婚約破棄されたSubですが、新しく伴侶になったDomに溺愛コマンド受けてます。

猫宮乾

文字の大きさ
1 / 84
―― 序章 ――

【一】僕の境遇

しおりを挟む



 僕はベルンハイト侯爵家の次男として生まれた。性差はSub。
 この世界には、男女の性別の他に、Dom・Sub・Switch・Usualの四つに区分できるダイナミクスが存在している。その中で、僕が生まれたSubは、簡単に言えば『支配されたい』という欲求を持つ。《命令コマンド》を貰うと、喜んで従ってしまう。本当は嫌でも――Domの命令には自然と従ってしまう。そういう時は、Sub dropと呼ばれる状態になる。極度のパニック状態のような精神状態になる。

 Domというのは、Subとは逆で、『支配したい』といった欲求を持つ人々だ。
 そんなDomにもSubにも、どちらにも転化可能なのが、Switchと呼ばれる人々である。
 でも圧倒的多数の者は、そのいずれでもないUsualだ。男女という性別しか持たない人々の事である。

「……」

 寝台の上で体を起こした僕は、ギュッと両手でかけられていたシーツを握った。ぐしゃりと皴になった。酷い眩暈と頭痛がしていて、自分がまたSub drop状態だった事に気が付いた。

 本来Domは、Subがセーフワードを述べると、《命令》を止める。だけど僕に命令する婚約者のヘルナンドは、セーフワードを取り決める事を許してはくれなかった。ヘルナンドは、支配欲の強いDomだ。

 バフェッシュ公爵家の嫡子であるヘルナンドと僕は、生まれた時からの許婚関係だ。幼少時は、時々手紙のやりとりを義務的に行い、年に一・二度挨拶をする程度の関係だった。それが変化したのは、十三歳の歳に、魔術によるダイナミクス判定があった時だった。結果は、ヘルナンドがDomで、僕がSub。それ以後、ヘルナンドは僕を無理矢理、《命令》で従わせるようになった。いいや、僕の事だけじゃない。多数のSubに《命令》をして悦に浸っていると、僕は知っている。

 腹部がキリキリと痛む。呼吸をすると、全身がズキリとした。
 昨日何度も、《動くな》という命令をされて、殴られたり蹴られたりした結果だ。そのまま僕は、また・・Sub dropしてしまったらしい。抵抗できなかったし、する事を許されていない。

 僕の生涯は、このまま暴力に晒されて終わるのだろうか。
 きっと結婚して一緒に暮らすようになったら、もっと酷くなるだろう。

 暴力を振るわれた理由は、僕がうっかり・・・・、ヘルナンドの不貞に言及してしまったからだ。貴族は許婚には婚姻するまで手を出さないという、暗黙の了解がある。それは国教である聖ルベルト教が定めている事でもあり、聖書にも記載されている。だからヘルナンドは僕の体を暴く事だけは出来ない。露見すれば、国外追放と決まっている。代わりにヘルナンドは、性交渉をしても問題視されない平民に熱を上げていて、ここのところは王都にあるプレイバーに足蹴く通っている。プレイバーは、DomとSubが待ち合せたり、その場限りの関係を結ぶなどする場所だ。当初はヘルナンドも一夜限り体を重ねていたようだったが、最近では常連の一人のSubに入れ上げているそうで、外聞が悪いから注意するようにと、ヘルナンドのお母様から僕は頼まれた。

 ヘルナンドは僕に、

《暴力について言ってはならない》

 と命令しているし、

《人前では仲睦まじいフリをしろ》

 とも命令しているから、僕はその通りにするしかない。
 その上辺を、ヘルナンドの両親も周囲も、僕の家族ですらも信用している。だから僕に、注意をするように頼んできたのである。僕は誰にも、現在の境遇を訴える事が出来ない。だが勿論、結果は散々だった。

『お前にはそんな事を言う権利はない。俺に何をされても悦ぶただのMのクセに』

 殴られながら、嘲笑されて、浴びせかけられた言葉の数々。
 俯くと涙が込み上げてきた。正直、肉体的にも精神的にも辛い。

「……っ」

 僕は手の甲で涙をぬぐった。それから、長々と瞼を閉じていた。僕をこの境遇から助け出してくれる人がいるならば、もう誰でもいい。僕はきっと、その人物の手を掴むだろう。
しおりを挟む
感想 25

