猫のモモタ

緒方宗谷

文字の大きさ
446 / 514
モモタとママと虹の架け橋

第七十九話 新しいお友達

しおりを挟む
 モモタたちは、もう一度螺旋階段を上っていって、恐る恐る屋上へと顔を出してみます。

 モモタが、チュウ太に小声で言いました。

 「あれが、ホオジロザメのクークブアジハーかな?」

 「絶対そうだよ。あんなでかいの、クジラ以外で見たことないもん。明らかに僕らのこと食べようとしてただろ、絶対クジラじゃないよ。サメさ。サメってやつだよ」

 「モモちゃんは、サメを見たことあるでしょう?」とアゲハちゃん。

 「うん、今の僕より小さかったけど、お顔の形は同じだったかな」

 そう言って、モモタはゆっくりと屋上に上がります。

 「みんな、大丈夫だよ」モモタはそう言って、みんなを呼びました。「サメは、海の中でしか呼吸できないから、壁を越えてこっちには来れないよ。水路は狭いし、一度入ったら出られないし、クークプアジハーには浅すぎて、苦しくて死んじゃうもん」

 それを聞いたみんなは、安心して屋上に出てきます。

 ふと何かの気配に気がついたモモタが、水路を見ました。なにか、白くてマシュマロみたいな心和むお友達が、つぶらな瞳でこっちを見ています。モモタは目があって、一瞬言葉が出ませんでした。あたかも時が止まったかのようです。

 マシュマロちゃんが言いました。

 「あら、わたしそんなに可愛いかしら」

 「なんかいるー!」みんな一斉に声をそろえて叫びます。

 「そんなに驚かなくてもいいじゃない」とマシュマロちゃんが言うと、男の子のイルカが近づいてきて、モモタたちに話しかけてきました。

 「あれ? 地上のお友だちじゃない。どうやってここまで来たんだい?」

 モモタは答えて言いました。

 「僕たち、イルカのあぶくトンネルを通ってここに来たんだ」そして訊き返しました。「もしかして、ウーマク君?」

 「そうだよ。あ、もしかして、みんな探してる? 僕長いことここにいるから、みんな心配しているかも。
  まっいっか。ちゃくちゃくちゃんと一緒だから、心配ないって伝えておいて」

 ウーマク君は笑いました。それを見た『ちゃくちゃく』ちゃんと呼ばれるジュゴンの女の子が、心配そうに言います。

 「ほら、だから言ったじゃない。早く海へ帰りなさいって。わたしなんて放っておけばいいのよ」

 「そんなことできないよ。ちゃくちゃくちゃんを見捨てて外に出るなんて」

 「大丈夫よ。ここには苔がたくさん生えているから飢え死にしたりはしないわ」

 「でも、ちゃくちゃくちゃんは一頭ぽっちになっちゃうじゃないか」

 「そうね。でもいいの。あなたと遊んだ思い出を胸に、ここで暮らすわ。今までわたしのためにこんなに狭い池にいてくれたんだもの。それだけで十分だわ」

 とてもいい雰囲気です。恋人同士のようでした。

 モモタが二頭でここにいるわけを訊くと、実はここに閉じ込められている、というのです。
 ウーマク君が語ってくれたお話は、このようなものでした。

 ある日のことでした。ニライカナイの中心にあるサンゴ山の主クークブアジハーが外洋にごはんを食べにいっていました。巣の中に興味を持ったウーマク君は、それを見計らってねぐらを覗いてみることにしました。

 止めるちゃくちゃくちゃんの言うことも聞かず、ねぐらに向かって潜っていきます。心配したちゃくちゃくちゃんも一緒に潜っていきました。

 意外にも中はとっても広く、海底トンネルが縦横無尽に走っています。沖縄周辺に点在するよくある海底遺跡の一つのようでした。

 ニライカナイを構成するサンゴ礁の浅瀬で生まれ育ったウーマク君でしたが、ここに遺跡があったなんてしりません。そんな話も聞いたことありませんでした。

 真っ暗な中を興奮気味に進んでいくと、崩れた石がくちばしに当ります。探ってみると穴が開いているようでした。二頭で進んでいきます。すると、独立円柱が立ち並んだ広い回廊に出ました。海面が淡い薄緑色に照らされています。

 ちゃくちゃくちゃんが息苦しそうにしていたので、ウーマク君は彼女に背をかして、急いで水面へと浮上しました。天井付近には空気があります。水面に出た円柱や天井には、ヒカリゴケがびっしりと生えていて、幻想的に燐光していました。

 横道のない道を少し行くと、左右に大きなアーチ天上の出入口が空いています。右を見ると、ウーマク君の全長よりも長い踏面の階段が、階下へと続いています。下のほうは暗闇に飲まれていて見えません。

 左を見ると、同じ幅の階段が階上へと続いています。こちらは、上に上がれば上がるほど、微かに明るくなっているようでした。

 階段の先は見えません。ですが、暗い道を行くよりましだと思ったウーマク君は、ちゃくちゃくちゃんを連れてもう少し深く潜り、アーチ天上の階段を泳いで登っていきました。

 天井に空いた四角い穴を塞いでいた瓦礫をかき分けて上に出た瞬間、海水を透過する眩しい光がまなこに差し込みます。思わず目をしばたたかせた二頭がゆっくりとまぶたを開けると、そこには広い海が広がっていました。

 一体ここはどこなのでしょう。海草(うみくさ)や海藻が散見される敷石の海底には、サンゴは全く生えていません。所々に砂が堆積しています。屋根のない石造りの建物が点在していました。ですが、誰か住んでいる様子はありません。いるのは、たくさんの魚だけでした。

