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一年生の三学期
第八十二話 アルコール中毒の患者
しおりを挟む春樹が、少し冷めた雰囲気の色を声に溶かして発した。
「このままじゃ、身を滅ぼしますよ。脳だっておかしくなっちゃうだろうし、肝臓もボロボロになっちゃうだろうし」
「うん」と杏奈が頷く。「アルコール自体もすごい毒性だけれど、それを代謝する過程でできる成分には、もっとすごい毒性があるんだって。その手の震えも中毒症状じゃないかしら」
「とりあえず、缶詰食べよう。おなか一杯になったら治るかも」と奈緒もアドバイス。
神妙な面持ちの務が口を開く。
「南さんのことが解決したら、一度病院に行ったほうがいいですよ。南さんだってとても心配しているだろうし、早く立ち直って、立派な父親の姿を見せていやってください」
四人から、寄って集って散々同情の念を注がれた父親は、みじめさを感じたのか顔を歪めると、動悸が全身に及んでいるのかと思わんばかりに全身が震えだした。そして、いつまでたっても収まらない息切れの合間に大きく息を吸うと、突然怒りだした。
「なんだよ、お前らがそんなに言うから、飲みたくなっちまったじゃんかよう。責任取れよ、取ってビール買って来いよ」
泣きべそをかくように崩れ落ちる。
「だから、これ以上のまないほうがいいですから」務が答えた。
「なんでだよ。これ以上って、まだ一滴も飲んでねぇよ。酒臭くねぇだろよ」
そう言って、務に呼気を吐きかける。
「……お酒のにおいしますけど」
「昨日のだよ。さっき起きてからは飲んでねぇって」
「だめ です」奈緒が叫んだ。「わたしだって、南ちゃんに甘いものだめですって言われて、我慢して いますから、 お父さんも我慢 な さ い」
一音一音の間に妙な間があって、母親が子供を諭すように見える。
突然叱られてびっくりした様子のアル中男が、眉間に眉を寄せて頭をそらした。
「酒なんて、誰でも飲んでんだろうよ、南だって、ヤニ吸いながらビール飲んでたしよ。そのくせ、俺には酒飲むななんて言いやがって。あいつは俺のことが嫌いなんだ。だから、せっかく買った酒も奪って隠しちまうんだ。もしかしたら、あいつが隠れて全部飲んじまったのかもしれねぇ」
「そんな……」杏奈が言葉に詰まる。
「どうせ、お前らだって俺見て、ダメ人間だって思ってんだろ。傷つくんだよ、そんな目で見られるとさぁ。こんなにつらい目に遭ったら、もう飲まないわけにいかないじゃんか」
いじけた様子で唇を突き出す大の大人を目の当たりにして、四人はどうしていいか分からず、途方に暮れた。
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