猫のモモタ

緒方宗谷

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いつでもどこでも平常心のタヌキの話

苦い味も蜜の味

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 モモタが穴の中から地上を見上げると、無表情のタヌキが、じっとこちらを覗いています。
 「タヌキさん、ここから出してよ」
 そう呼びかけるモモタを見たタヌキは、ニヤリとしてどこかに行ってしまいました。
 「ねえ、お兄ちゃんたち、僕たち、もうここから出たれないの?」
 「そんなことないよ、すぐに出られるよ」
 そう言うと、モモタはピョンピョンと大岩の上をはねて、地上に上りました。
 「ほら、出られたでしょう」
 タヌキがもういないことを確認してから戻ってきたモモタは、1匹1匹を口にくわえて、地上に出してやしました。
 「さあ、後はワンちゃんだけだけど・・・」
 ワンちゃんはモモタと同じくらいの大きさです。さすがにくわえて連れていけません。
 ワンちゃんはしょんぼりしています。助けてもらえないと悟ったからです。
 「ワンちゃん、僕まずこの子達をお母さんの所に連れて行くよ。
  すぐに戻ってきて、助けてあげるからね」
 「そう、わかった、ありがとう」
 ワンちゃんは悲しげに答えました。
 モモタは、まず鳥さんたちに頼んで、ワンちゃんを持ち上げてもらおうとしました。でもダメでした。
 シカさんに頼んで、角を穴に入れてもらいましたが、届きません。うさぎさんが前歯で千切ってきたツルを垂らしますが、犬には登れません。
 陽が暮れて、みんなはあきらめて帰ってしまいました。
 モモタが帰ってこないのを心配したミミズクが、小さな谷までやってきてくれたので、2匹は怖い思いをせずに夜を明かしました。
 「もう良いよ、猫ちゃん、僕一生ここで過ごすんだ。
  でもお願い、ひもじい思いはしたくないから、どうかご飯だけは持って来てよ」
 モモタは、断って言いました。
 「諦めちゃいけないよ、僕は昔、蛾のお友達から、勇気を学んだんだ。
  何か方法を考えるんだよ」
 3日目の夕方、モモタは穴の中に下りると、土の壁を見上げました。しばらく首をかしげていたモモタでしたが、ふと閃いて、わしゃわしゃ土壁をひっかき始めます。
 「ワンちゃんも手伝って」
 2匹は土を削り出した土を使って、台や坂道を作っていきます。ついにはワンちゃんでも飛びあがれる高さまでなったので、2人は地上に出る事ができました。
 帰り道で、犯人のタヌキに会ったので、モモタは言いました。
 「よくこの森にいられるね」
 「なんだ、出られたのか、困っているところを見に行くところだったのに、つまらないの」
 タヌキの言い草に、モモタはびっくりしました。
 「よく悪びれずに言えるね、反省しようとは思わないの?」
 「ああ思うよ、こんどは簡単に出られないやつを考えようと思うんだ」
 モモタは呆れました。
 「何でこんな事ができるの?僕だったら足がすくんでできないよ。
  だって、お友達が悲しむところを想像したら、僕も悲しくなるもの」
 タヌキは表情一つ変えずに言いました。
 「何で?僕は大丈夫だよ、だってドキドキしないから。
  それよりも、オロオロする顔を見るのが楽しいんだ」
 変なタヌキもいるものです。





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