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モモタとママと虹の架け橋
第七十七話 未知へと続く長いトンネル
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幸い、海底神殿の中にクークブアジハーはいなかったようです。ですが、迷子のウーマクの姿もありませんでした。
世話好きおじさんの話によると、クークブアジハーはごはんを探しに外洋に出ている可能性が高い、とのことです。季節によりますが、外洋にはマグロとかカジキとかサバとか、大きな魚が群れを成して泳いでいるので、大きなクークブアジハーは度々出かけているのです。
ニライカナイはとても豊かな海でしたが、なんせ浅瀬が多いので、クークブアジハーは速く泳げません。ですから、小さな魚たちを捕まえるのは至難の業です。それに、海底はサンゴ礁に覆われていましたから、魚たちにとって、サメから身を隠すにはうってつけの場所だったのです。
ニライカナイの入り口真上に来たあたりで、チュウ太が言いました。
「ニライカナイに遊びに行ってる間に、クークブアジハーが帰ってきたらどうするのさ。僕たちずっと海底神殿暮らしかな」
「あはは」モモタがニッコリです。「そうしたら、毎日カラフルお魚三昧だね」
「まあ、考えようによっては楽しくもあるか」
海底を覗くと、モモタが乗せてもらっているイルカから海底神殿まで、何頭ものイルカが連なっています。
ちゅらが、「さあ、準備ができたわ」と言いました。
何の準備なのでしょう。モモタたちは、背中に乗せてもらって潜っていくと思っていたのですが、どうも違うようです。
「モモちゃんの無事を祈っているわ」アゲハちゃんが「わたしは翅がぬれてしまうから、ここで待っているわね」と、モモタのお鼻を撫でながら言いました。
すると、ちゅらが「大丈夫よ」と言って「水には濡れないわ。ちょっと湿気が高いけど、モモタ君と一緒に行けるわよ」とほほ笑みます。それから、海中に潜って「こっちは大丈夫よ。お願いしまーす」と、みんなに言いました。
モモタたちが、何が起こるのか、と見ていると、サンゴの山の麓にある海底神殿の入り口の中から、何やら浮かんできます。しばらく見ていると、それはたくさんの大きな気泡であることが分かりました。なんと、あぶくが集まって筒状になって昇ってくるのです。
海中の真ん中あたりのイルカが、背中にある鼻から気泡を出し始めました。みるみる間に、気泡は筒状に繋がってモモタたちの元まで到達しました。
ちゅらが言いました。
「さあ、モモタ君どーぞ。このあぶくトンネルの中だったら、海の中でも息ができるわ」
モモタは、恐る恐る気泡に猫パンチ。ぱちんと大きな気泡が割れました。
「ほんとに大丈夫?」モモタが怯えます。
ちゅらが笑いました。
「爪たてちゃダメよ」
モモタは、今度はゆっくりと前足を気泡の中に入れました。一歩一歩安全を確認しながらあぶくトンネルへと入っていきます。それれに続いて、チュウ太、アゲハちゃん、キキが入っていきます。
あぶくトンネルの中は、とても不思議な場所でした。気泡一つ一つに向こうの景色が透けて見えるのですが、みんな凹凸レンズを通したように歪んでいます。それに、泡は常に海面に向かって流れているので、景色も一緒に流れていました。
重力は感じるのに、中を歩くモモタたちは海底へと落ちていきません。あぶくトンネルはほとんど垂直なのにです。
アゲハちゃんは、あぶくに阻まれて羽ばたかせられない翅を触りながら言いました。
「飛べないけれど、殆ど地上と変わらないわね」
「もっと上にくると、うんとに地上に近いと思うよ」とキキが言います。「モモタのお尻くらいの高さを目指してごらん」
アゲハちゃんは、キキの言う通り、階段を上るように気泡を上っていきます。すると、気泡はなくなって地上と同じ環境になりました。気泡の壁越しに海の中を走る遊歩道のようです。
試しに飛んでみたアゲハちゃんが、キキに言いました。
「どういうことかしら?」
「前にモモタがいるから、あぶくが分かれるんだろうね。後ろを見てみると、またあぶくでふさがっていくから」
「じゃあ、わたし、当分モモちゃんのしっぽにいるわ」
アゲハちゃんはそう言って、モモタのしっぽに座りました。
