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一年生の三学期
第七十三話 春樹の機転
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「あ、こら、待ちなさい」
ロビーに響き渡った野太い声に、だれもが注目した。
半身不随の身を絡めとるみんなの視線を引きずりながら、奈緒が階段を目指して駆け出していた。
すぐに捕まえられるほどの遅さだったが、追いかける警官たちは、全く手を出さない。身体に障がいを抱えているのは明らかだったから、なにも出来ないと高をくくっているのか、それとも安全のための配慮なのだろう。
奈緒が階段を上り始めると、たまたま下りてきた警官が、下から呼び止める警官に呼応するようにして、踊り場から一段下りたところでがに股に足を開き、両手を広げて進路を塞ぐ。
「どいてください。そ こ を 通りま す」
この子はそう言って、左右にフェイントを入れて右から抜けようとする。だが、上にいた警官に肩を押さえつけられた。強引な突破を試みるもびくともしない。すると今度は、いやいやをするようにもがきながら、反対側に回ろうとした。
後ろから悠々とした足取りで上がってきた警官にも肩を押さえられて、身動きが取れなくなると、絞られた布巾が水を吹き出すように悲鳴を上げる。
「いやーーーっっっ!! 放して。は な し て。助けて、南ちゃーん」
急に暴れだすと、ぼすぼすと上にいた警官の脇腹を殴りながら、左足を突っ張らせて上半身を持ち上げ、右肩で後ろにいた警官の顎にアッパーをかます。
障がいがある上に女子高生であることも相まってか、取り囲んだ警官たちは、奈緒を羽交い絞めにするような手荒な真似はせず、肩や手首に指を添える程度にとどめていた。
女の絶叫が響き渡って、一階フロアが騒然としていた。民間人は奈緒たちしかいなかったが、警官たちが遠巻きに見物している。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
奈緒が体を痙攣させて、腕を胸の前で折りたたみ、足をまっすぐ強張らせて四肢を硬直させた。
取り押さえる警官の指が力を込めていなかったこともあってか、少女の身が、伸ばされた腕の中から零れ落ちた。
「あっ」叫ぶ警官の横を、倒れる棒のように奈緒の体が頭から落ちていく。
即座に反応して階段を駆け上った春樹が、すんでのところで受け止めて膝をついた。
「奈緒、おい、奈緒、どうした奈緒」
焦りを帯びた声をかけて身を揺する。だが反応はない。
奈緒は、薄眼を開けながらも白目をむいていて、眼振しているように見える。呼吸困難を起こしているかのように、「はっ、はっ、はっ、はっ」と、浅い呼吸を繰り返していた。
ロビーに響き渡った野太い声に、だれもが注目した。
半身不随の身を絡めとるみんなの視線を引きずりながら、奈緒が階段を目指して駆け出していた。
すぐに捕まえられるほどの遅さだったが、追いかける警官たちは、全く手を出さない。身体に障がいを抱えているのは明らかだったから、なにも出来ないと高をくくっているのか、それとも安全のための配慮なのだろう。
奈緒が階段を上り始めると、たまたま下りてきた警官が、下から呼び止める警官に呼応するようにして、踊り場から一段下りたところでがに股に足を開き、両手を広げて進路を塞ぐ。
「どいてください。そ こ を 通りま す」
この子はそう言って、左右にフェイントを入れて右から抜けようとする。だが、上にいた警官に肩を押さえつけられた。強引な突破を試みるもびくともしない。すると今度は、いやいやをするようにもがきながら、反対側に回ろうとした。
後ろから悠々とした足取りで上がってきた警官にも肩を押さえられて、身動きが取れなくなると、絞られた布巾が水を吹き出すように悲鳴を上げる。
「いやーーーっっっ!! 放して。は な し て。助けて、南ちゃーん」
急に暴れだすと、ぼすぼすと上にいた警官の脇腹を殴りながら、左足を突っ張らせて上半身を持ち上げ、右肩で後ろにいた警官の顎にアッパーをかます。
障がいがある上に女子高生であることも相まってか、取り囲んだ警官たちは、奈緒を羽交い絞めにするような手荒な真似はせず、肩や手首に指を添える程度にとどめていた。
女の絶叫が響き渡って、一階フロアが騒然としていた。民間人は奈緒たちしかいなかったが、警官たちが遠巻きに見物している。
「うっ、うっ、うっ、うっ」
奈緒が体を痙攣させて、腕を胸の前で折りたたみ、足をまっすぐ強張らせて四肢を硬直させた。
取り押さえる警官の指が力を込めていなかったこともあってか、少女の身が、伸ばされた腕の中から零れ落ちた。
「あっ」叫ぶ警官の横を、倒れる棒のように奈緒の体が頭から落ちていく。
即座に反応して階段を駆け上った春樹が、すんでのところで受け止めて膝をついた。
「奈緒、おい、奈緒、どうした奈緒」
焦りを帯びた声をかけて身を揺する。だが反応はない。
奈緒は、薄眼を開けながらも白目をむいていて、眼振しているように見える。呼吸困難を起こしているかのように、「はっ、はっ、はっ、はっ」と、浅い呼吸を繰り返していた。
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