FRIENDS

緒方宗谷

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一年生の三学期

第八十一話 南の父親

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 解体目前の様相を呈する昭和のアパートの二階。その一番奥にある203号室は、間違いなく南の住むであろう部屋だった。奈緒は務を押して、恐る恐る一歩、二歩、と歩みだす。
 ノブを引っ張ればまるごと外れてしまいそうな、ささくれたおんぼろのドアの前に立つと、四人は顔を見合わせあって口をつぐむ。そしてドアを見据える。令和の時代に、こんな家がまだ残っているなんて、みんなには信じられないのか、誰もが言葉を唾に混ぜて飲み込む。
 各々が確認するように、もう一度表札を見やる。闇夜の中でもはっきりと肉眼で読める表札の文字は、間違いなく『小沢』と書き示してある。その手書きの表札に四人の目が張り付いて、そのまま視線を釘づけた。
 誰もが躊躇する中、奈緒だけが一点を見据えている。その視線の先にある壁には、インターホンとは呼べない小さなブザーがついていた。務の背中から弓なりにそらした人差し指を伸ばして、恐る恐るボタンを押す。誰もが予想した音。つまりは、ブー、という鼻にかかった音がした。
「南! 南か!」
 奥から男の声がした直後、重い物が転げるドタバタとした音が響いて、ドアと廊下を揺らす。そしてしばらくして鈍い音がして鍵が開き、思いのほか滑らかにドアが開いた。
「南――て、誰だ、あんたたち」
 出てきた男は、初見三十代後半といったところで、ここにいる誰よりも身長が高い。
「はぁ、はぁ、はぁ……南は、南はいないのかよぉ」
 男は四人を見渡して、がっかりした様子を見せ、大きくうなだれる。肩で呼吸するような荒い喘鳴を繰り返えしてバランスを崩して、ドアの枠に寄りかかった。
「あの、大丈夫ですか? どこかご病気ですか?」務がすかさず声をかける。
「大丈夫じゃないよ、もう死にそうなんだ」
 思わぬ事態に、みんながたじろぐ。
「どうしよう……。救急車呼ぶ?」
 おろおろする杏奈に、男が言った。
「君たちは、はぁはぁ……南の友達か? そうか、娘の南がいつもお世話になっている。今日は帰りが遅くてね。バイトかなにかかだとは思うんだが、俺もこんなだし、もてなすことが出来ない。非礼をお詫びするよ、申し訳ない。はぁはぁ」
 無理して作った笑顔が手負いの戦士のようで格好良くもあり、少し色っぽさを感じさせる。つらさからくるのか汗ばんだ肌が、それを助長していた。
 杏奈は、思わず見惚れてまばたきを忘れかのようだ。






 
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