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モモタとママと虹の架け橋
第七十九話 新しいお友達
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モモタたちは、もう一度螺旋階段を上っていって、恐る恐る屋上へと顔を出してみます。
モモタが、チュウ太に小声で言いました。
「あれが、ホオジロザメのクークブアジハーかな?」
「絶対そうだよ。あんなでかいの、クジラ以外で見たことないもん。明らかに僕らのこと食べようとしてただろ、絶対クジラじゃないよ。サメさ。サメってやつだよ」
「モモちゃんは、サメを見たことあるでしょう?」とアゲハちゃん。
「うん、今の僕より小さかったけど、お顔の形は同じだったかな」
そう言って、モモタはゆっくりと屋上に上がります。
「みんな、大丈夫だよ」モモタはそう言って、みんなを呼びました。「サメは、海の中でしか呼吸できないから、壁を越えてこっちには来れないよ。水路は狭いし、一度入ったら出られないし、クークプアジハーには浅すぎて、苦しくて死んじゃうもん」
それを聞いたみんなは、安心して屋上に出てきます。
ふと何かの気配に気がついたモモタが、水路を見ました。なにか、白くてマシュマロみたいな心和むお友達が、つぶらな瞳でこっちを見ています。モモタは目があって、一瞬言葉が出ませんでした。あたかも時が止まったかのようです。
マシュマロちゃんが言いました。
「あら、わたしそんなに可愛いかしら」
「なんかいるー!」みんな一斉に声をそろえて叫びます。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」とマシュマロちゃんが言うと、男の子のイルカが近づいてきて、モモタたちに話しかけてきました。
「あれ? 地上のお友だちじゃない。どうやってここまで来たんだい?」
モモタは答えて言いました。
「僕たち、イルカのあぶくトンネルを通ってここに来たんだ」そして訊き返しました。「もしかして、ウーマク君?」
「そうだよ。あ、もしかして、みんな探してる? 僕長いことここにいるから、みんな心配しているかも。
まっいっか。ちゃくちゃくちゃんと一緒だから、心配ないって伝えておいて」
ウーマク君は笑いました。それを見た『ちゃくちゃく』ちゃんと呼ばれるジュゴンの女の子が、心配そうに言います。
「ほら、だから言ったじゃない。早く海へ帰りなさいって。わたしなんて放っておけばいいのよ」
「そんなことできないよ。ちゃくちゃくちゃんを見捨てて外に出るなんて」
「大丈夫よ。ここには苔がたくさん生えているから飢え死にしたりはしないわ」
「でも、ちゃくちゃくちゃんは一頭ぽっちになっちゃうじゃないか」
「そうね。でもいいの。あなたと遊んだ思い出を胸に、ここで暮らすわ。今までわたしのためにこんなに狭い池にいてくれたんだもの。それだけで十分だわ」
とてもいい雰囲気です。恋人同士のようでした。
モモタが二頭でここにいるわけを訊くと、実はここに閉じ込められている、というのです。
ウーマク君が語ってくれたお話は、このようなものでした。
ある日のことでした。ニライカナイの中心にあるサンゴ山の主クークブアジハーが外洋にごはんを食べにいっていました。巣の中に興味を持ったウーマク君は、それを見計らってねぐらを覗いてみることにしました。
止めるちゃくちゃくちゃんの言うことも聞かず、ねぐらに向かって潜っていきます。心配したちゃくちゃくちゃんも一緒に潜っていきました。
意外にも中はとっても広く、海底トンネルが縦横無尽に走っています。沖縄周辺に点在するよくある海底遺跡の一つのようでした。
ニライカナイを構成するサンゴ礁の浅瀬で生まれ育ったウーマク君でしたが、ここに遺跡があったなんてしりません。そんな話も聞いたことありませんでした。
真っ暗な中を興奮気味に進んでいくと、崩れた石がくちばしに当ります。探ってみると穴が開いているようでした。二頭で進んでいきます。すると、独立円柱が立ち並んだ広い回廊に出ました。海面が淡い薄緑色に照らされています。
ちゃくちゃくちゃんが息苦しそうにしていたので、ウーマク君は彼女に背をかして、急いで水面へと浮上しました。天井付近には空気があります。水面に出た円柱や天井には、ヒカリゴケがびっしりと生えていて、幻想的に燐光していました。
