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モモタとママと虹の架け橋
第七十五話 サンゴ礁のイルカたち
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とても美しい光景が広がっています。龍鱗状の水波紋が広がるどこまでも見通せそうな清らかな海水の底は、色とりどりのサンゴ礁で埋め尽くされていました。群生するサンゴの美しさといったら、色鮮やかな天の川の上を泳いでいるかのようです。
熱帯特有の派手な色の魚が群れを成して泳いでいました。まるで、おとぎ話に出てくる竜宮城のお庭のようです。
クジラが集めた情報とカンタンがカモメのお友だちに聞いたお話は、どちらも南国に湧く温泉の話でした。二つの話に出てきた星の位置と島の方角を合わせてみると、大体この辺りのようです。
シトが、背中にいるモモタに言いました。
「もう少し向こうに行った辺りに温泉っていうのがあるはずだけど、僕の大きさだとこれ以上近づけない。海底のサンゴ礁に乗り上げてしまうかも」
「温泉って、人間やお猿さんが入るお風呂なんだけどなぁ」
モモタがそう呟くと、チュウ太が言いました。
「お風呂? 海にお風呂? 泳ぐんだか洗うんだかはっきりしてほしいよな」
偵察をしに飛んだキキが、目的地の上を旋回しています。みんなは、彼が戻ってくるのを待ちました。
しばらくして戻ってきたキキは言いました。
「色のついた温かいお湯なんてどこにも湧いてないな。そもそも海に湧いてても混ざっちゃって分からないだろうね」
チュウ太が「混ざっちゃってるから、これだけ派手な海になってるのかも」と言うと、アゲハちゃんが「一つ一色だと思うわ。だから、赤か橙のはずよ」と答えます。
モモタが言いました。
「虹の色がついて湧いていれば場所は分かると思ったけど無理かぁ。どうにかして僕も向こうに行きたいけど、僕泳げないから、どうしよう」
すると、キアイが言いました。
「近くに住んでいるイルカに頼みましょうよ。あの子たちとても小さいから、向こうの深さでも十分泳げるわ」
すぐに妹のシンタを連れだって頼みにいってくれました。ですが、戻ってきたキアイは、とても困った顔をしています。
「イルカたちに頼んで回ったんだけれど、今それどころじゃないんですって。なんでも今、お友達の男の子が一頭行方不明で捜索中らしいのよ」
みんなで見にいくと、確かに多くのイルカが懸命になって泳ぎ回っています。こんなにも楽しげな海であるにもかかわらず、遊んでいるイルカは一頭も見当たりません。
浅瀬のサンゴ礁の手前に、何頭かのイルカが集まっているのが見えました。モモタたちは、話を聞こうと近寄ってみます。
『ちゅら』と呼ばれている若い女の子は、この海域を隅々まで何度も探した、とみんなに言っています。そして、「あとは、この『ニライカナイ』の中だけなのだけれど・・・」と続けました。
『ニライカナイ』とはこのサンゴ礁が広がる浅瀬のことのようです。訊くと、ニライカナイの意味は『竜宮城』。まさに“竜宮城”なんだ、とモモタたちは思いました。この世のものとは思えない美しさですから、海底の王者の住まう場所に思えるのは、みんな同じなのでしょう。
アゲハちゃんが不思議に思って話しかけてみることにしました。
「なら、早く探してみればいいじゃない。とても入り組んでいるみたいだし、もしかしたら迷路の中で迷子になっているかもしれないわ」
すると、ちゅらは言いました。
「それが、無理なのよ。実はこのサンゴ礁にはホオジロザメが住んでいて、わたしたちを入れてくれないの。無理に入ろうものなら、食べられてしまうわ」
「ホオジロザメ?」とキキが言いました。偵察中に見た眼下の海を思い返します。確かに肉食と思われる大きな魚がいたのを思い出しました。「目が横に飛び出たやつ?」
「違うわ」とちゅら。「それはシュモクザメ。そのサメも怖いけど、ホオジロザメはとっても大きくてもっと怖いのよ」
