猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第八話 みんなこの子の親衛隊

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 夏と秋の境目は、とってもいい季節です。暖かな日差しの中は、まだ夏の気配を感じますが、日陰に入るととても涼しくて気持ちがいいのです。

 気の早い葉が落ち始めていたので、梢から差し込む木漏れ日の下を行くモモタたちは、爽快リラックスでピクニック気分でした。特にチュウ太は、山に入るのは初めてだったので、モモタの背中の上で、あっちを見たりこっちを見たりしてはしゃいでいます。

 モモタは、一軒の角ログのお家にやってきました。このお家は別荘なので、普段は人が住んでいません。お庭はよく手入れされていて、お花畑のようになっています。色々なお花が植えられているので、一年を通して花が絶えない素敵なお家です。

 モモタは、「アゲハちゃーん、こんにちはー」と言いながら、お家のバルコニーに駆け寄りました。

 すると、紫色に輝く大きな翅を羽ばたかせて、一匹のミヤマカラスアゲハの女の子が叫びながらモモタの方に飛んできました。 

 「きゃー! モモちゃん久しぶりー」

 モモタの頭の上にいたチュウ太は、思わず見惚れてしまいます。なんせ、村にいる蝶々と比べてとても大きな翅をしていて、しかも色とりどりに輝いていたからです。

 全体が優しい深紫に見えたかと思うと、白銀に見えたり青銀に見えたり、緑銀にも見えたりしました。しかも、それぞれの色の濃淡が様々に変わります。前の羽の白い帯と後ろの羽の明青緑帯がとても優雅で、お姫様の様でした。

 飛んできたアゲハちゃんを追って、たくさんの紋黄蝶たちが集まってきました。

 「きゃー、モモちゃんよ。伝説の猫、モモちゃんよ」

 みんなでモモタの上にとまってきたのを見たチュウ太が感心して言います。

 「大人気じゃないか、モモタ。伝説だなんて、いつの間に作ったのさ」

 「ええ? 僕なにもしてないよ」

 集まった紋黄蝶たちに訊くと、口々に教えてくれました。

 「アゲハちゃん❤️デビューイベントでパレードのお供をしたでしょう?」

 「お花だらけになって、とってもきれいだったわ」

 訳を聞いたチュウ太が笑います。

 「なんだか、微妙な伝説だな」

 モモタの鼻の上に止まったアゲハちゃんは、チュウ太に気がついて言いました。

 「うわぁ、モモちゃん豪勢ね。とても面白そうだわ。一緒にお昼を食べましょうよ」

 「面白そう?」とチュウ太が訊き返しました。「いったい何が?」と言いながらキョロキョロ辺りを見渡します。

 「だってあなたごはんでしょ? わたし、野ネズミの踊り食いをするところなんて、初めて見るもの」

 チュウ太ショック。ガーンとしました。

 「なに言うんだよ。僕はモモタのごはんじゃないよ。親友さ。

  そもそも踊り食いってなんだよ。聞いたことないよ」

 「うそ、だってよくモモちゃんのごはんにされている野ネズミにそっくりだわ」

 アゲハちゃんにそう言われたチュウ太は、モモタに助け舟を頼みます。

 「なあ、モモタ、モモタからも言ってくれよ。僕たちは親友だってさ」

 チュウ太に泣きつかれたモモタが、アゲハちゃんに説明します。

 「チュウ太はごはんじゃないよ。とってもよだれが出てくるいい匂いのお友だちだよ」
 またまた大ショーック。チュウ太は、ガーンとしました。

 「あはは」と笑うアゲハちゃんは、散々チュウ太をいじってから、モモタに旅行の目的を訊いて言いました。

 「ふーん、変な話ね。だってそうでしょう? わたしたち星じゃないじゃない。星はとても高いところにいるのよ。モモちゃんやチュウ太じゃいくらジャンプしても届かないし、飛べるわたしだって届かないわ。鳥たちだってあそこまで高く飛べないし、ゴーって飛ぶ白い動物や、プロペララララ~って飛ぶ大きなトンボだって届かないわよ。子供星たちが帰ってこなかったからモモちゃんたちも帰ってこれないって、飛躍しすぎてない?」