横道のない道を少し行くと、左右に大きなアーチ天上の出入口が空いています。右を見ると、ウーマク君の全長よりも長い踏面の階段が、階下へと続いています。下のほうは暗闇に飲まれていて見えません。
左を見ると、同じ幅の階段が階上へと続いています。こちらは、上に上がれば上がるほど、微かに明るくなっているようでした。
階段の先は見えません。ですが、暗い道を行くよりましだと思ったウーマク君は、ちゃくちゃくちゃんを連れてもう少し深く潜り、アーチ天上の階段を泳いで登っていきました。
天井に空いた四角い穴を塞いでいた瓦礫をかき分けて上に出た瞬間、海水を透過する眩しい光がまなこに差し込みます。思わず目をしばたたかせた二頭がゆっくりとまぶたを開けると、そこには広い海が広がっていました。
一体ここはどこなのでしょう。海草(うみくさ)や海藻が散見される敷石の海底には、サンゴは全く生えていません。所々に砂が堆積しています。屋根のない石造りの建物が点在していました。ですが、誰か住んでいる様子はありません。いるのは、たくさんの魚だけでした。
それほど遠くまで泳いできたわけではありませんが、イルカの姿はどこにもありません。ウーマク君が大きな声でみんなを呼んでみますが、何の返事も返ってきませんでした。
中央に壁で四角く囲まれた陸地があります。今モモタたちがいるところです。ぐるっと回ったウーマク君たちは、しばらくの間二頭で遊び回っていました。魚も海藻も沢山です。まさに食べ放題でした。あまりに楽しすぎて、二頭は時を忘れて泳ぎ回ります。
元気いっぱいの二頭でしたが、さすがに疲れてきました。休憩のために、壁の一つにある緩やかな階段に上ってお話をしていると、ふとちゃくちゃくちゃんが気がつきました。
「わたしたち、随分長いこと遊んでいたけれど、陽が全く沈まないのね。太陽は今どのあたりかしら」
二頭して見渡しますが、どこにも太陽はありません。明るさからいって正午くらいでしょうか。
ウーマク君がそう答えると、ちゃくちゃくちゃんが言葉を返します。
「わたしたちが、クークブアジハーのねぐらに入ったのは、お昼前くらいよ。それからだいぶ時間が経つのに、今お昼ってことないんじゃない?」
それもそうです。二頭は、とりあえずお家に帰ることにしました。
モモタが、チュウ太に小声で言いました。
「あれが、ホオジロザメのクークブアジハーかな?」
「絶対そうだよ。あんなでかいの、クジラ以外で見たことないもん。明らかに僕らのこと食べようとしてただろ、絶対クジラじゃないよ。サメさ。サメってやつだよ」
「モモちゃんは、サメを見たことあるでしょう?」とアゲハちゃん。
「うん、今の僕より小さかったけど、お顔の形は同じだったかな」
そう言って、モモタはゆっくりと屋上に上がります。
「みんな、大丈夫だよ」モモタはそう言って、みんなを呼びました。「サメは、海の中でしか呼吸できないから、壁を越えてこっちには来れないよ。水路は狭いし、一度入ったら出られないし、クークプアジハーには浅すぎて、苦しくて死んじゃうもん」
それを聞いたみんなは、安心して屋上に出てきます。
ふと何かの気配に気がついたモモタが、水路を見ました。なにか、白くてマシュマロみたいな心和むお友達が、つぶらな瞳でこっちを見ています。モモタは目があって、一瞬言葉が出ませんでした。あたかも時が止まったかのようです。
マシュマロちゃんが言いました。
「あら、わたしそんなに可愛いかしら」
「なんかいるー!」みんな一斉に声をそろえて叫びます。
「そんなに驚かなくてもいいじゃない」とマシュマロちゃんが言うと、男の子のイルカが近づいてきて、モモタたちに話しかけてきました。
「あれ? 地上のお友だちじゃない。どうやってここまで来たんだい?」
モモタは答えて言いました。
「僕たち、イルカのあぶくトンネルを通ってここに来たんだ」そして訊き返しました。「もしかして、ウーマク君?」
「そうだよ。あ、もしかして、みんな探してる? 僕長いことここにいるから、みんな心配しているかも。
まっいっか。ちゃくちゃくちゃんと一緒だから、心配ないって伝えておいて」
ウーマク君は笑いました。それを見た『ちゃくちゃく』ちゃんと呼ばれるジュゴンの女の子が、心配そうに言います。
