猫のモモタ

緒方宗谷

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モモタとママと虹の架け橋

第九十九話 滅亡

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 最終幕 愛
   
(遺跡の最上部の屋上、中央に壁に囲まれた舞台があって、その周りにたくさんの家が並んでいる。
 家々や道路は、全て珊瑚に覆い尽くされている)

 第一景 愛は珊瑚

(舞台の上にオーサンとシルチがいる)
(海底神殿を覆ったサンゴが死に、だんだんと白化し、終いには砂と化してていく)
(周りを泳ぐお友達の殆どは、普通の魚やイルカやジュゴンで、人魚は疎らにしか泳いでいない)

シルチ (抱いているニーラを見て、泣き出しそうな声で)
    「ああ、あなた(オーサン)、見てくださいニーラを。
     日に日に衰弱している様子、サンゴの死が始まってから、
     フカの谷よりさらなる深みへ、無辜の笑みを奪われて、
     これほどまでにしっかりと、いだいているのに不安なほどに、
     無情にもすり抜けて、だんだんと静かに沈んでいく」

オーサン「皆が愛を忘れはじめた、サンゴが死ぬのはその証。
     ここのサンゴは普通と違う、我らの愛で生まれたサンゴ、
     真の愛がサンゴのごはん。
     この子は我らの愛の結晶、だから愛に満ちた海でしか、
     莞爾とした笑みを湛えられない」

シルチ 「満天の星空の星の如く、ここには人魚がたくさんいたのに、
     今はひれに乗せた石と同じで、数えるほどしか住んでいない」

オーサン「誰もが愛に飢えているのだ、皆はごはんの群れ追う大魚のように、
     ここに群がり、人魚の愛を、求め、永遠を願うけれも、
     それを阻む他の者あれば、憎悪をいだいて、争いを始める」

シルチ 「果ては、全ての色を失った、無味無臭の悲しい世界。
     一体だれがこんな世界を、望んだというのでしょう」

オーサン「いいや誰も望んでおるまい、
     そればかりか、愛し愛されることばかりを、
     切に望んでいるだろう。
     だがそれは歪んだ愛だ、一方的な愛のかたち、
     真実の愛には程遠い。
     結果として真実の愛の、結晶たる我らの娘が、
     始まりの人魚たる、愛のニーラが、滅びの波間へと泳ぐのだろう」


 第二景 決意

(舞台にいるオーサン、シルチ、ニーラのもとに、アオウミガメの男人魚、マグロの女人魚、メジロザメの女人魚、その他大勢の人魚がやってくる)

アオウミガメの男人魚
    「シルチ様、シルチ様、私どもは考えました」

大勢の人魚
    (唱和)                「考えました」

マグロの女人魚
    「ニーラ姫の死は我らの死、我らはみんな真実の、
     愛の悟りから生まれ出た、愛の結晶なのだから、
     いつかは我らも死に絶えるでしょう」

メジロザメの女人魚
    「ニーラ姫は愛深きお方です。
     だから死を一身に背おっておいでになられるのです。
     我らも等しく背負おうと思います、
     喜びも苦しみもニーラ様と共に」

大勢の人魚
    (合唱)
    「今ニーラ様は苦しみの中におられる、
     混沌の海水が混ざりはじめたこの海で、彩を極めたこの海で」
(一部の人魚が口々に)
    「我らは旅立ちます、愛の伝道師として」
    「わたしたちは残ります、この海を愛で満たすために」
    「わたしは愛されずとも愛を全うします」
    「私は、私を愛しましょう」

アオウミガメの男人魚
    「シルチ様、シルチ様、悲しみに暮れるのはおやめください、
     この海にはまだ愛が満ち満ちているのですから。
     七つの海から、真実の愛が、尽きて無くなることはないでしょう。
     浜珊瑚に囲まれた、海が如何に広しといったとしても、
     我ら人魚の愛をもってして、塩ほど濃いまでに溢れさせて
     溶けきれないまでにしてみせましょう。
     悠久の星霜を経て育った、この石の都のサンゴの海が、
     滅びることなくまた栄えますように」

(旅立つ者は旅立ち、残る者は残り、それぞれの真実の愛を奏でる営みに戻る)


 第三景 永遠とは今のこと

(舞台の上でニーラを抱くシルチ、オーサン)

シルチ 「皆はああ言ってくれたけれども、また海が愛で満つには、
     悠久の時の先の先、今は愛が忘れられる、
     波の流れがあるのですから、いつかは愛が尽きるでしょう
     寄せてはかえす波のように」

オーサン「諦めてはいけないよ、寄せてはかえす波のようなら、
     必ず波はまた打ち寄せる、溢れた愛が戻ってくるよ」

シルチ 「そうね、だけれどニーラの命は、その時まで残らないでしょう」

オーサン「僕たちの愛が永遠であれば、ニーラの命も永遠のはず」

シルチ 「ああ、オーサン愛しているわ、この身が溶けて合わさるほどに、
     熱い抱擁を交わしましょう」

オーサン「ああ、シルチ、愛しているよ、今ここで、
     内に秘めた愛を開放するんだ、ニーラのために、みんなのために」

シルチ 「周りを見渡してああ、見えるわ、たくさんのサンゴが、
     生まれて海を色鮮やかに、美しく飾って広がっていくのが」

オーサン「見てごらん、藻や苔が輝いているよ、僕たちの愛を、
     認めて賛美するかのように」

(サンゴが屋上を半円形に覆い始める)

シルチとオーサン
    (声が一つに溶け混ざり合って)
    「僕(私)たちの愛は真実の愛、波波が賛美の歌を歌っています。
     晴れ晴れ晴れるや、晴れやか晴れるや。
     ここは愛に閉ざされるでしょう、
     永遠なのかそうでないのか分からないけれど、
     いつか愛が溶けて満ちた、
     温かい海水で満たされるならば、
     天幕となった我らのサンゴは溶けて混ざって、
     愛の一部となりましょう。
     雨からも風からも、百年に一度の雪からさえも、
     あなたを守ってみせましょう。
     大きな嵐も、巨体の海獣からも…。
     真実の愛を、示せる者が、天を埋め尽くす綺羅星の如く、
     この七つの海に満ち溢れるまで」


(エンドロールが流れる中、拍手喝采)

主演 オーサン、シルチ

出演 南の海のお友だち

特別出演 モモタ、アゲハちゃん、キキ、チュウ太

愛情出演 ニーラ

(徐々に暗転して、幕が下りる)





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