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モモタとママと虹の架け橋
第八十九話 黒潮の向こうにある世界
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第三景 機転
(怯える三頭)
シルチ (オーサンを岩の間に押し込め、背で隠す)
ビナヒチャイ
「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」
シュモクザメたち合唱
「シュモクザメー」
ビナヒチャイ
「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」
シュモクザメたち合唱
「シュモクザメー」
ビナヒチャイ
「お、こんなところで珍しい、あんたはジュゴンの姫君だろう」
侍女たち(姫の前に立ちふさがる)
ビナヒチャイ
「案ずるなかれ、怯えなくても大丈夫。
あんたたちは、ごはんにするには大きすぎる。
それよりちょっと訊ねたい、
この辺りでイルカを目にはしなかったか?
たぶん大怪我を負っているはず」
シュモクザメ合唱
(バス一匹、バリトン三匹、テノール三匹に別れて)
バリトン 「腹空いた、腹空いた」
テノール「腹空いた、腹空いた」
バス 「新鮮な血だ。この辺りが一番濃いにおいがするんだ。
探せー探せー探せーっ、探せー探せー探せーっ」
クジウチュン
(ジュゴンたちに向かって)
「まさか、イルカを庇うわけあるまい?」
オーサビー
(シルチに向かって頭をシェイクシェイク)
「ならば姫とて容赦はしない」
ビナヒチャイ
「もしそうなら、お前らが餌食だ、ちょっと俺より大きいけれど、
こちとら十匹もいるのだから、一頭くらいは仕留められるぜ」
シルチ (顔を見合わせるアゲハちゃんとチムの間から)
「何か勘違いをなさっているわ、この辺りでイルカは見ていない。
だってここの水深はとてもじゃないけど浅すぎて、
泳いで遊ぶには物足りないもの。
イルカの素早い泳ぎを見れば、そんなことは分かるでしょう?
小さな魚が身を隠すサンゴも、岩場だって少ないのだから、
狩場にするには殺風景」
シュモクザメ合唱
(バス一匹、バリトン三匹、テノール三匹に別れて)
バス 「ウソだ」
テノール 「絶対隠しているぞ」
バス 「この岩場の奥なら隠しようもある」
バリトン 「逃げる暇を与えるな」
ビナヒチャイと《バス》が同時に
「探せ、その岩場の奥を」《オォオーオー、オォォオー》
「イルカの縄張りはここから遠い、散開して探せば逃がさない」
《オォオーオー、オォォオー》
シルチ 「この岩場の奥はすぐさまにジュゴンの住まう星の海、
イルカたちは入れません。
わたしは忠告しているのです、我が父が迎える大事な賓客、
知性のナラユン様を筆頭に、力強いマギ様ばかりか、
素早きフェーサン様が来ているのだから。
従者の数も多くてよ、十匹足らずのあなたたちでは、
電光石火で一網打尽」
アゲハちゃん 「そうです、ですからイルカはいません」
チム 「入ることなどありえません。
だって昨日は大嵐、イルカの住処はずっと向こう、
何故にここに流れてくるのです。
もし怪我ししているというならば、すでに黒潮に乗って北のほう、
こっち側にはいないでしょう」
ビナヒチャイ
「確かにそれには一理ある」
クジウチュン
「兄貴、召使いの言うことなんか、まともに受けて信じるのか?」
オーサビー
「絶対俺なら信じないね」
ビナヒチャイ
「ああ、俺も信じちゃいない、信じられるは俺の鼻のみさ。
誰より広く見えるまなこ、必ずイルカを見つけてみせる」
シルチ 「もしかしたら、イルカでないのではないかしら」
ビナヒチャイ 「いいやイルカだ」
シルチ 「だって先ほど深みのほうに、大きな背びれが見えていたもの。
あれは絶対ホオジロザメだわ、獰猛なホオジロザメだわ。
あのサメなら合点がいくでしょ、深みの中に住んでいるから。
あの巨体だって投げ飛ばされる、それほど激しい大嵐」
ビナヒチャイ 「いいや、
違う、絶対に違う、この血はイルカで間違いない」
シルチ 「ならあれよ。
イルカは本当にいたのでしょう、でも遅かった、
あのホオジロザメが食べたのよ。
それよりあなたは逃げなくていいの?
