猫のモモタ

緒方宗谷

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体験主義のカルガモの話

失敗したっていいじゃない

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 町の真ん中に、大きなため池のある公園がありました。
 ため池はフェンスで囲ってあって、周りの植え込みからすぐ崖になっています。
 崖はコンクリートだったので、水面まで下っていけません。
 モモタは、唯一水面まで下りていける太い坂道の水面ぎりぎりのところで、前足を少し浮かせて座っています。
 ため池ですから、水は透き通っているわけではありませんでしたが、中にフナがいたのが見えたからです。
 しばらく構えて静かにしていたモモタは、「えいやー」と勢いよく前足の爪を立てて、水中を叩きました。
 残念失敗。フナはひらりと身をかわして、遠くに行ってしまいました。
 フナに身をかわされたモモタは勢い余って、坂のないところに手を伸ばしてしまいました。
 そのため、そのまま深みの中にドブンです。
 「ふにゃにゃにゃにゃー」と慌てたモモタは、必死に坂へと戻りました。
 危うく溺れるところだったモモタは、自分の大失敗を白い目で見るお友達たちの視線を感じて、顔をあげられません。
 とても恥ずかしく思ったからでした。
 モモタは、実は暑くて水浴びしていたんだよ、といったふうに見せながら、「ああ気持ち良かった」という雰囲気で、身をブルブル振って、濡れた体を乾かします。
 そこに、カルガモの家族が泳いでやってきました。そして、5羽の赤ちゃんたちが、次々に言いました。
 「ちゅごい、溺れた」
 「猫ってみじゅ〈水〉に入れないって思っていたでちゅ。初めて見たでちゅ」
 「感動でちゅ」
 「ねえ見ちぇて、溺れたとこ、もう一回見ちぇて」
 モモタは、とても恥ずかしい気持ちになりました。ですがモモタは少しお兄ちゃんです。ですから言いました。
 「誰かをそんなにからかったらだめだよ。
  そんなふうに言われて傷つくお友達もいるんだ」
 すると、一番下のカルガモ赤ちゃんが言いました。
 「どうちてきじゅ〈傷〉ちゅくの?」
 モモタが答えます。
 「僕だって、失敗したくてしたんじゃないんだもの」
 すると、赤ちゃんたちが笑います。
 一番上のカルガモ赤ちゃんが言いました。
 「ちっぱい〈失敗〉ちたくないだなんて、変なのー」
 モモタは言います。
 「そんなふうに言われるのにも、傷つくよ」
 「なににきじゅ〈傷〉ちゅくの?」二番目のカルガモ赤ちゃんが首を傾げます。
 モモタは、赤ちゃんだからしょうがないなぁ、と思いました。
 ですが、離れていくお母さんカルガモのあとをついて泳いで行くカルガモたちの声が、モモタの心に響きました。
 「猫ってみんな、変なのー」三番目の赤ちゃんカルガモの声です。
 「だからお昼寝してるんでちゅか?一日中」四番目の赤ちゃんが笑いました。
 そして5羽は笑いながら、一緒に言いました。
 「それじゃあ、いちゅ〈いつ〉までたっても、お昼寝猫たんでちゅね~」



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