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二年生の一学期
第百五十六話 説得
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週末。よく晴れた日曜日の午前中に、奈緒が旗の台の街へ繰り出すと、突然聞き覚えのある声が視界の外から響いてきて、慌てて周囲を探るように声のするほうを見渡した。
「成瀬さん、こっちこっち」と振る手が、見えない右目のほうから視界に入ると、奈緒はすぐに挨拶をしてから、肩から胸にかけて水色に染まった絞り染めの半袖Tシャツ姿の声の主を見やる。
「おはよう、杏奈ちゃん。どうしたの? こんなところで」
「え…うん、たまたま。成瀬さんは絵手紙教室? ちょうどいいから、ちょっとお話しながら行こうか」
そう言って商店街を歩き始めた安奈の背中を奈緒が見やる。そして、袖口や裾口へ向かってだんだんと濃くなっていく色に視線を沈める。何も話さないでいると、白いハンドバッグを持つ右手を大きく振りながら、彼女が歩速を落としてこの子の左側について微笑んできた。
「こんな近くに大病院と障がい者支援センターがあってよかったね。なにより大好きだった絵が続けられる環境なんだから、幸せ者だよ」
「本当は大田区だから違うんだけれども、病院のすぐそばだし、家からも一番ち か いか ら、通わせて もらってい ま す」
「ふーん、融通がきくものだね。普段意識しないけれど、やっぱり行政には区境があるのね」
「分かんないけどね」
正面を向いた杏奈が、病院の前に横たわる道路を見やる。
「学校――噂話が収まらないけれど、どうするつもり?」
答えない奈緒をちら見してから続ける。
「成瀬さんが思っているより事は深刻だと思うよ。校長先生ははっきりと言わなかったけれど、停学も視野に入れていたみたいだったし。実際退学になっても文句は言えない状況なのは間違いないの。小沢さんは、学校側の反応に憤っているみたいだったけれど、実は先生たちの態度はとても優しくて、成瀬さんの立場に立って親身になってくれていると思うな。それでもなお停学を考えざるを得ないといった感じ。小沢さんは中学時代のやんちゃな感覚が抜けないんだろうね。義務教育の中学と任意教育の高校を混同しているから、あんなことが言えるのよ。万引きは窃盗罪っていう立派な犯罪なの。刑務所にだって入れられちゃうほどの重罪なんだから。確かに成瀬さんはやっていない。でもてさげから購入していない商品が出てきたのは事実でしょう? わたしがあの日のことを説明して、絶対に成瀬さんが盗っていないって説明しなかったら、たぶん問答無用で停学になっていたと思う。小沢さんの時と違ってパピオンっていう真犯人がいない以上、それで決着が図られたと思うよ。学校側としては、成瀬さんの罪を認めない、その代わりなにかしらの処分を下して、関係者を納得させる――そういう形で幕引きを図ろうとしているのよ」
「成瀬さん、こっちこっち」と振る手が、見えない右目のほうから視界に入ると、奈緒はすぐに挨拶をしてから、肩から胸にかけて水色に染まった絞り染めの半袖Tシャツ姿の声の主を見やる。
「おはよう、杏奈ちゃん。どうしたの? こんなところで」
「え…うん、たまたま。成瀬さんは絵手紙教室? ちょうどいいから、ちょっとお話しながら行こうか」
そう言って商店街を歩き始めた安奈の背中を奈緒が見やる。そして、袖口や裾口へ向かってだんだんと濃くなっていく色に視線を沈める。何も話さないでいると、白いハンドバッグを持つ右手を大きく振りながら、彼女が歩速を落としてこの子の左側について微笑んできた。
「こんな近くに大病院と障がい者支援センターがあってよかったね。なにより大好きだった絵が続けられる環境なんだから、幸せ者だよ」
「本当は大田区だから違うんだけれども、病院のすぐそばだし、家からも一番ち か いか ら、通わせて もらってい ま す」
「ふーん、融通がきくものだね。普段意識しないけれど、やっぱり行政には区境があるのね」
「分かんないけどね」
正面を向いた杏奈が、病院の前に横たわる道路を見やる。
「学校――噂話が収まらないけれど、どうするつもり?」
答えない奈緒をちら見してから続ける。
「成瀬さんが思っているより事は深刻だと思うよ。校長先生ははっきりと言わなかったけれど、停学も視野に入れていたみたいだったし。実際退学になっても文句は言えない状況なのは間違いないの。小沢さんは、学校側の反応に憤っているみたいだったけれど、実は先生たちの態度はとても優しくて、成瀬さんの立場に立って親身になってくれていると思うな。それでもなお停学を考えざるを得ないといった感じ。小沢さんは中学時代のやんちゃな感覚が抜けないんだろうね。義務教育の中学と任意教育の高校を混同しているから、あんなことが言えるのよ。万引きは窃盗罪っていう立派な犯罪なの。刑務所にだって入れられちゃうほどの重罪なんだから。確かに成瀬さんはやっていない。でもてさげから購入していない商品が出てきたのは事実でしょう? わたしがあの日のことを説明して、絶対に成瀬さんが盗っていないって説明しなかったら、たぶん問答無用で停学になっていたと思う。小沢さんの時と違ってパピオンっていう真犯人がいない以上、それで決着が図られたと思うよ。学校側としては、成瀬さんの罪を認めない、その代わりなにかしらの処分を下して、関係者を納得させる――そういう形で幕引きを図ろうとしているのよ」
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