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第134話 ゴップ王国潜入任務 ①
しおりを挟む街道を東へ進む事二日、ゴップ王国との国境線沿いまでやって来た。
しかし、その光景は、凄惨なものであった。
夥しい数の戦死者。
地面が敵兵の血で赤く染まっていた。
異臭もする、血の匂いだろう。吐き気がするのを我慢する。
「酷いもんだね。」
リスティルは零す。
「そうだな、これが戦争かよ………一方的な戦いの様だが。」
俺もこの光景に気分が悪くなりそうだが、これが現実だ。
「戦争か、やだねえ。」
やはり戦争はいかんよ。
「グラードルめ、よくもここまで徹底的にやるものじゃわい。」
不意に、後ろから声を掛けられた。
振り向くとそこには、恰幅の言いおじさんがいた。いや、妙な貫禄がある。
それに武装しているし、もしかして国境沿いに展開しているっていうバルク将軍の部隊の人かもしれない。
俺はおじさんに、ここで何があったのか聞いてみた。
「ここで何があったのですか? 自分はアリシア軍クラッチ駐屯軍所属、ジャズ曹長であります。こちらは助手のリスティルです。」
俺が挨拶をすると、恰幅のいいおじさんがこちらを一瞥し、その鋭い眼光を覗かせてきた。
「ほーう、友軍か、まあ軍服を着ていたので、そうだと思っておったが、お前さんクラッチから来たのか。ご苦労だったな。儂はバルクだ。一応将軍だがな。」
バルク将軍!? この人がそうか。現場叩き上げで、平民から将軍までのし上がった実力者。
アリシア国内でも人気の軍人さんだ。俺達兵士の憧れでもある。
「これは、バルク将軍でありましたか、失礼致しました。」
俺はその場で敬礼し、気を付けの姿勢をする。
これを見ていたちびっ子も、真似して姿勢を正す。
「儂の制止も聞かず、グラードル将軍は戦いを始めてしまいよった。まったく、戦などせんでも、よかったものを。」
「すると、やはりグラードル将軍は戦端を開いてしまったのでしょうか?」
「うむ、実際あっという間であった。戦が始まり、一刻もせず敵を殲滅。グラードル将軍の騎馬部隊の突撃によるランス攻撃は、敵を粉砕していったのだ。」
なるほど、確かに歩兵と騎馬では、騎馬の方が有利だからな。戦は兵種の相性がモノを言う。
「ゴップ軍の兵士を見た限りでは、皆、ガリガリに瘦せ細っている様ですが、ゴップ軍の兵士はちゃんと食べていたのでしょうか?」
俺の質問に、ちびっ子も疑問に思っている様だった。
「確かに、普通兵隊さんってのは飯をたらふく食って戦に臨むものなんじゃないのかい?」
この質問に、バルク将軍はすんなんりと答えてくれた。
「ゴップは作物が育たん不毛の大地なのだ、国民を食べさせていくには、金が要る。その金で他国より食料を買い付け、民に分け与える。それが今までのゴップ王国のやり方であった。のだが、金を得る為に我が国にも相当無茶な要求をしておった様だな。」
ふーむ、政治の話はよく解らんが、ゴップは金が必要だったのだな。
しかし、それで国境線沿いに兵を集結させるというのも、いささか極端な気がするが。
「見てみい、ゴップの兵のやられ方を、皆、背中からランスを一突き、と言ったところであろう?」
「はい、確かに、背中からの攻撃を受けてやられた。と言う様な傷跡ばかりですね。」
バルク将軍は苦虫を嚙み潰したような表情をして、言葉を吐いた。
「逃げておったのだ。グラードル将軍の騎馬隊からの攻撃から逃げておったのだ。だから背中からやられてしまった訳じゃな。そして、逃げるゴップ軍の兵士に潰されて死んだ者も少なくない。」
「味方に踏みつぶされて死ぬのは、さぞ無念でしたでしょうね。」
「それに、見てみよ。従軍シスターもやられておる。女子供も容赦無く殺しておる。グラードルめ、戦だからといってもルールはある。それなのに容赦せず皆殺しだ。」
戦死者の中には、シスターさんも居た。従軍シスターなのだろう。
「シスターは軍人ではなく、寧ろ女神教会の人の筈なのに、何故殺したのでしょうか?」
「軍というのは、一度火が付くと止まらなくなるモノだ。特にグラードル将軍旗下の貴族連中は手柄を欲しがっておった様子だったからな、一人でも多く殺していたのだよ。まったく、虫唾が走るわい。」
「酷い。………何もシスターさんまで手に掛ける事なかったのに。」
「お嬢ちゃんの言いたい事も最もだな、これはもう戦ではない。ただの虐殺だ。」
グラードル将軍、ここまでやる人なのか。このままじゃいかんよな、早く止めないと。
「バルク将軍、自分はこれよりゴップ領へと潜入し、グラードル将軍を連れ戻す任務を賜っております。極秘任務の為、詳しくはお話できませんが、グラードル将軍の元まで出向く必要があります。そこで、お聞きしたいのですが、今、グラードル将軍はどちらに?」
俺が尋ねると、バルク将軍は快く話してくれた。
「ほーう、君は極秘任務を遂行中なのか、ふむ、そうだな。グラードル将軍はここより先、もっと奥深くまで進軍していった。勢いがある軍というのは、思いの外進軍速度が速いモノなのだ。おそらく、三日後にはゴップの王都まで攻め上がる可能性があるわい。」
「なんと、三日でありますか?」
早いなんてもんじゃない。強行軍ではないか。大丈夫か?
