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第141話 破壊の後
しおりを挟むセコンド大陸中央部 エストール大神殿――――
早朝、まだ日も出ていない、薄暗いエストール大神殿の奥にある礼拝堂に、一人の少女が居た。
少女は胸の前で両手を組み、膝を着く体勢で三柱の女神像の前で祈りを捧げていた。
そんな折、ふと、少女の心が軽くなった様な気がして、肩の力が抜けた様な感覚を感じていた。
その時、頭によぎったのは一人の男性が悪魔に立ち向かい、倒すという光景が見えたのだった。
「あ……。」
少女は声にならない声を漏らし、肩をほんの少し震わせた。
「巫女様、如何なさいましたか?」
少女のほんの僅かな動作も見逃さず、隣に控えていた側仕えの一人の女性が、少女に寄り、声を掛ける。
「いえ、何故だか解りませんが、心が少し軽くなった様な気がしたのです。」
少女が小声で答えると、女性は頷き、顔をほころばせた。
「巫女様は心労が絶えませんからね、心が軽くなったのでしたら良うございました。」
「はい、世界を覆っていた混沌の影が、弱まった気がするのです。」
「まあ、それは良うございました。きっと世界中に散らばったシャイニングナイツの誰かが、混沌の勢力を倒したのでございましょう。」
女性の考えを聞き、少女は「そうかもしれませんね。」と呟く。
しかし、少女はこうも思うのだった。
自身の予知が通らぬ事もあると感じていた少女にとって、それは、ほんの少しの衝撃だった。
頭の中にチラッとだけ見えた、あの光景。悪魔と戦い、討伐した男の人の影。
少女は、それが気になっていたのだった。
(あの殿方は一体。)
少女は心が少し軽くなった事で、気分が幾分か楽なり、祈りに集中したのだった。
ゴップ王国 王都――――
気が付いた俺は、立ち上がり、まずちびっ子の安否確認をする。
口の中がジャリジャリする、砂が入っているみたいだ。ぺっぺと口の中の砂利を吐き出す。
自分の周りを見渡し、ちびっ子が俺の近くに倒れていた事を確認した。
「ちびっ子!」
俺は倒れていたちびっ子に駆け寄り、意識を確かめる。
「うう~~ん………………。」
ほっ、良かった。ちびっ子は無事だったか。俺もあちこち体が痛いが、二人の命が無事だった事に安堵する。
俺達の周りには、建物の残骸らしきブロックやら、石材やらが至る所に散乱していた。
丁度俺達の周りを避けるように、飛来物が避けて行った様な有様だった。
「運がいいのか悪いのか………、兎に角、命が有るだけめっけもんだったな。」
正直、「コメット」の魔法のスクロールを使われて、只で済むとは思っちゃいない。
広範囲殲滅魔法というのは、それは恐ろしい攻撃魔法なのだ。
ちびっ子と自分の安全を確認した後、王都の方を見る。
「………………なんて……こった。何にも無くなっちまった。」
見渡す限り瓦礫の山。その言葉が当てはまる光景だった。
王城があった所は、クレーターの様に窪んでいて、その周りの建物がみんな瓦礫と化していた。
城下町の方も被害甚大らしく、至る所が崩壊していた。
「こりゃあ………………助かった人は奇跡だな。」
ざっと見た感じ、人の姿は見当たらない。ほぼ全滅だろう。
そりゃそうだ、凄まじい破壊の跡、それで生き残る事は奇跡に近い。
あっちもこっちも、崩れた建物群が、まるで爆撃でもされたかの様な有様だった。
希望は少ないが、もしかして奇跡的に生き残っている人がいるかもと思い、王都の方へと歩み寄る。
ちびっ子はまだ意識が戻っていないので、その場に置いておく。
ここまで破壊され尽くされた後だ、モンスターだって恐怖で縮こまってこの辺りに出てはこないだろう。
壁門だった所を通り抜け、城下町だった所まで来た時、その破壊の跡をまじまじと見つめた。
「誰も居ない。当たり前か。ここまで破壊されてはな………………。」
残念だが、生き残った人はほぼ皆無だろう。事実上、ゴップ王国の王都は、壊滅した事になる。
王族が居なくなり、その近くに居を構えているゴップ貴族も皆、やられてしまった様だし、これからこの国はどうなるのだろうか?
「取り敢えず、俺の受けた極秘任務は、失敗に終わった事だけは確かだな。」
グラードル将軍も戦死し、その部下も居ないとなると、ここで俺のやる事は無い。
任務失敗、これが現実だ。正直もっと上手く出来なかったのかと、自問自答してしまいそうになる。
だが、結果はこの有様だ。俺には出来なかったという事なのだろう。
歯がゆい、結局、俺は役に立たなかった様だ。情けない。
僅かに生き残った街人が、瓦礫と化した物を見ながら、途方に暮れた様子で座り込んでいるのを横目で見つつ、その場を後にする。
ちびっ子の元まで戻ると、ちびっ子は丁度目を覚ました様だった。
「うう~ん、ここは? 兵隊さん、無事?」
「ああ、何とかな。ちびっ子は何処か怪我とかしてないか?」
「うん、平気。何とも無い。」
ちびっ子が立ち上がり、王都の方を見た時、流石にちびっ子も絶句していた。
「………………こりゃあ…………酷いもんだねえ。」
ちびっ子は破壊の跡を見つめていた。言葉も無い様だ。
「ああ、これが、広範囲殲滅魔法の威力だ。二人共無事で良かったってところか。」
「そうだね、これじゃあ、生きている人は居ないんだろうね。」
「ああ、さっきちょっとだけ様子を見てきたが、生き残りは僅かだった。ほぼ全滅………だろうな。」
「この有様じゃあ、仕方ないさ。あたい等はよくやった方だよ。ゴップ王が駄目だったんだよ! あの人どうかしてる!」
うーむ、そのゴップ王も、瓦礫に押し潰されて、王城と共に崩れ去ったと思われる。
「結局、誰も救えなかったな。俺達。」
「そんな事ないよ、兵隊さんはあの悪魔を倒したじゃないか。あのままだったらきっと、ろくでもない事になっていたと思うよ。」
ちびっ子は俺に気を使っているようだ。自分だってへこんでいるかもしれんのに、気丈だな。
「まあ、結果はこの有様だ。俺の受けた極秘任務は失敗だ。ここに居てもやる事は、いや、出来る事は少ない。ちびっ子、このまま少し休憩してからアリシアへ帰還しよう。」
「そうだね、そうしよう。あたいもちょいと疲れたよ。」
こうして、ゴップ王国での任務は、失敗に終わった。
ちびっ子と革袋の水筒の水を飲みながら、体を休める。
言葉はあまり無かった。会話するほどの気概は無かった。
休憩したのち、俺達はゴップ王都を後にして、街道を元来た道を引き返し、数日後、アリシアの国境線沿いまで無事に帰還したのだった。
俺達を出迎えてくれたのは、以外にも、あの時助けた従軍シスターさんと、バルク将軍だった。
「………………お帰りなさい。」
「ふむ、見た所、グラードル将軍の姿が見えんが、…………そうか、戦死したか。兎も角、ご苦労だった。」
優しい言葉を掛けられ、俺達は気が休まった事に。
そして、命が助かった事に、深く感謝するしかなかった。
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