猫のモモタ

好きなことに熱心なヒョウの話

良いことは変えたくない。でも悪いことも変えたくない。

　モモタはとても悲しい気持ちになりました。
　だってヒョウは、人はトラが芸を覚えられないことを望んでいるし、トラも芸を覚えないことを望んでいる、と言うからです。
　モモタは、真っ向から否定して言いました。心の底から、ヒョウの言うことを認めてはいけない、と思ったからです。
　「トラさんは、いじめられることなんて望んでいないよ。ただ、逃げ出す方法が分からないんだ。
　　それに、ご主人様は１頭に１人じゃない。他のご主人様を選べない。
　　だから、ご主人様に気に入られようとしているだけなんだ。そうすることしか出来ないんだ。
　　他のご主人様を選べたら、自分からいじめられに行ったりしないよ。
　　ヒョウさんの意見は、自分が恵まれているから言えるんだ」
　ヒョウはムッとして、牙をむきます。
　「ほら、あの人間と一緒だ」
　モモタはそう言って、そばを離れます。
　ヒョウは鎖に繋がれているので、追ってこられません。
　モモタは言いました。
　「僕は逃げられるから、ヒョウさんの話に何でも言えるけど、もし僕も繋がれていたり、ヒョウさんが繋がれていなかったりしたら、やっぱり僕はヒョウさんの話はもっともだって言うと思う。
　　違うっていえないと思う。だって食べられてしまうから。
　　あのトラさんだっておんなじだよ」
　ヒョウがまた反論してきました。
　「確かに人間は強いかもしれない。でもトラだって強いのよ。力があるし、牙があるし、爪もある。
　　もしトラが、本当にモモタが言っているようなのであれば、どうしてその力を使って逃げ出さないの？
　　戦って楽しみを勝ち取ればいいじゃない。彼だってここが戦場だって言っていたんだし、その力と闘う意思はあるはずよ」
　モモタは、そうか、と気がつきました。
　「トラさんの性格だよ」
　「ほら、自ら望んでいるってことでしょう」
　間髪入れずに答えたヒョウの話を遮って、モモタが続けます。
　「そうじゃなくて、トラさんは優しいんだ。戦うことを望んでいないんだよ。
　　いつか気がついてくれるって、ご主人様を信じているんだ」
　「なら、やっぱり戦うべきよ。
　　お互いの性格からああいう関係が出来ているのなら、いつまで経ってもあのままだわ」
　モモタは、ヒョウの言うトラとご主人様の関係を認めたくありません。
　ご主人様とペットの関係は、自分と祐ちゃんとの関係の様であるべきだと思っていたからです。
　ですが、今の関係から逃げ出すには、トラの意思が必要でした。
　もしトラが一言でも吠えることが出来れば、ご主人様は好き勝手ムチで叩くのをやめるでしょう。