あのホオジロザメはこの入り江には、入って来られはしないないけれど、
あなたたちがいるこの浅瀬には、来ることができるのよ。
イルカ一頭で満腹かしら? あの背びれの大きさならば、
あと二、三頭は食べられるはず」
バス 「騙されるーな、騙されるーな、ぜーんぶ話は嘘っぱち」
シルチ 「ほらあそこの波間の影に、尖った背びれが見えるでしょう?
一つ、二つ、三つ、四つ…、まあなんてことでしょう、
五匹のサメが群れているわ」
ビナヒチャイ
「うーん、確かにいる気がするぞ」
シルチ 「間違いないわ、あなたの視界はとても広い、
だからわたしよりよく見えるはずよ」
クジウチュンと《オーサビー》
「マジだ」《もっといるんじゃないか》「兄貴、俺たちどうするよ」
《食い散らかすのは得意だけれど、食い散らかるのはごめんだぜ》
ビナヒチャイ
「これは参った、俺たちの負けだ、ホオジロザメが相手では。
そもそもすでにイルカの野郎、即座に飲まれて胃の中だ」
シュモクザメ合唱
(慌てふためきながら)
「逃げろー」「逃げろー」「逃げろ、逃げろー」
「逃げろー」「逃げろー」「逃げろ、逃げろー」
シルチ、アゲハちゃんとチム
(大慌てで去っていくシュモクザメたちを見送る)
チム 「ですがシルチ様、何たるお目目、
わたしには見えません、ホオジロザメが、
どこにいるのか見えません」
シルチ 「全部方便、ホオジロザメなんて一匹も見てなんかいませんよ。
波の形そう見えただけ、シュモクザメたちには見えただけ。
確かにあの方たちの視界はとっても広いのだけれども、
見えているのはいつだって片目ずつ。
左の目でわたしを見ていて、右の目で波を見ていた。
だから勝手に思い込んだの、心に生まれた恐怖心から、
幾つかの波が背びれに見えたの」
アゲハちゃん
(イルカをつつきながら)
「それでこのイルカはどうするのです?」
シルチ 「このままでは衰弱しちゃうわ、岩場の内側に隠しましょう。
みんなにばれると怒られるから、端っこの方で看病しましょう」
(怯える三頭)
シルチ (オーサンを岩の間に押し込め、背で隠す)
ビナヒチャイ
「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」
シュモクザメたち合唱
「シュモクザメー」
ビナヒチャイ
「トンカチ、トンカチ、頭を振るうはシュモクザメー」
シュモクザメたち合唱
「シュモクザメー」
ビナヒチャイ
「お、こんなところで珍しい、あんたはジュゴンの姫君だろう」
侍女たち(姫の前に立ちふさがる)
ビナヒチャイ
「案ずるなかれ、怯えなくても大丈夫。
あんたたちは、ごはんにするには大きすぎる。
それよりちょっと訊ねたい、
この辺りでイルカを目にはしなかったか?
たぶん大怪我を負っているはず」
シュモクザメ合唱
(バス一匹、バリトン三匹、テノール三匹に別れて)
バリトン 「腹空いた、腹空いた」
テノール「腹空いた、腹空いた」
バス 「新鮮な血だ。この辺りが一番濃いにおいがするんだ。
探せー探せー探せーっ、探せー探せー探せーっ」
クジウチュン
(ジュゴンたちに向かって)
「まさか、イルカを庇うわけあるまい?」
オーサビー
(シルチに向かって頭をシェイクシェイク)
「ならば姫とて容赦はしない」
ビナヒチャイ
「もしそうなら、お前らが餌食だ、ちょっと俺より大きいけれど、
こちとら十匹もいるのだから、一頭くらいは仕留められるぜ」
シルチ (顔を見合わせるアゲハちゃんとチムの間から)
「何か勘違いをなさっているわ、この辺りでイルカは見ていない。
だってここの水深はとてもじゃないけど浅すぎて、
泳いで遊ぶには物足りないもの。
イルカの素早い泳ぎを見れば、そんなことは分かるでしょう?