クークブアジハーの住処の中は真っ暗です。
モモタの足元であぶくのトンネルを作っていた若そうな声のイルカが言いました。
「僕たちも何も見えないから、実は全貌は分からないんだ。道に迷ったら出てこれないから、奥まで探せないし」
キキが訊きます。
「それじゃあ、このあぶくトンネルはどこまで続いているの?」
「ずっと奥のほうにさ。最初に見つけた空気がある部屋までだよ」
まったく光が差し込まないので、モモタにも何も見えません。あぶくトンネルから出ないようにするだけで精一杯でした。暗闇は僕に任せて、と言わんばかりに、チュウ太が先頭に立ちます。「チュウチュウ」鳴きながら、モモタを先導しました。
どれだけ進んできたのでしょう。遠くに揺らめきながら薄緑色に燐光する海面が見えてきました。ついに空気で満たされた部屋に辿り着いたのです。そこは、正方形の部屋でした。
四面を水路に囲まれていて、殺風景な部屋でした。熊よりも大きく切り出された石を積み上げた石壁には、奥の一面にだけ大きな開口部があって、通路が繋がっています
床には、たくさんの苔が生えていました。その苔が淡く燐光していて、とても幻想的な風景を醸し出しています。
それは、ろうそくの灯りのように、灯のそばだけを強く照らすものではありません。なんせ、床ばかりでなく壁にも天井にも苔は生えていましたから、部屋全体が薄緑色に輝いていたのです。
アゲハちゃんが、宙へ舞いあがりながら言いました。
「不思議。とってもきれいだわ」
アゲハちゃんは、そのまま苔の先にとまって、その葉先の柔らかいところをかじって青汁を飲んでみます。
「美味しー。ちょっと塩味がきいていて、山で舐めるごはんと一味違うわ」
モモタたちも苔をなめてみます。確かに微かな塩味がしました。海水のように毟り千切られるようなしょっぱさではありません。
数頭のイルカが海面に顔を出して、その中の一頭が言いました。
「なるべく早く戻ってきてね。クークブアジハーが戻ってきたら、僕たちここにいられないから。苔がごはんになるのなら、ひもじい思いはしないだろうけど、彼がまた遠洋ごはんに出るまでここにいることになるからね」
「うん、分かったー。行ってきまーす」
モモタたちは元気にお返事をして、奥へと進んでいきました。
世話好きおじさんの話によると、クークブアジハーはごはんを探しに外洋に出ている可能性が高い、とのことです。季節によりますが、外洋にはマグロとかカジキとかサバとか、大きな魚が群れを成して泳いでいるので、大きなクークブアジハーは度々出かけているのです。
ニライカナイはとても豊かな海でしたが、なんせ浅瀬が多いので、クークブアジハーは速く泳げません。ですから、小さな魚たちを捕まえるのは至難の業です。それに、海底はサンゴ礁に覆われていましたから、魚たちにとって、サメから身を隠すにはうってつけの場所だったのです。
ニライカナイの入り口真上に来たあたりで、チュウ太が言いました。
「ニライカナイに遊びに行ってる間に、クークブアジハーが帰ってきたらどうするのさ。僕たちずっと海底神殿暮らしかな」
「あはは」モモタがニッコリです。「そうしたら、毎日カラフルお魚三昧だね」
「まあ、考えようによっては楽しくもあるか」
海底を覗くと、モモタが乗せてもらっているイルカから海底神殿まで、何頭ものイルカが連なっています。
ちゅらが、「さあ、準備ができたわ」と言いました。
何の準備なのでしょう。モモタたちは、背中に乗せてもらって潜っていくと思っていたのですが、どうも違うようです。
「モモちゃんの無事を祈っているわ」アゲハちゃんが「わたしは翅がぬれてしまうから、ここで待っているわね」と、モモタのお鼻を撫でながら言いました。
すると、ちゅらが「大丈夫よ」と言って「水には濡れないわ。ちょっと湿気が高いけど、モモタ君と一緒に行けるわよ」とほほ笑みます。それから、海中に潜って「こっちは大丈夫よ。お願いしまーす」と、みんなに言いました。
モモタたちが、何が起こるのか、と見ていると、サンゴの山の麓にある海底神殿の入り口の中から、何やら浮かんできます。しばらく見ていると、それはたくさんの大きな気泡であることが分かりました。なんと、あぶくが集まって筒状になって昇ってくるのです。