あなたにおすすめの小説

【BL】捨てられたSubが甘やかされる話

橘スミレ
BL
 渚は最低最悪なパートナーに追い出され行く宛もなく彷徨っていた。  もうダメだと倒れ込んだ時、オーナーと呼ばれる男に拾われた。  オーナーさんは理玖さんという名前で、優しくて暖かいDomだ。  ただ執着心がすごく強い。渚の全てを知って管理したがる。  特に食へのこだわりが強く、渚が食べるもの全てを知ろうとする。  でもその執着が捨てられた渚にとっては心地よく、気味が悪いほどの執着が欲しくなってしまう。  理玖さんの執着は日に日に重みを増していくが、渚はどこまでも幸福として受け入れてゆく。  そんな風な激重DomによってドロドロにされちゃうSubのお話です!  アルファポリス限定で連載中  二日に一度を目安に更新しております

冤罪で追放された王子は最果ての地で美貌の公爵に愛し尽くされる 凍てついた薔薇は恋に溶かされる

尾高志咲/しさ
BL
旧題:凍てついた薔薇は恋に溶かされる 🌟2025年11月アンダルシュノベルズより刊行🌟 ロサーナ王国の病弱な第二王子アルベルトは、突然、無実の罪状を突きつけられて北の果ての離宮に追放された。王子を裏切ったのは幼い頃から大切に想う宮中伯筆頭ヴァンテル公爵だった。兄の王太子が亡くなり、世継ぎの身となってからは日々努力を重ねてきたのに。信頼していたものを全て失くし向かった先で待っていたのは……。 ――どうしてそんなに優しく名を呼ぶのだろう。 お前に裏切られ廃嫡されて最北の離宮に閉じ込められた。 目に映るものは雪と氷と絶望だけ。もう二度と、誰も信じないと誓ったのに。 ただ一人、お前だけが私の心を凍らせ溶かしていく。 執着攻め×不憫受け 美形公爵×病弱王子 不憫展開からの溺愛ハピエン物語。 ◎書籍掲載は、本編と本編後の四季の番外編:春『春の来訪者』です。 四季の番外編:夏以降及び小話は本サイトでお読みいただけます。 なお、※表示のある回はR18描写を含みます。 🌟第10回BL小説大賞にて奨励賞を頂戴しました。応援ありがとうございました。 🌟本作は旧Twitterの「フォロワーをイメージして同人誌のタイトルつける」タグで貴宮あすかさんがくださったタイトル『凍てついた薔薇は恋に溶かされる』から思いついて書いた物語です。ありがとうございました。

義理の家族に虐げられている伯爵令息ですが、気にしてないので平気です。王子にも興味はありません。

竜鳴躍
BL
性格の悪い傲慢な王太子のどこが素敵なのか分かりません。王妃なんて一番めんどくさいポジションだと思います。僕は一応伯爵令息ですが、子どもの頃に両親が亡くなって叔父家族が伯爵家を相続したので、居候のようなものです。 あれこれめんどくさいです。 学校も身づくろいも適当でいいんです。僕は、僕の才能を使いたい人のために使います。 冴えない取り柄もないと思っていた主人公が、実は…。 主人公は虐げる人の知らないところで輝いています。 全てを知って後悔するのは…。 ☆2022年6月29日 BL 1位ありがとうございます!一瞬でも嬉しいです! ☆2,022年7月7日 実は子どもが主人公の話を始めてます。 囚われの親指王子が瀕死の騎士を助けたら、王子さまでした。https://www.alphapolis.co.jp/novel/355043923/237646317

氷の騎士団長様の悪妻とかイヤなので離婚しようと思います

黄金 
BL
目が覚めたら、ここは読んでたBL漫画の世界。冷静冷淡な氷の騎士団長様の妻になっていた。しかもその役は名前も出ない悪妻! だったら離婚したい! ユンネの野望は離婚、漫画の主人公を見たい、という二つの事。 お供に老侍従ソマルデを伴って、主人公がいる王宮に向かうのだった。 本編61話まで 番外編 なんか長くなってます。お付き合い下されば幸いです。 ※細目キャラが好きなので書いてます。    多くの方に読んでいただき嬉しいです。  コメント、お気に入り、しおり、イイねを沢山有難うございます。    

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

巣ごもりオメガは後宮にひそむ【続編完結】

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売
BL
後宮で幼馴染でもあるラナ姫の護衛をしているミシュアルは、つがいがいないのに、すでに契約がすんでいる体であるという判定を受けたオメガ。 発情期はあるものの、つがいが誰なのか、いつつがいの契約がなされたのかは本人もわからない。 そんななか、気になる匂いの落とし物を後宮で拾うようになる。 第9回BL小説大賞にて奨励賞受賞→書籍化しました。ありがとうございます。

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

【完結】国に売られた僕は変態皇帝に育てられ寵妃になった

cyan
BL
陛下が町娘に手を出して生まれたのが僕。後宮で虐げられて生活していた僕は、とうとう他国に売られることになった。 一途なシオンと、皇帝のお話。 ※どんどん変態度が増すので苦手な方はお気を付けください。

処理中です...