「うむ、グラードル将軍は今正に破竹の勢いだ。幾らゴップ軍が数を揃えても、あれはそう簡単に止まらぬよ。」
その時だった、辺りを調べていたリスティルが、何かを発見した様で、大声でこちらを呼んだ。
「おい! 兵隊さん! こっちに生き残りのシスターさんが居るぞ! まだ生きてる!」
何!? 生きているのか。こうしちゃおれん。直ぐにちびっ子の元へ駆け寄る。
(回復薬は予備を含めて5本持って来た。今ここで使っても問題なかろう。)
「直ぐ行く!」
倒れているシスターさんの元へ駆け寄ると、確かにしっかりと息をしていた。
「傷が浅い、これなら助けられるか!」
俺は回復薬の蓋を開け、シスターさんにゆっくりと飲ませる。
「さあ、回復薬です。これを飲んで下さい。」
最初はこくこくと飲んでいたシスターさんだったが、徐々に回復してきたのか、残りは一気に飲み干した様だ。
シスターさんの体が、一瞬光に包まれて、直ぐに消えた。回復効果があったみたいだ。
「ごく、ごく、ぷは~~。ああ~生き返った。」
どうやら大丈夫そうだ。
「大丈夫ですか? シスターさん。何処かお怪我をされていませんか?」
「あ、はい。大丈夫だと思います。お陰様で助かりました。どうもありがとうございました。」
「いえ、お気になさらず。自分はアリシアの兵士ですが、従軍シスターは敵という訳ではありませんからね。」
呼吸を整えたシスターさんは、自分の体を擦って大丈夫そうな顔をした。
シスターさんが落ち着いて来たところで、シスターさんは辺りの様子を見回した。
「ああ、何という事。皆倒れてしまって………。」
シスターさんは、その場で泣き崩れてしまった。
「シスターさん、ここに居ては気が滅入るだけです。あちらにアリシア軍の仮設テントがありますので、そちらまで行って、保護を求めてはいかがでしょうか?」
「………そう、ですわね。………アリシアの方に保護を求めます。」
「解りました、では、バルク将軍。彼女の事をお願い致します。」
「うむ、任せよ。お主もこれより先、道中気を付けよ。ゴップ国は治安が悪いと聞く。十分注意せよ。」
「は!」
敬礼し、任務を思い出す。
「グラードル将軍の事は頼むぞ。若者よ。」
「は! では、行って参ります。リスティル、行こう。」
「ああ、解った。あたいも行く。」
俺達は進みだした。
ゴップ軍の山の様な遺体を横目に、俺達は街道を更に東へと向かう。
遺体はスライムに任せておけばいいだろう。綺麗に掃除してくれる。
遺品はバルク将軍の兵士たちが回収していた様だ。後でゴップ側に渡すのだろう。
戦場跡を後にして、俺はこれより先の、ゴップ領へと潜入して行く。
どこまでグラードル将軍が進軍しているのかは解らないが、急ぐ必要がある。
もう、これ以上、人の死体は見たくない。いくら戦争だからといってもだ。
「おい、ちびっ子。平気か?」
「………ちょっと気分悪いけど、大丈夫。ちゃんと後を付いて行くよ。あたいは。」
「無理すんなよ。ちびっ子。」
さて、兎に角まず、先へと進もう。話はそれからだ。
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