海中の真ん中あたりのイルカが、背中にある鼻から気泡を出し始めました。みるみる間に、気泡は筒状に繋がってモモタたちの元まで到達しました。
ちゅらが言いました。
「さあ、モモタ君どーぞ。このあぶくトンネルの中だったら、海の中でも息ができるわ」
モモタは、恐る恐る気泡に猫パンチ。ぱちんと大きな気泡が割れました。
「ほんとに大丈夫?」モモタが怯えます。
ちゅらが笑いました。
「爪たてちゃダメよ」
モモタは、今度はゆっくりと前足を気泡の中に入れました。一歩一歩安全を確認しながらあぶくトンネルへと入っていきます。それれに続いて、チュウ太、アゲハちゃん、キキが入っていきます。
あぶくトンネルの中は、とても不思議な場所でした。気泡一つ一つに向こうの景色が透けて見えるのですが、みんな凹凸レンズを通したように歪んでいます。それに、泡は常に海面に向かって流れているので、景色も一緒に流れていました。
重力は感じるのに、中を歩くモモタたちは海底へと落ちていきません。あぶくトンネルはほとんど垂直なのにです。
アゲハちゃんは、あぶくに阻まれて羽ばたかせられない翅を触りながら言いました。
「飛べないけれど、殆ど地上と変わらないわね」
「もっと上にくると、うんとに地上に近いと思うよ」とキキが言います。「モモタのお尻くらいの高さを目指してごらん」
アゲハちゃんは、キキの言う通り、階段を上るように気泡を上っていきます。すると、気泡はなくなって地上と同じ環境になりました。気泡の壁越しに海の中を走る遊歩道のようです。
試しに飛んでみたアゲハちゃんが、キキに言いました。
「どういうことかしら?」
「前にモモタがいるから、あぶくが分かれるんだろうね。後ろを見てみると、またあぶくでふさがっていくから」
「じゃあ、わたし、当分モモちゃんのしっぽにいるわ」
アゲハちゃんはそう言って、モモタのしっぽに座りました。
クークブアジハーの住処の中は真っ暗です。
モモタの足元であぶくのトンネルを作っていた若そうな声のイルカが言いました。
「僕たちも何も見えないから、実は全貌は分からないんだ。道に迷ったら出てこれないから、奥まで探せないし」
キキが訊きます。
「それじゃあ、このあぶくトンネルはどこまで続いているの?」
「ずっと奥のほうにさ。最初に見つけた空気がある部屋までだよ」
まったく光が差し込まないので、モモタにも何も見えません。あぶくトンネルから出ないようにするだけで精一杯でした。暗闇は僕に任せて、と言わんばかりに、チュウ太が先頭に立ちます。「チュウチュウ」鳴きながら、モモタを先導しました。
どれだけ進んできたのでしょう。遠くに揺らめきながら薄緑色に燐光する海面が見えてきました。ついに空気で満たされた部屋に辿り着いたのです。そこは、正方形の部屋でした。
四面を水路に囲まれていて、殺風景な部屋でした。熊よりも大きく切り出された石を積み上げた石壁には、奥の一面にだけ大きな開口部があって、通路が繋がっています
床には、たくさんの苔が生えていました。その苔が淡く燐光していて、とても幻想的な風景を醸し出しています。
それは、ろうそくの灯りのように、灯のそばだけを強く照らすものではありません。なんせ、床ばかりでなく壁にも天井にも苔は生えていましたから、部屋全体が薄緑色に輝いていたのです。
アゲハちゃんが、宙へ舞いあがりながら言いました。
「不思議。とってもきれいだわ」
アゲハちゃんは、そのまま苔の先にとまって、その葉先の柔らかいところをかじって青汁を飲んでみます。
「美味しー。ちょっと塩味がきいていて、山で舐めるごはんと一味違うわ」
モモタたちも苔をなめてみます。確かに微かな塩味がしました。海水のように毟り千切られるようなしょっぱさではありません。
数頭のイルカが海面に顔を出して、その中の一頭が言いました。
「なるべく早く戻ってきてね。クークブアジハーが戻ってきたら、僕たちここにいられないから。苔がごはんになるのなら、ひもじい思いはしないだろうけど、彼がまた遠洋ごはんに出るまでここにいることになるからね」
「うん、分かったー。行ってきまーす」
モモタたちは元気にお返事をして、奥へと進んでいきました。
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