 それほど遠くまで泳いできたわけではありませんが、イルカの姿はどこにもありません。ウーマク君が大きな声でみんなを呼んでみますが、何の返事も返ってきませんでした。

 中央に壁で四角く囲まれた陸地があります。今モモタたちがいるところです。ぐるっと回ったウーマク君たちは、しばらくの間二頭で遊び回っていました。魚も海藻も沢山です。まさに食べ放題でした。あまりに楽しすぎて、二頭は時を忘れて泳ぎ回ります。

 元気いっぱいの二頭でしたが、さすがに疲れてきました。休憩のために、壁の一つにある緩やかな階段に上ってお話をしていると、ふとちゃくちゃくちゃんが気がつきました。

 「わたしたち、随分長いこと遊んでいたけれど、陽が全く沈まないのね。太陽は今どのあたりかしら」

 二頭して見渡しますが、どこにも太陽はありません。明るさからいって正午くらいでしょうか。

 ウーマク君がそう答えると、ちゃくちゃくちゃんが言葉を返します。

 「わたしたちが、クークブアジハーのねぐらに入ったのは、お昼前くらいよ。それからだいぶ時間が経つのに、今お昼ってことないんじゃない?」

 それもそうです。二頭は、とりあえずお家に帰ることにしました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ノースキャンプの見張り台

こいちろう
児童書・童話
 時代劇で見かけるような、古めかしい木づくりの橋。それを渡ると、向こう岸にノースキャンプがある。アーミーグリーンの北門と、その傍の監視塔。まるで映画村のセットだ。 進駐軍のキャンプ跡。周りを鉄さびた有刺鉄線に囲まれた、まるで要塞みたいな町だった。進駐軍が去ってからは住宅地になって、たくさんの子どもが暮らしていた。  赤茶色にさび付いた監視塔。その下に広がる広っぱは、子どもたちの最高の遊び場だ。見張っているのか、見守っているのか、鉄塔の、あのてっぺんから、いつも誰かに見られているんじゃないか?ユーイチはいつもそんな風に感じていた。

あだ名が242個ある男(実はこれ実話なんですよ25)

tomoharu
児童書・童話
え?こんな話絶対ありえない!作り話でしょと思うような話からあるある話まで幅広い範囲で物語を考えました!ぜひ読んでみてください!数年後には大ヒット間違いなし!! 作品情報【伝説の物語(都道府県問題)】【伝説の話題(あだ名とコミュニケーションアプリ)】【マーライオン】【愛学両道】【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】【トモレオ突破椿】など ・【やりすぎヒーロー伝説&ドリームストーリー】とは、その話はさすがに言いすぎでしょと言われているほぼ実話ストーリーです。 小さい頃から今まで主人公である【紘】はどのような体験をしたのかがわかります。ぜひよんでくださいね! ・【トモレオ突破椿】は、公務員試験合格なおかつ様々な問題を解決させる話です。 頭の悪かった人でも公務員になれることを証明させる話でもあるので、ぜひ読んでみてください! 特別記念として実話を元に作った【呪われし◯◯シリーズ】も公開します! トランプ男と呼ばれている切札勝が、トランプゲームに例えて次々と問題を解決していく【トランプ男】シリーズも大人気! 人気者になるために、ウソばかりついて周りの人を誘導し、すべて自分のものにしようとするウソヒコをガチヒコが止める【嘘つきは、嘘治の始まり】というホラーサスペンスミステリー小説

たったひとつの願いごと

りおん雑貨店
絵本
銀河のはてで、世界を見守っている少年がおりました。 その少年が幸せにならないと、世界は冬のままでした。 少年たちのことが大好きないきものたちの、たったひとつの願いごと。 それは…

「いっすん坊」てなんなんだ

こいちろう
児童書・童話
 ヨシキは中学一年生。毎年お盆は瀬戸内海の小さな島に帰省する。去年は帰れなかったから二年ぶりだ。石段を上った崖の上にお寺があって、書院の裏は狭い瀬戸を見下ろす絶壁だ。その崖にあった小さなセミ穴にいとこのユキちゃんと一緒に吸い込まれた。長い長い穴の底。そこにいたのがいっすん坊だ。ずっとこの島の歴史と、生きてきた全ての人の過去を記録しているという。ユキちゃんは神様だと信じているが、どうもうさんくさいやつだ。するといっすん坊が、「それなら、おまえの振り返りたい過去を三つだけ、再現してみせてやろう」という。  自分の過去の振り返りから、両親への愛を再認識するヨシキ・・・           

ぽんちゃん、しっぽ!

こいちろう
児童書・童話
 タケルは一人、じいちゃんとばあちゃんの島に引っ越してきた。島の小学校は三年生のタケルと六年生の女子が二人だけ。昼休みなんか広い校庭にひとりぼっちだ。ひとりぼっちはやっぱりつまらない。サッカーをしたって、いつだってゴールだもん。こんなにゴールした小学生ってタケルだけだ。と思っていたら、みかん畑から飛び出してきた。たぬきだ!タケルのけったボールに向かっていちもくさん、あっという間にゴールだ!やった、相手ができたんだ。よし、これで面白くなるぞ・・・

神ちゃま

吉高雅己
絵本
☆神ちゃま☆は どんな願いも 叶えることができる 神の力を失っていた

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

美少女仮面とその愉快な仲間たち(一般作)

ヒロイン小説研究所
児童書・童話
未来からやってきた高校生の白鳥希望は、変身して美少女仮面エスポワールとなり、3人の子ども達と事件を解決していく。未来からきて現代感覚が分からない望みにいたずらっ子の3人組が絡んで、ややコミカルな一面をもった年齢指定のない作品です。

処理中です...