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第195話 廃洋館探索任務 ④
しおりを挟む俺とナナ少尉、それと門番のスケルトンの三人で廊下を進む。
もう一度館の主に会って、ここで何があったのかを聞き出したい。
廊下に転がるおびただしいい数の人骨が、何を物語っているのか?
話てくれると助かるのだが、思うようにいかないかも。
兎に角、話だけでも聞いてみたい。と思っていたら………。
「あのさあ~、ここだけの話にしてほしいんだけどさ~。」
門番が唐突に語りだした。
「なんだ?」
「う~ん、あんまり主様に根掘り葉掘り伺うのは控えてほしいんだわ。」
「何故ですの?」
門番は顎に手をやり、思考している様子で話した。
「うん、主様は繊細な方でさ、この状況に一番心を痛めているのはあの方なんだよ。」
うん? アンデッドなのに繊細? どういう事?
「何か訳がございますの? 良ければお話頂けませんか?」
うまい! ナナ少尉が聞き出しに掛かっている。
俺も続く。
「良ければ力になろう、出来る限りのな。」
「そうか? いや~最初あんた方を見た時は常識の無い人達だと思ってたけど、話してみると案外優しいんだな。やっぱり人間優しさで出来てねーとやるせねえよな。」
「ごたくはいいから話してみろって。」
どうにもこのスケルトン、話好きだな。ホントにモンスターって気がしない。
「本当は主様が話された方が良いんだろうけど、繊細な上に気弱だからな~。あんた等の前だと緊張して上手く話せないかもだぜ。」
「話して下さらないかしら? ここで一体何があったのか、そして、この人骨の数はどういう訳なのかを。」
「う~ん、しゃーねーな。いいかい、少し長くなるけど大事な事だからな、聞き逃すなよ。………………あれはまだ、俺達が生きていた頃の話だ。」
門番のスケルトンの話を要約するとこうだ。
今から二百年前、この辺りはまだここまで森の自然化が進んでいなかったらしい。
草原が辺りに広がり、作物も採れていて、長閑な村を経営しながら男爵家は栄えていたらしい。
だがある日、突如として異変が起きたらしい。らしいって事はこいつ本人はよく解らないらしい。だが異変が起きた事は解ったという事で、気付いたらこの身体になっていたそうだ。
「異変って何ですの?」
「それがよくわかんねえんだよな、俺自身解ってねえからよ。どうしてこうなった?」
「いや、俺達が聞きたいんだが。」
「兎に角二百年前の事だ、もう忘れている事もあらぁな。そんでこんな姿になって二百年、死ぬことも無く淡々と門番の仕事をこなしているって訳よ。」
ふーむ、二百年前ってのが鍵だな。それまで男爵家は栄えていたらしいし。
領民も領主を慕っていたって言っていたし、悪い貴族ではなかったという事か。
そして、肝心の内容をこのスケルトンは理解していないときている。
これじゃあ二百年前に何があったのか、屋敷の主に聞かないと結局解らんな。
「ナナ少尉、やはり屋敷の主に聞かないと解りませんね。」
「そうですわね、話して下さると良いのですけど。」
「おいおい客人方よ、あまり主様をいじめんでくれよ。さっきも言ったが繊細な方なんだよ。それにこの状況は主様のせいではないからね。」
「解っているよ、上手く聞き出せたら良しと思っているだけだ。」
そうこう話しているうちに、主の部屋の扉前まで来た。
ノックをして返事を待つ。
「どうぞ、開いていますよ。」
「失礼致します。」
執務室の中へと足を踏み入れる、屋敷の主は最初に会った時と同じ様に、椅子に座っていた。
「やあ、今度は何かね? 丁度今手が空いたところだよ。」
「度々失礼します、男爵様。実はこちらの屋敷について少々お尋ねしたい事がございまして。」
相手は貴族だ、もうアンデッドになっているが敬意は払うべきだな。
さて、上手く聞き出せるかな。
「何が聞きたいのかね? 私に解る範囲で良ければ。」
お!? 話に乗って来たぞ。意外といけるか?