「そんなのいなかったよ」
そう言うキキに、アゲハちゃんが思いついて言いました。
「こうしたらどーお? 空からキキがそのサメを探して見つけたら、逃げろーって叫ぶの。キキはそのまま叫びながら、サメの上を飛び続ければ、サメがどこにいるか海からでも分かるわ。いないならそのまま探し続ければいいでしょ?」
それは妙案だとイルカのみんなは喜びました。さっそく浅瀬を捜索開始です。しかし捜索が進むにつれて、暗澹たる空気がイルカたちの間に立ち込めていきました。
狭くはない浅いサンゴ礁地帯ですが、イルカ総出で探せば半日もかかりません。くまなく探しましたが、迷子イルカはどこにもいませんでした。
幸い、ホオジロザメも留守でしたから、夕方まで捜索が続きます。それでもなお見つかりませんでした。
がっかりするイルカたちに、モモタは「また明日探そうよ」と元気づけます。そして言いました。「あのサンゴ礁の中に、温泉は湧いているの?」
「温泉?」とちゅらが訊き返しました。「このサンゴ礁の辺りにはないはずだけど」
チュウ太が飛び跳ねました。
「ええ? ないはずないよ。だってここに温泉があるって聞いてやって来たんだから」
「でも、ないものはないわ。勘違いじゃないかしら。別のところで幾つか湧いているから」とちゅらが言い添えます。
クジラたちが、聞いた島の位置を教えて、イルカに見てきてもらいました。確かに位置はこの浅瀬のサンゴ礁群の中のようです。陽が暮れて星が出た時に、星の位置も確認してもらいますが、やはり間違いないようです。
モモタは言いました。
「一度、雫探しは中断しようよ。まずは迷子のイルカちゃんを探そう?」
全員一致でそうなりました。
ちゅらは感謝して言いました。
「ウーマクが見つかったら、わたし恩返しに必ず虹の雫探しを手伝うわ」
それを聞いた他のイルカたちも「わたしも」「わたしも」と口々に言ってくれます。
水面から顔を出すイルカたちに顔を近づけて、「ありがとう」とお礼を言ったモモタは、「明日はどこを探すの?」と、ちゅらに訊きました。
「明日もニライカナイの庭を探すわ。サンゴの屋根の下とか洞穴の中で迷っているかもしれないからね」
みんなは、明日の捜索に備えてゆっくり休むことにしました。
熱帯特有の派手な色の魚が群れを成して泳いでいました。まるで、おとぎ話に出てくる竜宮城のお庭のようです。
クジラが集めた情報とカンタンがカモメのお友だちに聞いたお話は、どちらも南国に湧く温泉の話でした。二つの話に出てきた星の位置と島の方角を合わせてみると、大体この辺りのようです。
シトが、背中にいるモモタに言いました。
「もう少し向こうに行った辺りに温泉っていうのがあるはずだけど、僕の大きさだとこれ以上近づけない。海底のサンゴ礁に乗り上げてしまうかも」
「温泉って、人間やお猿さんが入るお風呂なんだけどなぁ」
モモタがそう呟くと、チュウ太が言いました。
「お風呂? 海にお風呂? 泳ぐんだか洗うんだかはっきりしてほしいよな」
偵察をしに飛んだキキが、目的地の上を旋回しています。みんなは、彼が戻ってくるのを待ちました。
しばらくして戻ってきたキキは言いました。
「色のついた温かいお湯なんてどこにも湧いてないな。そもそも海に湧いてても混ざっちゃって分からないだろうね」
チュウ太が「混ざっちゃってるから、これだけ派手な海になってるのかも」と言うと、アゲハちゃんが「一つ一色だと思うわ。だから、赤か橙のはずよ」と答えます。
モモタが言いました。
「虹の色がついて湧いていれば場所は分かると思ったけど無理かぁ。どうにかして僕も向こうに行きたいけど、僕泳げないから、どうしよう」
すると、キアイが言いました。
「近くに住んでいるイルカに頼みましょうよ。あの子たちとても小さいから、向こうの深さでも十分泳げるわ」
すぐに妹のシンタを連れだって頼みにいってくれました。ですが、戻ってきたキアイは、とても困った顔をしています。
「イルカたちに頼んで回ったんだけれど、今それどころじゃないんですって。なんでも今、お友達の男の子が一頭行方不明で捜索中らしいのよ」
