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モモタとママと虹の架け橋
第百十三話 生まれた鳥生、楽しまにゃソンソン
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モモタたちは、カンタンのお口に乗ってお空の旅に出かけました。
陽が暮れ始めた頃、モモタたちを乗せたカンタンは、小さな無人島に下りていきます。今日はここで力こぶをしこたま充電。明日のために一晩ゆっくりと疲れをいやすことにしたのです。
その日の夜のことでした。大きな松の木の根元で寄りそって丸くなっていたみんなに、カンタンが言いました。
「アルトゥールとククルの話だけどさぁ。ずっと考えていたんだけど、なんか二人共考え過ぎなんじゃないかなぁ」
「どういうこと?」とモモタが訊きます。みんなもまだ寝入っていなかったので、カンタンのほうを見やりました。
カンタンは話し始めます。
「僕だったら、ククルがそんなに愛してくれるなら何でも受け入れちゃうな。愛して愛してってなっちゃうよ。僕にしたいこと、なんでも喜んでさせてあげる。もちろんいいことだけだけど」
キキが言いました。
「そうやって騙すやつも多いよ。ついていってガブッと食べられたらどうするの? お互いが愛情を確認し合って模索し合って、愛の結晶を作るんじゃない?」
カンタンが答えます。
「僕は動物園生まれなんだけど、初めはごはんをくれる飼育員さんは優しいなぁって思っていたんだ。だけれど、ある時気がついたんだ。僕にはお空を飛べる翼があるのに、なんでこんなオリに閉じ込められてるんだろうって。
それで考えたんだ。飼育員さんは、僕をオリに閉じ込めるために、優しいことをしてくれるんじゃないかなって。そう思ったら、オリが随分と狭く感じるようになったんだ。オリの中はちゃんと飛べるくらいに広いし、プールもあるし、遊び場もあるのに・・・。そうして息苦しくなっていったんだ。
それからというもの、いつもごはんをくれる飼育員さんの笑顔に、嫌な何かを感じるようになって、いつの間にか飼育員さんに会うのがつらく感じるようになったんだ。
そうしたらもう疑心暗鬼。言うこと成すこと、全部裏があるんじゃないかって思うようになったんだよ。そうして追い詰められていったんだ。僕は騙されてる、僕は大空を奪われたんだって。
それで決意したんだ。いつか僕は、ここを逃げ出して、大空の彼方まで飛んでいってやるぞって。
それである時、飼育員さんがお掃除のために開けておいた扉から逃げ出したんだ。そうしたら、毎日大変だのなんだのって、もう話しても話し切れなくて、舌も千切れちゃうよ。
カラスはちょかいだしてくるし、ごはんは自分で捕らないといけないし。雨は降るし、雪は降るし。全然快適じゃないんだもん。しかも、どこまで飛んでも空の彼方なんてないんだよ。疲れたから途中で降りちゃった。
野生の大変さが身に染みて、なんか飼育員さんが恋しくなって、今どうしてるかなぁって思って、ちょっと帰ってみたんだ。みんな大騒ぎで僕のところにやってきたよ。けど、無理に捕まえようとしないんだ。またオリに入れたそうにしてたけど。
甘ーい声で呼んでみたり、美味しそうなお魚を見せてみたりして、僕の気を引こうするばかりで、何日も見てるだけ。僕、どうしようか迷ったけど、お腹も空いてたし、おふろにも入りたかったし、一羽ぽっちで寂しかったから、帰ることにしたんだ。そしたら、一番仲がよかった女の子の飼育員の遠藤さんが来て、優しく僕を呼んで、一緒に歩き始めたの。ゲージの中に誘導するのあからさま。
またオリに閉じ込めるんだろうなって思ったけど、野生は大変だから、まあいいかなって思って、ゲージの方に行ったの。随分とのんびりしていたのに、遠藤さんは待っててくれてたんだ。だから僕は、ゆっくりとオリの生活を受け入れるかを見定めながら、ゲージの中に入ったの。
でも、お外はお外で楽しい。オリの中に戻ったら、またお外が恋しくなっちゃった。ごはん捕るのは大変だけど、捕るのは楽しいし。だから、またお掃除の隙に逃げちゃった」
「何が言いたいんだよ」とチュウ太。
カンタンは、笑って答えました。
「結局、見る方向次第だよね。騙すやつもいるし、僕たち動物園生まれのお友達は、騙されて生活してるのかもしれないけど、そんな生活を楽しいと思うかつまんないと思うかは、自分次第だよ。
飼育員さんだって、心根が悪い子だから僕たちを閉じ込めてるんじゃないでしょ。僕たちが大好きだから、お世話したくて閉じ込めてるんだ。それも真心からきてるんじゃないかな。
真心って、もしかしたら善も悪もないんじゃない? 色々な気持ちが混ざり合って一つになってるんだよ。だから、騙されることが悪いことじゃない。いいことなら騙してもいいし、騙されてもいいと思うよ。僕騙されっぱなしで幸せだもの。毎日飼育員さんにお世話してもらえて、もうサイコー」
モモタたちには、よく分からないお話でした。善も悪もないなんて言われて、戸惑うばかりです。だって悪い行いも真心から行われる、と言われているようでしたから。もし本当に、真心が善と悪、渾然一体としているのなら、どうしてそれが良いことと悪いことに分かれて出てくるのでしょう。
カンタンが言いました。
「モモタが、大好きな女の子にネズミを捕ってあげようと思った時に――」
すかさずチュウ太が、「ねずみ以外で例えてよ」と言いました。
カンタンが、言い換えます。
「――ラットを捕ってあげようと思った時に溢れてる気持ちは、真心からでしょ? でも捕まえる時隠れてたり、忍び足でばれないようにするじゃない? その時はねず…ラットをだましてるじゃない。ねず…ラットから見たら悪だよね。真心からの行いじゃないよ。
