら、僕は 小さいころから お父さんに 教えてもらっていて いろ いろな “こんくろう”で入賞したって 言うの。才能もあるし どこに出しても百点満点だから、困るんだって。三十点のあなたは、ちょっとやれば評価されるけど、百点の僕は、ゼロからの スタートになるんだよ、だって。絵描きはみんないじわるよ。絵のことで自分もいじわるされてきたから、人にもするのね、きっと。他のお絵描き教室でされて、こっちに来たの」
「そうなんだ」
「知らないけど」
「知らないんだ……」南が閉口する。
「六年生の春休み、お絵描き教室を卒業する時のお食事会で 先生が言うの。みんなそこそこの点数を取ってきた“こどもどち”なんだけど、一人だけ なにを 書かせても だめな人がいたの。一人定員オーバーだから、一番絵の下手な この子に 三十点あげて落としましょうって言ったんだって。そしたら経営者の人が、いやいや、そんなことやめてください。入学金とお月謝が大事 だから、この子も合格させてあげてくださいって説得して、それで絵が下手でも入れてあげた子がいたのだけれど、それがあなたよ、だって。失礼しちゃうわ。でも しょうがないわよね、三十点 だもの。 でもいいの、わたし描ける だけで 幸せだもの」
 そう語りながら、奈緒は絵をカーペットの上に並べて、南に見せた。
 言葉が途切れたのに気がついて、南が口を開く。
「ほとんどの絵は、風景画なんだね。美術室とか校庭とか。根っこの絵はどうしたの?」
「根っこの絵? なんで?」
 きょとんとした様子で訊き返す奈緒から、南は視線をそらして首を傾げた。
 この子は、日が暮れるまで美術部の話を思い出しながら、しどろもどろ話し続け、南はやさしく傾聴し続けた。
 空色の変化に気がついた二人が部屋を出て一階に下りる。
「おかあさん、駅まで送ってくる」奈緒が玄関から叫んだ。
 奥から聞こえてきた「気をつけてね」という声が途切れるのを待って、南が「お邪魔しました」と大きな声であいさつをしてから、奈緒に言った。
「いいよ、近いから」
「ううん、送らせて」
 そう言って玄関に設置されたぼつぼつした黒い骨子にオレンジ色に染められた木の皮を編んだ背もたれと座板のスティールチェアーに座った奈緒は、白地で、ワンポイントにピンクの四つ葉のクローバーが付いたスニーカーを履く。
 それを眺めていた南が訊く。
「奈緒の靴、マジックテープなんだね」
「うん、本当はひもが いいんだけれど も、ほどけると結べないから。それに あぶない」
「なるほど」
 奈緒はマジックテープをとめて、「どっこいどっこいどっこいしょー」と立ち上がり、顔を出した母親に大きく手を振って玄関を出た。




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