小さな魚が身を隠すサンゴも、岩場だって少ないのだから、
狩場にするには殺風景」
シュモクザメ合唱
(バス一匹、バリトン三匹、テノール三匹に別れて)
バス 「ウソだ」
テノール 「絶対隠しているぞ」
バス 「この岩場の奥なら隠しようもある」
バリトン 「逃げる暇を与えるな」
ビナヒチャイと《バス》が同時に
「探せ、その岩場の奥を」《オォオーオー、オォォオー》
「イルカの縄張りはここから遠い、散開して探せば逃がさない」
《オォオーオー、オォォオー》
シルチ 「この岩場の奥はすぐさまにジュゴンの住まう星の海、
イルカたちは入れません。
わたしは忠告しているのです、我が父が迎える大事な賓客、
知性のナラユン様を筆頭に、力強いマギ様ばかりか、
素早きフェーサン様が来ているのだから。
従者の数も多くてよ、十匹足らずのあなたたちでは、
電光石火で一網打尽」
アゲハちゃん 「そうです、ですからイルカはいません」
チム 「入ることなどありえません。
だって昨日は大嵐、イルカの住処はずっと向こう、
何故にここに流れてくるのです。
もし怪我ししているというならば、すでに黒潮に乗って北のほう、
こっち側にはいないでしょう」
ビナヒチャイ
「確かにそれには一理ある」
クジウチュン
「兄貴、召使いの言うことなんか、まともに受けて信じるのか?」
オーサビー
「絶対俺なら信じないね」
ビナヒチャイ
「ああ、俺も信じちゃいない、信じられるは俺の鼻のみさ。
誰より広く見えるまなこ、必ずイルカを見つけてみせる」
シルチ 「もしかしたら、イルカでないのではないかしら」
ビナヒチャイ 「いいやイルカだ」
シルチ 「だって先ほど深みのほうに、大きな背びれが見えていたもの。
あれは絶対ホオジロザメだわ、獰猛なホオジロザメだわ。
あのサメなら合点がいくでしょ、深みの中に住んでいるから。
あの巨体だって投げ飛ばされる、それほど激しい大嵐」
ビナヒチャイ 「いいや、
違う、絶対に違う、この血はイルカで間違いない」
シルチ 「ならあれよ。
イルカは本当にいたのでしょう、でも遅かった、
あのホオジロザメが食べたのよ。
それよりあなたは逃げなくていいの?
あのホオジロザメはこの入り江には、入って来られはしないないけれど、
あなたたちがいるこの浅瀬には、来ることができるのよ。
イルカ一頭で満腹かしら? あの背びれの大きさならば、
あと二、三頭は食べられるはず」
バス 「騙されるーな、騙されるーな、ぜーんぶ話は嘘っぱち」
シルチ 「ほらあそこの波間の影に、尖った背びれが見えるでしょう?
一つ、二つ、三つ、四つ…、まあなんてことでしょう、
五匹のサメが群れているわ」
ビナヒチャイ
「うーん、確かにいる気がするぞ」
シルチ 「間違いないわ、あなたの視界はとても広い、
だからわたしよりよく見えるはずよ」
クジウチュンと《オーサビー》
「マジだ」《もっといるんじゃないか》「兄貴、俺たちどうするよ」
《食い散らかすのは得意だけれど、食い散らかるのはごめんだぜ》
ビナヒチャイ
「これは参った、俺たちの負けだ、ホオジロザメが相手では。
そもそもすでにイルカの野郎、即座に飲まれて胃の中だ」
シュモクザメ合唱
(慌てふためきながら)
「逃げろー」「逃げろー」「逃げろ、逃げろー」
「逃げろー」「逃げろー」「逃げろ、逃げろー」
シルチ、アゲハちゃんとチム
(大慌てで去っていくシュモクザメたちを見送る)
チム 「ですがシルチ様、何たるお目目、
わたしには見えません、ホオジロザメが、
どこにいるのか見えません」
シルチ 「全部方便、ホオジロザメなんて一匹も見てなんかいませんよ。
波の形そう見えただけ、シュモクザメたちには見えただけ。
確かにあの方たちの視界はとっても広いのだけれども、
見えているのはいつだって片目ずつ。
左の目でわたしを見ていて、右の目で波を見ていた。
だから勝手に思い込んだの、心に生まれた恐怖心から、
幾つかの波が背びれに見えたの」
アゲハちゃん
(イルカをつつきながら)
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シルチ 「このままでは衰弱しちゃうわ、岩場の内側に隠しましょう。
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