 アゲハちゃんは、蜜を一口飲んで続けます。

 「七色の少女のお話は悲しいけれど、あくまでおとぎ話としてでしょう? そこでお話が終わっているから悲しく思えるだけじゃない。大きな嵐の後に光の柱が出て願いを叶えてくれるって伝わっているんでしょ? そしたら、結局七色の少女は生きていたってことなんじゃない?」

 「あ、確かに」と、顔を見合わせたモモタとチュウ太の顔を交互に見て、アゲハちゃんが言いました。

 「星の話だって、こうは考えられない?」

 アゲハちゃんは、自信満々に持論を展開します。

 「チュウ太のお友だちは、子供星たちは全部燃えて無くなったのに、月が残っていたのはおかしいと言ったわよね。なら、月は冒険から戻ってきた星なんじゃないかしら。

  それに、悲しみで落ちたっていうのもおかしいわ。だって夕暮れはとてもきれいだもの。昇ってきた時はとても温かで、悲しんでいるようには見えないわよ」

 すると、そばで聞いていた一匹の紋黄蝶の女の子が言いました。

 「それは、悲しみを思い出したんじゃないですか? だから夜ができたんですよ。夜は暗くて怖いし、寂しくなりますもん」

 「あら、どうして?」とアゲハちゃんが言います。「夜が物悲しいって誰が決めたの? 夜を楽しむお友達はたくさんいるわよ。フクロウだって歌っているし、コオロギさんや鈴虫さんたちだって、楽しそうに演奏しているでしょう? わたしたちだって、みんなの音色を楽しむでしょう?」

 「ほんとだ」と紋黄蝶。「アゲハちゃんのテーマをみんなで歌って、一晩明かしたこともありましたものね」

 今ではテーマソングまであるなんて、アゲハちゃんは凄過ぎです。

 アゲハちゃんは言いました。

 「真相は分からないわ。知らない者同士で話していたって意味ないじゃない。だって結論は“分からない”以外ありえないもの。

  それよりも今を考えましょうよ。朝日が昇ると、とっても気持ちがいいわ。さんさんと輝く太陽の陽射しを浴びることができるから、わたしたちは花の上で楽しく舞い踊ることができるんじゃない。

  陽が沈むから、一日の終わりがある。だからいいのよ。朝今日も楽しい一日が始まるって思えるし、夕方に今日も一日楽しかったって思えるもの。いやなことがあっても、明日があるさって思える。いやなことは忘れて楽しいことを始められるじゃない」

 チュウ太が口を挟みました。

 「でも、毎日太陽は悲しみで落ちていくんだよ。助けてやらないと可哀想だよ」

 すると、アゲハちゃんが訊きました。

 「落ちるってどういうこと? 昇れるのに落ちていくの? おかしくなーい? 自分の意思で下りているんじゃないかしら?」

 「どうして?」と、モモタが訊きます。

 「そうだわ、きっとそうよ。旅立った星たち、凍えて死んでなんていなかったのよ。遠くで幸せになっているんだわ。帰ってきた月が教えてくれたの。でも遠すぎて見えないでしょう? だから、太陽は沈むことで夜を作って、遠くで輝く子供たちに会おうとしたのよ。間違いないわ。だって、夜があるから満天の星空をここから眺めることが出来るのよ。星々の光から悲しみなんて伝わってこないでしょう?」

 アゲハちゃんファンの虫たちが、「とても素晴らしい」とアゲハちゃんをほめそやします。アゲハちゃんは、笑顔でみんなに手を振ると、大歓声が上がりました。

 モモタとチュウ太は、アゲハちゃんの人気ぶりにびっくりするしかありません。

 アゲハちゃんが続けます。

 「暗いからこそ安心できることだってあるわ。村のネズミちゃんたちは知らないけれど、山のネズミちゃんはいつも暗い所にいるわ。枯れ葉の下とか。それに夜に遊び回る子たちもいるんだから」

 「確かにそうだ」とチュウ太が頷きます。チュウ太も普段は暗くなってから遊び回っていましたから。

 モモタとチュウ太は、アゲハちゃんの想像力に脱帽です。
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