みんなで見にいくと、確かに多くのイルカが懸命になって泳ぎ回っています。こんなにも楽しげな海であるにもかかわらず、遊んでいるイルカは一頭も見当たりません。
浅瀬のサンゴ礁の手前に、何頭かのイルカが集まっているのが見えました。モモタたちは、話を聞こうと近寄ってみます。
『ちゅら』と呼ばれている若い女の子は、この海域を隅々まで何度も探した、とみんなに言っています。そして、「あとは、この『ニライカナイ』の中だけなのだけれど・・・」と続けました。
『ニライカナイ』とはこのサンゴ礁が広がる浅瀬のことのようです。訊くと、ニライカナイの意味は『竜宮城』。まさに“竜宮城”なんだ、とモモタたちは思いました。この世のものとは思えない美しさですから、海底の王者の住まう場所に思えるのは、みんな同じなのでしょう。
アゲハちゃんが不思議に思って話しかけてみることにしました。
「なら、早く探してみればいいじゃない。とても入り組んでいるみたいだし、もしかしたら迷路の中で迷子になっているかもしれないわ」
すると、ちゅらは言いました。
「それが、無理なのよ。実はこのサンゴ礁にはホオジロザメが住んでいて、わたしたちを入れてくれないの。無理に入ろうものなら、食べられてしまうわ」
「ホオジロザメ?」とキキが言いました。偵察中に見た眼下の海を思い返します。確かに肉食と思われる大きな魚がいたのを思い出しました。「目が横に飛び出たやつ?」
「違うわ」とちゅら。「それはシュモクザメ。そのサメも怖いけど、ホオジロザメはとっても大きくてもっと怖いのよ」
「そんなのいなかったよ」
そう言うキキに、アゲハちゃんが思いついて言いました。
「こうしたらどーお? 空からキキがそのサメを探して見つけたら、逃げろーって叫ぶの。キキはそのまま叫びながら、サメの上を飛び続ければ、サメがどこにいるか海からでも分かるわ。いないならそのまま探し続ければいいでしょ?」
それは妙案だとイルカのみんなは喜びました。さっそく浅瀬を捜索開始です。しかし捜索が進むにつれて、暗澹たる空気がイルカたちの間に立ち込めていきました。
狭くはない浅いサンゴ礁地帯ですが、イルカ総出で探せば半日もかかりません。くまなく探しましたが、迷子イルカはどこにもいませんでした。
幸い、ホオジロザメも留守でしたから、夕方まで捜索が続きます。それでもなお見つかりませんでした。
がっかりするイルカたちに、モモタは「また明日探そうよ」と元気づけます。そして言いました。「あのサンゴ礁の中に、温泉は湧いているの?」
「温泉?」とちゅらが訊き返しました。「このサンゴ礁の辺りにはないはずだけど」
チュウ太が飛び跳ねました。
「ええ? ないはずないよ。だってここに温泉があるって聞いてやって来たんだから」
「でも、ないものはないわ。勘違いじゃないかしら。別のところで幾つか湧いているから」とちゅらが言い添えます。
クジラたちが、聞いた島の位置を教えて、イルカに見てきてもらいました。確かに位置はこの浅瀬のサンゴ礁群の中のようです。陽が暮れて星が出た時に、星の位置も確認してもらいますが、やはり間違いないようです。
モモタは言いました。
「一度、雫探しは中断しようよ。まずは迷子のイルカちゃんを探そう?」
全員一致でそうなりました。
ちゅらは感謝して言いました。
「ウーマクが見つかったら、わたし恩返しに必ず虹の雫探しを手伝うわ」
それを聞いた他のイルカたちも「わたしも」「わたしも」と口々に言ってくれます。
水面から顔を出すイルカたちに顔を近づけて、「ありがとう」とお礼を言ったモモタは、「明日はどこを探すの?」と、ちゅらに訊きました。
「明日もニライカナイの庭を探すわ。サンゴの屋根の下とか洞穴の中で迷っているかもしれないからね」
みんなは、明日の捜索に備えてゆっくり休むことにしました。
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