猫のモモタ

緒方宗谷

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愛情深いトラの話

愛すれば、ほんとのママ

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 この動物園には、珍しいトラのプレムちゃんがいると、人が集まるようになりました。
 なんせ子猫を育てるトラなのですから、みんな見ないわけにはいきません。
 初めの内、飼育員さんは子猫を助けようとして、たくさんのお肉を置いたり、ラジコンを走らせたりして、トラの気を引こうと頑張りました。ですが、見向きもされませんでした。
 プレムちゃんは、片時も白猫赤ちゃんから離れません。常にくわえて移動し、寝る時も一緒です。
 それでも、ああでもないこうでもない、と頑張る飼育員さんを見て、モモタは、お母さん猫と一緒に応援しました。
 ですが飼育員さんたちは、子猫を取り返そうとしなくなりました。
 代わりに、平皿に注いだミルクを置いてみたり、チュルチュルごはんを置いてみたりしています。
 プレムちゃんは、それを喜んで平らげました。
 来る日も来る日もプレムちゃんは、木々の傍らに横たわって、白猫赤ちゃんにお乳をあげ続けました。
 プレムちゃんは、白猫赤ちゃんに慈しむような眼差しを向けて言いました。
 「なんて可愛いのかしら。そんなに震えて鳴かなくても、わたしが大事に育ててあげますよ。  
  このお家は誰も入ってこられないから安心だもの。
  わたしが立派なホワイトタイガーにしてあげるからね」
 そんな優しい言葉やお守りとは裏腹に、白猫赤ちゃんはだんだんと弱っていきました。
 我慢しきれなくなったお母さん猫が、プレムちゃんのお家へと下りていって、千切れる思いでお願いします。
 「どうか返して、わたしの赤ちゃんを。
  その子はお腹を空かせているんだわ。
  その鳴き方は間違いない。ずっとそうだわ。
  プレムちゃん、あなた、おっぱいでないのでしょう? 
  助けてくれたのは感謝しているわ。
  だから、赤ちゃんをわたしに返してちょうだい」
 お母さん猫は必死に頼みますが、プレムちゃんはそっぽを向いてしまいました。
 子を想う母心から近づきすぎたお母さん猫に、鋭い爪を浴びせようとします。
 そして、プレムちゃんは言いました。
 「この子はわたしの赤ちゃんよ。だって今頃いたはずだもの。
  だから、代わりに落ちてきたのよ」
 言い終わると、またお乳をあげ始めます。
 白猫赤ちゃんは、いつもに増して「みゅーみゅー」鳴いています。
 「おお、よしよし」とプレムちゃんはあやしつけました。
 それからもプレムちゃんは、毎日毎日お乳をやり続けました。
 血のつながりがなくても、猫とトラとの違いがあっても、赤ちゃんは可愛いと思えるものなのですね。
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