猫のモモタ

緒方宗谷

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樹海に住むお友達

終わりは始まり

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 モモタは、カウボーイハウスの窓から、お庭に積もった雪を眺めていました。
 よく見ると、たくさんの小さな虫が、ぴょこぴょこ跳ねています。
 モモタは、寒いのを我慢してお外に出て、話しかけました。
 「こんにちは、虫さん。
  こんなに寒い冬なのに、雪の上で元気がいいね。
  今が一番寒くなった時でしょう?
  僕だったら、春になって暖かくなるのを待って、薪ストーブの前でお昼寝しているよ」
 すると、話を聞いてくれていた虫たちが、口々に言いました。
 「冬?今が冬だって?」 
 「なに言っているんだ、猫君。
  この寒さがいいんじゃないか」
 「そうさ、春の息吹を感じるよ。
  ようやく春が目覚めて、世界が明るくなったんだ」
 「飛び跳ねずにはいられないよ」
 モモタには信じられません。
 「今が春?こんなに寒いのに?
  お庭は、まだまだ雪に埋もれているじゃない」
 それを聞いて、1匹の虫が言いました。
 「よく見てごらん。
  あっちの木には、小さなつぼみができているだろ。
  向こうのだってそうさ。見に行ってごらんよ」
 モモタは、雪の冷たさを我慢して、見に行ってみると、確かにつぼみがついています。
 モモタは、びっくりして言いました。
 「すごい。ただの枯れた木かと思ったら、もう葉っぱを広げる準備をしてたんだ」
 「小川までお散歩しようよ。
  もっとすごいのを見せてあげる」
 楽しくなったモモタは、寒いのも忘れて、小川まで一緒に行きました。
 小川につくと小さな虫は、そこらじゅうをピョンピョン飛び跳ねてから、「ここ掘ってごらんよ」と言いました。
 モモタが掘ってみると、鮮やかな薄黄緑色のかわいらしいまあるいつぼみが現れました。
 「わっ、雪のお布団にくるまって寒くないのかな?」
 と、モモタが驚いていると、虫が言います。
 「フキノトウってやつさ。
  この山ではとても目覚めるのが速い女の子だよ。
  この子は、こんな雪の中でも、寒がらずに元気に育つんだ。
  だから、この小川に面した辺りは、みんなフキノトウが生えているのさ」
 感心しているモモタに、虫は続けて言いました。
 「誰も知らない銀色の世界は、冷たくて喜びが聞こえてこないと思っていても、そんなことないんだ。
  夜の世界のように、目を凝らしたり耳を研ぎ澄ませたり出来たなら、とても豊かな世界なのさ」
 「でも不思議。
  こんな冬なのに。もう少し暖かくなってからでもいいんじゃない?」
 「だんだん寒く冷たくなっていって、一番寒い底の底が冬の終わり。
  その底の底からだんだんと暖かくなっていく始まりの、一番の寒い時期が、春の始まり。
  だから僕もフキノトウもは、この寒さが好きなんだ」
 おんなじ一番寒いでも、下がってきて一番寒いのと、これから上がっていく時の一番寒いは、同じ一番寒いでも違うんですね。
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