極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ

文字の大きさ
1 / 36

Lesson 0 きっかけは甘いおねだり

しおりを挟む
「ねえ。高校合格のお礼をくれない?」

 いつもとはまったく違う情熱的な目で私を見る彼がそう言って笑った。
 なにかが違う。
 見慣れた顔のはずなのに、自分が知っている人物と同一だとどうしても思えなかった。
 耳元に落ちる囁き声だって別人みたいに違う。
 炎のように熱くたぎった目もそうだし、口角を意地悪く持ち上げる笑い方だって初めてだ。

 そんな顔で現れた彼を見た私は、まるで彫刻にでもなってしまったかのように一瞬で動けなくなった。
 だって彼がこれまでのどんな彼よりも魅力的な笑顔で甘ったるい声でささやくのだから。

「ねぇ、くれる?」

 って、頭を撫でるみたいに優しく。

 全身のゾクゾクがやまない。
 心臓がやかましいくらいに大きな音を立てている。
 彼の声が頭を真っ白にする。
 甘い、甘い、果実にも似た誘惑にめまいを起こしている。

 ――でもダメ! しっかりしなくちゃ!

 なんとしても抗いたくて、私は強く拳を握りしめる。
 だって高校入学したのはもう一年以上も前のことじゃない?

 ――今さら、なに言ってるの!?

 そう思うのに、引き寄せる腕に、力に、なにひとつ逆らえなかった。
 頭の中で警告音が鳴り響いている。
 これ以上は危険! 踏み込むなって。

 ――わかってる! わかってるけど……!

 すると彼は私の握りこぶしをゆっくり開くと、指を滑り込ませて恋人つなぎをした。
 ぎゅうっと力強く握りしめれてた途端、私の心臓がはじけ飛ぶ。
 嗅覚はスパイシーな香水とたばこの香りとが混じった匂いでいっぱいになっている。
 同学年の男子たちが振りまく汗と制汗スプレーの香りとは世界が違う。
 大人の男の人の匂い。
 くらくらして、気を抜いたら体の力が抜け落ちてしまいそう。

 一定のリズムで彼の鼓動が聞こえる。
 髪にかかる彼の吐息が熱い。
 耳に響く低い声は私の中で眠る女のさがを目覚めさせる。

 ――ああっ!

 背中に回った筋肉質のたくましい腕をどうやっても振りほどけない。
 胸の内から湧きあがる熱が痺れとともに足のつま先から頭の先へと抜けていって、まるで麻薬みたいに私を溶かすんだもの。

「大丈夫。優しくするから」

 媚薬にも似た低い声音に心地よい痺れが押し寄せてきて、私から完全に抵抗する意識を喪失させた。
 意思を奪われた私は、大きくて厚い胸に自分の身を預けるしかなかった。

 こうして高校二年のある夏の日、私はさなぎから蝶になった。
 小さい頃からずっと可愛がってくれていた優しいお隣のお兄ちゃん。
 家庭教師をしてくれていた大好きなお兄ちゃん。
 小さい頃の私は彼のお嫁さんになるのが夢だった。

 だけど、そんな幼い関係性はこの日から別のものに変わってしまった。
 甘く香るその人の匂いにつつまれながら、必死にその背にしがみつき、爪をたて、歯を食いしばる。
 うわごとのように彼の名前をつぶやきながら、ただ必死に情熱的な夢の中を泳いでいたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【R18】仲のいいバイト仲間だと思ってたら、いきなり襲われちゃいました!

奏音 美都
恋愛
ファミレスのバイト仲間の豪。 ノリがよくて、いい友達だと思ってたんだけど……いきなり、襲われちゃった。 ダメだって思うのに、なんで拒否れないのー!!

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。

すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。 そこで私は一人の男の人と出会う。 「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」 そんな言葉をかけてきた彼。 でも私には秘密があった。 「キミ・・・目が・・?」 「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」 ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。 「お願いだから俺を好きになって・・・。」 その言葉を聞いてお付き合いが始まる。 「やぁぁっ・・!」 「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」 激しくなっていく夜の生活。 私の身はもつの!? ※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 では、お楽しみください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...