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緒方宗谷

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二年生の一学期

第百四十七話 アフロと卵

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 電車のドアが開いて奈緒がホームに降り立つと、目の前には、橙、濃灰色、黄緑、薄灰色の座り心地が柔らかい椅子が並んでいた。同じあず急大井町線圏でありながら、数駅隣の北千束駅とはだいぶ様相が異なる。
 改札の外に出ると、そこは円形のロータリーになっていて、それを囲むようにしてビルが建ち並ぶ。いくつか出口があるのだが、奈緒は常に大きな正面口から改札を出る。特に意味はないのだが、中学一年生の時に初めて一人でここに来て以来の習慣だった。
 実はここには、菜緒行きつけの画材店がある。
 自由ヶ丘と聞くとおしゃれなイメージがあるが、駅前は大変雑多な感じがすると、奈緒は常日頃から思っている様子だったし、この子の趣味とも異なるはずであるはずだったが、母親から有名なワール堂という名の大きな画材店を教えてもらっても、購入店を変えることなく今日に至っている。それには二つの理由があった。
 右にUターンをしてわきの高架下を抜けると、すぐに緑道にぶつかる。左がまた高架になっていて、そこに喫煙所が設置されている関係もあり、少し煙たくて暗い雰囲気の場所だ。奈緒が好むような感じとは到底思えない場末な環境だったが、そこにこそここに来る理由の一つがあった。
 緑道に入って左折するとすぐに目に飛び込んでくるのは、右側の壁一面に描かれた美しい絵だ。青白い霞む霧のような色合いの草に腰までを沈めた優しげなアフロの女性が幾人もえがかれていて、中央の一人が幼い少女と手をつないで見つめあっている。
 奈緒はその絵が好きだった。親子の愛情を感じるところもさることながら、女性たちのアフロには赤いりんごが実っているかのような模様がいくつもあって、まるで青々と葉を茂らせる木々のようでもあったからだ。
 奈緒曰く、この女性たちは命をはぐくむ女神たちで、母性の象徴なのだそうだ。アフロは愛情の大きさで、りんごの実は、いつか生れ出るであろう今育まれつつある新しい命だと言う。そして、足元に生えている草がいつか女の子になる。
 えがかれた女性たちは、母性によってその育ちつつある命の存在を感じとりつつ、お散歩しながら成長を見守っている、と奈緒はこの絵を解釈していた。この子はこの絵から強い影響を受けており、退院して間もなくまだ歩行が拙くて長時間の移動は車いすで行っていた時分に、お母さんに頼んで見に連れてきてもらったほどだ。病気になる以前もあとも、心が疲れたりへこんだりすると、必ず見に来る。
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