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馬車の中で、グレイルが盛大に溜息をついた。本日、宰相補佐官の仕事がある関係で、行先は王宮なので、エドワードの馬車にグレイルもまた乗っている。エドワードとセレフィローズは別々の馬車を使用している。
許婚になった状態で、改めてリリアの姿を見たら、嬉しくて顔が緩んでばかりだったのだが、話しかけすぎて舞い上がっている事に気づかれて嫌われるのも困るという思いから、即ち意識しすぎて、恋人同士といえる関係になる前以上に気を遣う部分もあって、グレイルはあまり上手く話が出来なかった事に、内心で少しだけ落ち込んでいた。
「お前が溜息というのも珍しいな」
王太子としての次の公務の書類を眺めていたエドワードが、馬車の中で顔をあげる。同様に宰相補佐として必要な資料に手を伸ばしていたグレイルも、視線を上げてエドワードを見た。
「好きすぎて困っているんだ」
「惚気か? それとも、仕事が?」
「……リリア嬢の事だが、別に惚気じゃない。事実だ」
「俺はそう言うのを惚気だというと判断してる、が……好きなのはいい事なんじゃ? 愛がないより、愛がある方が、幸せになれそうだ。彼女も、何よりグレイルも」
エドワードの言葉に、グレイルが頷く。それを見て、エドワードが口角を持ち上げた。
「しかし、なぁ。蝶よ花よと育てられただろうし、生徒会で見ていてもリリア先輩は物静かで――ご令嬢らしいご令嬢だよな。自己主張も少なさそうだし。重い物も持てなさそうだし、体力もあるかどうか。宰相夫人になって、茶会や夜会を取り仕切る体力があるのか、些か疑問だな。あまり賑々しいのも好きではなさそうな印象だ」
それを聞くと、グレイルが首を振った。
「芯はしっかりしていると思う。彼女には自分の意見がある。それにエド殿下はご存知ないだろうが、彼女一人だと重い資料や生徒会の出し物に用いる品を一人で運ぼうとするから俺は手伝うタイミングをいつも探していた。夜会や茶会が本当に苦手ならデビューは避けようとするはずだ。エド殿下、どちらかというとリリア嬢は、押しに弱そうに見えて、流されてくれない」
グレイルの答えを聞くと、エドワードが短く吹き出した。
「本当に好きなんだな」
「悪いか?」
「悪くはない。悪くはない。ま、お幸せに」
「俺は幸せだ。問題は、リリア嬢がどう思っているかだ」
そう述べてグレイルが嘆息した。エドワードが腕を組む。
「今日の反応を見ている限り、あちらもグレイルを思ったよりも好きそうで驚いたけどな」
「足りない。まだ距離がある。目下の目標は、彼女を『リリア』と呼ぶ事に設定している」
「それって許可がいるのか?」
「いきなり呼び捨てにして、嫌われたら困る。俺はリリア嬢に好かれたいんだ」
そんなやり取りする内に、馬車は王宮に到着した。
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