「ほら、だから言ったじゃない。早く海へ帰りなさいって。わたしなんて放っておけばいいのよ」
「そんなことできないよ。ちゃくちゃくちゃんを見捨てて外に出るなんて」
「大丈夫よ。ここには苔がたくさん生えているから飢え死にしたりはしないわ」
「でも、ちゃくちゃくちゃんは一頭ぽっちになっちゃうじゃないか」
「そうね。でもいいの。あなたと遊んだ思い出を胸に、ここで暮らすわ。今までわたしのためにこんなに狭い池にいてくれたんだもの。それだけで十分だわ」
とてもいい雰囲気です。恋人同士のようでした。
モモタが二頭でここにいるわけを訊くと、実はここに閉じ込められている、というのです。
ウーマク君が語ってくれたお話は、このようなものでした。
ある日のことでした。ニライカナイの中心にあるサンゴ山の主クークブアジハーが外洋にごはんを食べにいっていました。巣の中に興味を持ったウーマク君は、それを見計らってねぐらを覗いてみることにしました。
止めるちゃくちゃくちゃんの言うことも聞かず、ねぐらに向かって潜っていきます。心配したちゃくちゃくちゃんも一緒に潜っていきました。
意外にも中はとっても広く、海底トンネルが縦横無尽に走っています。沖縄周辺に点在するよくある海底遺跡の一つのようでした。
ニライカナイを構成するサンゴ礁の浅瀬で生まれ育ったウーマク君でしたが、ここに遺跡があったなんてしりません。そんな話も聞いたことありませんでした。
真っ暗な中を興奮気味に進んでいくと、崩れた石がくちばしに当ります。探ってみると穴が開いているようでした。二頭で進んでいきます。すると、独立円柱が立ち並んだ広い回廊に出ました。海面が淡い薄緑色に照らされています。
ちゃくちゃくちゃんが息苦しそうにしていたので、ウーマク君は彼女に背をかして、急いで水面へと浮上しました。天井付近には空気があります。水面に出た円柱や天井には、ヒカリゴケがびっしりと生えていて、幻想的に燐光していました。
横道のない道を少し行くと、左右に大きなアーチ天上の出入口が空いています。右を見ると、ウーマク君の全長よりも長い踏面の階段が、階下へと続いています。下のほうは暗闇に飲まれていて見えません。
左を見ると、同じ幅の階段が階上へと続いています。こちらは、上に上がれば上がるほど、微かに明るくなっているようでした。
階段の先は見えません。ですが、暗い道を行くよりましだと思ったウーマク君は、ちゃくちゃくちゃんを連れてもう少し深く潜り、アーチ天上の階段を泳いで登っていきました。
天井に空いた四角い穴を塞いでいた瓦礫をかき分けて上に出た瞬間、海水を透過する眩しい光がまなこに差し込みます。思わず目をしばたたかせた二頭がゆっくりとまぶたを開けると、そこには広い海が広がっていました。
一体ここはどこなのでしょう。海草(うみくさ)や海藻が散見される敷石の海底には、サンゴは全く生えていません。所々に砂が堆積しています。屋根のない石造りの建物が点在していました。ですが、誰か住んでいる様子はありません。いるのは、たくさんの魚だけでした。
それほど遠くまで泳いできたわけではありませんが、イルカの姿はどこにもありません。ウーマク君が大きな声でみんなを呼んでみますが、何の返事も返ってきませんでした。
中央に壁で四角く囲まれた陸地があります。今モモタたちがいるところです。ぐるっと回ったウーマク君たちは、しばらくの間二頭で遊び回っていました。魚も海藻も沢山です。まさに食べ放題でした。あまりに楽しすぎて、二頭は時を忘れて泳ぎ回ります。
元気いっぱいの二頭でしたが、さすがに疲れてきました。休憩のために、壁の一つにある緩やかな階段に上ってお話をしていると、ふとちゃくちゃくちゃんが気がつきました。
「わたしたち、随分長いこと遊んでいたけれど、陽が全く沈まないのね。太陽は今どのあたりかしら」
二頭して見渡しますが、どこにも太陽はありません。明るさからいって正午くらいでしょうか。
ウーマク君がそう答えると、ちゃくちゃくちゃんが言葉を返します。
「わたしたちが、クークブアジハーのねぐらに入ったのは、お昼前くらいよ。それからだいぶ時間が経つのに、今お昼ってことないんじゃない?」
それもそうです。二頭は、とりあえずお家に帰ることにしました。
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