つまりは、結局その結果が楽しいか楽しくないかでいいじゃない?」
カンタンは、不思議な悟りでも開いているのでしょうか。
陽が暮れ始めた頃、モモタたちを乗せたカンタンは、小さな無人島に下りていきます。今日はここで力こぶをしこたま充電。明日のために一晩ゆっくりと疲れをいやすことにしたのです。
その日の夜のことでした。大きな松の木の根元で寄りそって丸くなっていたみんなに、カンタンが言いました。
「アルトゥールとククルの話だけどさぁ。ずっと考えていたんだけど、なんか二人共考え過ぎなんじゃないかなぁ」
「どういうこと?」とモモタが訊きます。みんなもまだ寝入っていなかったので、カンタンのほうを見やりました。
カンタンは話し始めます。
「僕だったら、ククルがそんなに愛してくれるなら何でも受け入れちゃうな。愛して愛してってなっちゃうよ。僕にしたいこと、なんでも喜んでさせてあげる。もちろんいいことだけだけど」
キキが言いました。
「そうやって騙すやつも多いよ。ついていってガブッと食べられたらどうするの? お互いが愛情を確認し合って模索し合って、愛の結晶を作るんじゃない?」
カンタンが答えます。
「僕は動物園生まれなんだけど、初めはごはんをくれる飼育員さんは優しいなぁって思っていたんだ。だけれど、ある時気がついたんだ。僕にはお空を飛べる翼があるのに、なんでこんなオリに閉じ込められてるんだろうって。
それで考えたんだ。飼育員さんは、僕をオリに閉じ込めるために、優しいことをしてくれるんじゃないかなって。そう思ったら、オリが随分と狭く感じるようになったんだ。オリの中はちゃんと飛べるくらいに広いし、プールもあるし、遊び場もあるのに・・・。そうして息苦しくなっていったんだ。
それからというもの、いつもごはんをくれる飼育員さんの笑顔に、嫌な何かを感じるようになって、いつの間にか飼育員さんに会うのがつらく感じるようになったんだ。
そうしたらもう疑心暗鬼。言うこと成すこと、全部裏があるんじゃないかって思うようになったんだよ。そうして追い詰められていったんだ。僕は騙されてる、僕は大空を奪われたんだって。
それで決意したんだ。いつか僕は、ここを逃げ出して、大空の彼方まで飛んでいってやるぞって。
それである時、飼育員さんがお掃除のために開けておいた扉から逃げ出したんだ。そうしたら、毎日大変だのなんだのって、もう話しても話し切れなくて、舌も千切れちゃうよ。
カラスはちょかいだしてくるし、ごはんは自分で捕らないといけないし。雨は降るし、雪は降るし。全然快適じゃないんだもん。しかも、どこまで飛んでも空の彼方なんてないんだよ。疲れたから途中で降りちゃった。
野生の大変さが身に染みて、なんか飼育員さんが恋しくなって、今どうしてるかなぁって思って、ちょっと帰ってみたんだ。みんな大騒ぎで僕のところにやってきたよ。けど、無理に捕まえようとしないんだ。またオリに入れたそうにしてたけど。
甘ーい声で呼んでみたり、美味しそうなお魚を見せてみたりして、僕の気を引こうするばかりで、何日も見てるだけ。僕、どうしようか迷ったけど、お腹も空いてたし、おふろにも入りたかったし、一羽ぽっちで寂しかったから、帰ることにしたんだ。そしたら、一番仲がよかった女の子の飼育員の遠藤さんが来て、優しく僕を呼んで、一緒に歩き始めたの。ゲージの中に誘導するのあからさま。
またオリに閉じ込めるんだろうなって思ったけど、野生は大変だから、まあいいかなって思って、ゲージの方に行ったの。随分とのんびりしていたのに、遠藤さんは待っててくれてたんだ。だから僕は、ゆっくりとオリの生活を受け入れるかを見定めながら、ゲージの中に入ったの。
でも、お外はお外で楽しい。オリの中に戻ったら、またお外が恋しくなっちゃった。ごはん捕るのは大変だけど、捕るのは楽しいし。だから、またお掃除の隙に逃げちゃった」
「何が言いたいんだよ」とチュウ太。
カンタンは、笑って答えました。
「結局、見る方向次第だよね。騙すやつもいるし、僕たち動物園生まれのお友達は、騙されて生活してるのかもしれないけど、そんな生活を楽しいと思うかつまんないと思うかは、自分次第だよ。
飼育員さんだって、心根が悪い子だから僕たちを閉じ込めてるんじゃないでしょ。僕たちが大好きだから、お世話したくて閉じ込めてるんだ。それも真心からきてるんじゃないかな。
真心って、もしかしたら善も悪もないんじゃない? 色々な気持ちが混ざり合って一つになってるんだよ。だから、騙されることが悪いことじゃない。いいことなら騙してもいいし、騙されてもいいと思うよ。僕騙されっぱなしで幸せだもの。毎日飼育員さんにお世話してもらえて、もうサイコー」
モモタたちには、よく分からないお話でした。善も悪もないなんて言われて、戸惑うばかりです。だって悪い行いも真心から行われる、と言われているようでしたから。もし本当に、真心が善と悪、渾然一体としているのなら、どうしてそれが良いことと悪いことに分かれて出てくるのでしょう。
カンタンが言いました。
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「――ラットを捕ってあげようと思った時に溢れてる気持ちは、真心からでしょ? でも捕まえる時隠れてたり、忍び足でばれないようにするじゃない? その時はねず…ラットをだましてるじゃない。ねず…ラットから見たら悪だよね。真心からの行いじゃないよ。
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