401 / 838
二年生の一学期
🌸
しおりを挟む
橋の右側に据えられたフェンスの向こうに赤桃色に咲き乱れる桜の木があったが、みんなは左を見ていたので、またも奈緒の瞳にしか映らなかった。この子は何かを言おうとした直後、虎色のロープで規制された敷地に桜並木道があるのが見えた。
「あ、ほら、桜たくさん」奈緒が教える。
みんなが振り返った時にはもう通り過ぎていたが、細い木々の間隙を縫って、赤白い花が咲くさまが窺えた。
脱力した春樹が、仙骨座りになるまでうなだれる。
「ああ、また見逃した。俺の黒磯桜巡りはこれでおしまいなのか」
「帰りに見ていこうね」奈緒が柔和な微笑を浮かべて慰める。
右にある私道らしき砂利敷きの道の前でジャンボタクシーが停まって車から降りると、みんなは示し合わせたように今来た道の方角を見やる。そして誰もが口を閉ざして、南をねめつけた。
「あ、なによ、みんな桜は見落としたくせに、なんて目ざとい」南ドン引き。
奈緒が、スマホで調べ始めた杏奈の手元を見やって口を開く。
「あるじゃん、バス。地域のやつ」
「バス停出てこないね」杏奈が呟く。
検索をかけ直す彼女に代わって、務が口を開いた。
「周遊タクシーかな? 一時間前までに連絡すると来てもらえるみたいだね」
自分のスマホに示された文字に視線を走らせて、車窓から見えたバス停らしきものについて説明する。
「なはは、時代は移り行くものだね」
南は笑ったが誰も笑わない。いっとき気まずい空気がそよそよ流れて、仕方なさそうにしょんぼり肩を落とす。そして手のひらを眼前で合わせて、嘆くように声を上げた。
「ごめーん、自販機あったから許して」
「昨日西朋で、たくさん買って きましたよ」奈緒が冷たくあしらう。
春樹が笑った。
「あの自販機そもそもが遠すぎて、買いに戻れないけどな」
「まあまあまあ、そんなことおっしゃらないで。貸別荘は格別だから、とりあえず見に行こうよ」
南がそうお伺いを立ててエスコートを申し出ると、奈緒たちは若芽が鮮やかな緑に萌える林の中へと足を踏み入れた。
「あ、ほら、桜たくさん」奈緒が教える。
みんなが振り返った時にはもう通り過ぎていたが、細い木々の間隙を縫って、赤白い花が咲くさまが窺えた。
脱力した春樹が、仙骨座りになるまでうなだれる。
「ああ、また見逃した。俺の黒磯桜巡りはこれでおしまいなのか」
「帰りに見ていこうね」奈緒が柔和な微笑を浮かべて慰める。
右にある私道らしき砂利敷きの道の前でジャンボタクシーが停まって車から降りると、みんなは示し合わせたように今来た道の方角を見やる。そして誰もが口を閉ざして、南をねめつけた。
「あ、なによ、みんな桜は見落としたくせに、なんて目ざとい」南ドン引き。
奈緒が、スマホで調べ始めた杏奈の手元を見やって口を開く。
「あるじゃん、バス。地域のやつ」
「バス停出てこないね」杏奈が呟く。
検索をかけ直す彼女に代わって、務が口を開いた。
「周遊タクシーかな? 一時間前までに連絡すると来てもらえるみたいだね」
自分のスマホに示された文字に視線を走らせて、車窓から見えたバス停らしきものについて説明する。
「なはは、時代は移り行くものだね」
南は笑ったが誰も笑わない。いっとき気まずい空気がそよそよ流れて、仕方なさそうにしょんぼり肩を落とす。そして手のひらを眼前で合わせて、嘆くように声を上げた。
「ごめーん、自販機あったから許して」
「昨日西朋で、たくさん買って きましたよ」奈緒が冷たくあしらう。
春樹が笑った。
「あの自販機そもそもが遠すぎて、買いに戻れないけどな」
「まあまあまあ、そんなことおっしゃらないで。貸別荘は格別だから、とりあえず見に行こうよ」
南がそうお伺いを立ててエスコートを申し出ると、奈緒たちは若芽が鮮やかな緑に萌える林の中へと足を踏み入れた。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
アルファポリスとカクヨムってどっちが稼げるの?
無責任
エッセイ・ノンフィクション
基本的にはアルファポリスとカクヨムで執筆活動をしています。
どっちが稼げるのだろう?
いろんな方の想いがあるのかと・・・。
2021年4月からカクヨムで、2021年5月からアルファポリスで執筆を開始しました。
あくまで、僕の場合ですが、実データを元に・・・。
彼女に振られた俺の転生先が高校生だった。それはいいけどなんで元カノ達まで居るんだろう。
遊。
青春
主人公、三澄悠太35才。
彼女にフラれ、現実にうんざりしていた彼は、事故にあって転生。
……した先はまるで俺がこうだったら良かったと思っていた世界を絵に書いたような学生時代。
でも何故か俺をフッた筈の元カノ達も居て!?
もう恋愛したくないリベンジ主人公❌そんな主人公がどこか気になる元カノ、他多数のドタバタラブコメディー!
ちょっとずつちょっとずつの更新になります!(主に土日。)
略称はフラれろう(色とりどりのラブコメに精一杯の呪いを添えて、、笑)
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
『お兄ちゃんのオタクを卒業させてみせるんだからね❤ ~ブラコン妹と幼馴染オタク姫の果てしなき戦い~』
本能寺から始める常陸之介寛浩
青春
「大好きなはずなのに……! 兄の『推し活』が止まらない!?」
かつて、私は信じていた。
優しくて、頼もしくて、ちょっと恥ずかしがり屋な──
そんな普通のお兄ちゃんを。
でも──
中学卒業の春、
帰ってきた幼馴染みの“オタク姫”に染められて、
私のお兄ちゃんは**「推し活命」**な存在になってしまった!
家では「戦利品だー!」と絶叫し、
年末には「聖戦(コミケ)」に旅立ち、
さらには幼馴染みと「同人誌合宿」まで!?
……ちがう。
こんなの、私の知ってるお兄ちゃんじゃない!
たとえ、世界中がオタクを称えたって、
私は、絶対に──
お兄ちゃんを“元に戻して”みせる!
これは、
ブラコン妹と
中二病オタク姫が、
一人の「兄」をめぐって
全力でぶつかり合う、果てしなき戦いの物語──!
そしていつしか、
誰も予想できなかった
本当の「大好き」のカタチを探す、
壮大な青春ストーリーへと変わっていく──。
怪我でサッカーを辞めた天才は、高校で熱狂的なファンから勧誘責めに遭う
もぐのすけ
青春
神童と言われた天才サッカー少年は中学時代、日本クラブユースサッカー選手権、高円宮杯においてクラブを二連覇させる大活躍を見せた。
将来はプロ確実と言われていた彼だったが中学3年のクラブユース選手権の予選において、選手生命が絶たれる程の大怪我を負ってしまう。
サッカーが出来なくなることで激しく落ち込む彼だったが、幼馴染の手助けを得て立ち上がり、高校生活という新しい未来に向かって歩き出す。
そんな中、高校で中学時代の高坂修斗を知る人達がここぞとばかりに部活や生徒会へ勧誘し始める。
サッカーを辞めても一部の人からは依然として評価の高い彼と、人気な彼の姿にヤキモキする幼馴染、それを取り巻く友人達との刺激的な高校生活が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる