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二年生の一学期
第百三十三話 裸
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5人がログハウスに戻ってきて洗い物を終えたころには、もう空から暗い色が降りてきて、辺りは闇の中に沈んでいた。
リビングに移動した春樹がソファに座って背もたれに右肘をのせて身をねじらせると、窓の外に視線を向けて、何気にぼんやりとしたまなこで見つめ続ける。
「街灯もなんにもないと、こんなに真っ暗になるんだな。しかも虫の音色がすげぇでかい。遠くで鳴いてるようなのに、すぐ耳元で鳴いてるように聞こえる。家の中にいんじゃね?」
「やっぱり都会とは違うよね」務が紅茶の入った木のカップを二つ両手に持って来て、隣に座る。「ここまで聞こえてはこなかったけれど、辺りには車の音や街の喧騒なんかが溶けて混じって、森を包んでいたんだと思う。日が暮れてそれがなくなったから、真の静寂が訪れたんだろうね」
「ああ、だから葉のかすれる音とか、虫の声とか、すんごいボリュームで聞こえんだな」
窓のそばにいた奈緒が、ぱたぱたともっさりスリッパを床に擦らせて、ダイニングテーブルの向こうに走って行く。その表情は魂を削るような様子だ。
「ねえ南ちゃん、なんか聞こえる。なんか聞こえる」
「なに? フクロウとか虫の音とか」
「ちがう」
みんなが耳を澄ませてみると、グゴゴゴゴ、グゴゴゴゴ、と獣の唸り声が聞こえる。なにかが縄張りを争っているかのような声の応酬。どこから響いてくるのか分からない二つのくぐもった咆哮に、奈緒が怯えた。
「ほら、これ。なんか聞こえる」
「ん? ああ、これ気にしなくていいよ」
気にも留めない様子の南に、緊張した様子の春樹が訊く。
「熊でもいるんじゃねーか?」
「「えーっ⁉」」
奈緒と杏奈が同時に叫んで二人して抱きしめ合い、不安そうな眼差しを南に送る。
「違う違う。木の音だから大丈夫」
「どういうこと?」務が訊いた。
「これ、木が風で揺れてきしむ音なの。わたしも小さいころ怖くて、おばあちゃんにしがみついてた」
室内の明かりで照らし出されているのはバルコニーや軒下までで、庭の大半と私道との境付近は深遠な暗闇の中に埋没している。窓際に近づいた奈緒が、闇の中をなんとか見通そうとするかのように目を凝らしていると、クラシック音楽のカノン[作曲:ヨハン・パッヘルベル]が流れて、お風呂が沸きましたという電子的な女性の声が聞こえた。
南が壁へばりついたお風呂のコントローラーを見やってから、春樹に声をかける。
「高木が先に入る? 昼間燻製状態だったから、お肌気持ち悪いんじゃない?」
「誰のせいで……でも確かに煙に燻されてにおいついちゃってるな。いいなら俺が最初に入る」
リビングに移動した春樹がソファに座って背もたれに右肘をのせて身をねじらせると、窓の外に視線を向けて、何気にぼんやりとしたまなこで見つめ続ける。
「街灯もなんにもないと、こんなに真っ暗になるんだな。しかも虫の音色がすげぇでかい。遠くで鳴いてるようなのに、すぐ耳元で鳴いてるように聞こえる。家の中にいんじゃね?」
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「ああ、だから葉のかすれる音とか、虫の声とか、すんごいボリュームで聞こえんだな」
窓のそばにいた奈緒が、ぱたぱたともっさりスリッパを床に擦らせて、ダイニングテーブルの向こうに走って行く。その表情は魂を削るような様子だ。
「ねえ南ちゃん、なんか聞こえる。なんか聞こえる」
「なに? フクロウとか虫の音とか」
「ちがう」
みんなが耳を澄ませてみると、グゴゴゴゴ、グゴゴゴゴ、と獣の唸り声が聞こえる。なにかが縄張りを争っているかのような声の応酬。どこから響いてくるのか分からない二つのくぐもった咆哮に、奈緒が怯えた。
「ほら、これ。なんか聞こえる」
「ん? ああ、これ気にしなくていいよ」
気にも留めない様子の南に、緊張した様子の春樹が訊く。
「熊でもいるんじゃねーか?」
「「えーっ⁉」」
奈緒と杏奈が同時に叫んで二人して抱きしめ合い、不安そうな眼差しを南に送る。
「違う違う。木の音だから大丈夫」
「どういうこと?」務が訊いた。
「これ、木が風で揺れてきしむ音なの。わたしも小さいころ怖くて、おばあちゃんにしがみついてた」
室内の明かりで照らし出されているのはバルコニーや軒下までで、庭の大半と私道との境付近は深遠な暗闇の中に埋没している。窓際に近づいた奈緒が、闇の中をなんとか見通そうとするかのように目を凝らしていると、クラシック音楽のカノン[作曲:ヨハン・パッヘルベル]が流れて、お風呂が沸きましたという電子的な女性の声が聞こえた。
南が壁へばりついたお風呂のコントローラーを見やってから、春樹に声をかける。
「高木が先に入る? 昼間燻製状態だったから、お肌気持ち悪いんじゃない?」
「誰のせいで……でも確かに煙に燻されてにおいついちゃってるな。いいなら俺が最初に入る」
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