ナナ少尉が注意を払って話を進める。
「我々がこの屋敷へやって来た理由の一つに、アンデッド系モンスターがこの屋敷に蔓延っているのを何とかしたいという任務があります。そこで、まずお聞きしたい事は、何故ここまで人骨が辺りに放置してあるのか? また、成仏した方がいる一方で何故成仏しない方がいるのか? その辺りの事情をお聞きしたく思いますわ。」
ナナ少尉がそれとなく聞き出しに掛かった、さて、相手の出方は?
「やはり気になりますか、良いでしょう。お話いたします。さて、何からお話すべきか。」
おお!? やったぞ、どうやら話してくれるみたいだ。
気難しい人じゃなくて良かった。
「話が長くなります故、そちらのソファーへ腰かけて下さい。」
「ありがとう存じます。」
ナナ少尉が優雅な一礼をし、俺も会釈しソファーへ座る。
門番は主の斜め後ろに控えて立っている。屋敷の主は手を組み、ゆっくりと語り始めた。
「これは、我が父上から聞いた話ですが、今から二百年前、我が領地は平和に過ごしていました。あれは、そんな長閑な一日でした。当時、私どもはまだ生きておりました。」
――――二百年前 旧北東の森にて――――
静かな朝、木漏れ日が揺れる長閑な村のある日。領主である男爵は息子のジョッシュを連れて農地を視察していた。
「おーう、村長~。精が出るなあ~。」
「これは男爵様、村へようこそ。ジョッシュ様もお元気そうで。」
「村長さん、ご苦労様です。どうですか? 作物の様子は?」
「はっはっは、ジョッシュ様。作物の事など気にしておらんでしょう。ほれ、我が娘ならそこにおりますぞ。おーい、カリーナ。ジョッシュ様がみえられたぞ。」
「はっはっは、村長にはお見通しだったな。ジョッシュ、ここはいいからカリーナと過ごしていなさい。」
「し、しかし父上。私は村の様子を視察に来た訳で。」
言い訳をするジョッシュに、父親はまた笑みを零し、頭をクシャクシャと撫でつける。
「但し、結婚するまでは抱くなよ。いいな。」
「ち、父上!!」
「はははは。」
「ジョッシュ様、我が娘をどうか可愛がって下され。」
「村長まで! もう知らん!!」
と言いつつ、ジョッシュは内心嬉しかった。村へ来た目的は、やはりカリーナに会う為であったからだ。
意気揚々とカリーナの下へ向かうジョッシュ、それを見つめる二人の父親。
傍から見たら微笑ましい光景であったが、次の瞬間、男爵と村長は暗い表情になった。
畑を見やりながら、二人の親は小声で話だす。
「どうだ、今年の出来は?」
「駄目です、「今年も」不作でした。ギリギリ国へ税を払える分を下回ってしまいました。」
「そうか、足りぬ分は我が屋敷の金庫から出す。」
「左様ですか、しかし、このままではいずれ………。」
「解っておる、我が領地は衰退するばかりだ。何故だ? 何故こうも上手くいかんのだ。」
国に払う税を、作物で賄っていた村にとって、この不作の連続は痛いところだった。
また、男爵家も決して裕福という訳ではなく、生活は苦しいものだった。
「隣の子爵家の領地は豊作だというのに、何故我が領地はこうも不作なのだ。」
「天候にも恵まれませんでした、雨が降らず、また日照りが続き作物が駄目になっていきました。」
「土地のせいか?」
「いえ、土は良い筈です。作物が育ってますから。ただ………………。」
「雨が、降らんのだな。」
「はい、天候が悪く、毎年不作が続いております。」
男爵も村長も、この先がまったく見えない状況だった。
「徴税官が来るのは二日後だぞ、今はまだ大丈夫だが、いずれ立ち行かなくなる。」
「この辺りの森化も進んでおります、ジョッシュ様の世代の時、はたしてどうなっている事やら。」
「うーん、せめてジョッシュたちの世代では、苦労を掛けたくは無いが。」
二人が暗い話をしているところへ、不意に後ろから声が掛けられた。
「お困りのようですね。」
男爵たちが振り返ると、そこに居たのは不気味なオーラを感じさせる男だった。
男は黒いローブを身に纏い、フードを目深に被り顔が見えないが、どこか得体の知れぬ気配を漂わせていた。
「どちら様ですかな?」
怪しいと思いつつ男爵が尋ねると、男は「くっくっく」と嗤い、杖を男爵の方へ向けてこう言った。
「私が雨を降らせましょうか?」
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