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【二】
しおりを挟む「起きたのか、フェルナ。無事でよかった……」
その日は珍しく父が帰ってきた。まじまじと僕を見ると、かなり本格的に心配した顔をした。父は今のところ名宰相と呼ばれているし、注意するべきは妹だろう。なお、母は弟が生まれた時に没している。
「陛下からも心配のお言葉を頂戴している。またジャックロフト王太子殿下が、直々にお礼にこちらへおいでくださるそうだ」
「……」
僕はその名前に、頬がひきつった。会いたくない。二度と会いたくない。だが、断ったら気を損ねるかもしれない。
「こ、光栄です……」
「ああ。明日いらっしゃるそうだ。それまで、今宵はもう少しゆっくりするとよい」
父はそう言うと、僕の頭を撫でた。非常に複雑な気分で、この日僕は眠りについた。翌朝は侍女の手で起こされて、着替えさせられた。ジャック様が来るからだ。胃痛を感じた。
ジャック様は午前十時にいらっしゃった。父は既に王宮へ仕事に出ていたので、出迎えるのも僕の役割となった。馬車を下りてきたジャック様は、立ち止まると、僕の顔をじっと見てから、腕をちらりと一瞥し、それからつま先から頭まで二度ゆっくりと観察するように眺めていた。なんだか居心地が悪い。
「どうぞお入りください」
「ああ……その、熱が出たと聞いた。もういいのか?」
「ええ」
僕は二度頷いた。緊張と未来への恐怖から、表情筋は仕事をしない。ただ、昔から僕は笑うタイプではなかったので、これは自然だろう。こうして家令に先導されて、僕達は応接間に入った。見舞いの花束を、受け取った家令が花瓶に生けた。
「その……庇ってくれてありがとう」
応接間に入ると、紅茶が置かれた後で、まっすぐにジャック様に言われた。
「――エルレス公爵家は、王家に忠誠を誓っておりますので、当然の事をしたまでです」
僕は用意しておいた回答を述べた。すると僕を見て、ジャック様が困ったような瞳をした。
「……」
「……」
いつもであれば、僕が嫌味を言うので、会話が生まれる。しかしもう、僕はそんな精神状態にはない。そして僕が話さないと、ジャック様は何か言いたそうにこちらをちらちら見るだけの状態になり、言葉は出てこない様子だ。気まずい。
その後、迎えの馬車が来るまでの間、僕達の間には、会話は見事に生まれなかった。
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