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第196話 廃洋館探索任務 ⑤
しおりを挟む部屋の中が静まり返る。
「それで、その怪しい男からの誘いで雨を降らせてもらったのですか?」
俺の問いに、男爵は手を組み答える。
「いえ、流石に父上も慎重に対応したみたいでしたね、その時は断ったと思います。」
ナナ少尉が問う。
「では何故、二百年もの間、その姿に?」
男爵は答える。
「ここからは、父上から聞いた話と、私の記憶を総合してお話致します。」
二百年前 旧北東の森――――
その二日後、やって来た徴税官が発した言葉は、男爵たちにとって信じ難いものだった。
「では!? 税を3倍にすると仰るのか!!?」
声を荒げた男爵の態度に対し、徴税官は冷静に答える。
「それだけではありません、今回から税金は現金のみでお支払いして頂きます。」
これには村長も口を出した。
「なんと! 今まで作物での納税で良かった筈ではないですか!!」
「戦争なのです。隣国との和平が拗れたので、戦になったのです。戦には金が掛かる。」
徴税官は、出された食事を口一杯に頬張りながら会話する。
「よろしいですな男爵殿? 現金でのお支払いを願いますよ。」
男爵は渋々といった様子で、金庫から金を出しテーブルに置いた。
それを見た徴税官は、首を傾げつつ言い放つ。
「これは? 足りぬようですが?」
「これが我が領地の出せる精一杯の金です。金貨26枚。」
徴税官は溜息をつき、スプーンを放り投げる。
「足りぬと言っているのです、何とか工面して下さい。私も仕事で来ているのですよ? こんな田舎臭い所まで。」
「ちょ、ちょっと待って頂けませんか? 今すぐにはとても………………。」
徴税官は鼻息を荒くし、男爵たちを問い詰める。
「困りましたねぇ、私の査定に響くんですよ、こんな様子では。ではこうしましょう、今から一週間だけ待ちます。その間に金を工面して下さい。お隣の子爵からでも何でも借りればいいでしょう?」
それを聞いた男爵は、唸りを上げる。
「う、うう~~ん。しかし。」
「私は金さえ払って頂ければそれで良いのです。いいですかな?」
「わ、解りました。何とか工面して来ます故、暫し待たれよ。」
徴税官は席を立ち、寝床へと案内されて部屋を後にする。
村長と男爵は、今後どうするか相談する。
「さて困ったぞ、如何にしようか?」
「男爵様、いっその事奴の言うように、子爵様に相談されては如何でしょうか?」
「確かに、隣は豊作だと聞いている、金はあるだろう。だが、はたして私に金を貸してくれるかどうか。」
「不仲ではないのでしょう? でしたら。」
男爵は村長の言葉を遮って、自身の言葉を言う。
「かと言って、仲が良いとも言えんのだ。」
この会話を聞いていたジョッシュは、自分が何も出来ない事に歯噛みした。
そもそも、自分の領地の作物が不作なので、税が払えないのだと聞いたジョッシュは、先の男の話を聞いていたので、誘いに乗るべきと判断し、男を探しに外へ出た。
「雨さえ降れば、きっと上手く行く。そうすれば、カリーナとの結婚だって。」
本来、貴族家では家を盛り立てる為、他家との婚姻が望ましいが、ジョッシュは村娘のカリーナに惹かれていた。
今の苦しい状況では、結婚も許してもらえないと判断したのだった。
黒いローブの男を探すジョッシュ。そこへ、丁度のタイミングで声が掛けられる。
「お困りかな?」
その声はとても不気味に聞こえて、ジョッシュは一瞬怯んだが、目的の人物に会えたので臆さず返事をした。
「雨を、雨を降らせて下さい!」
「ふっふっふ、良いでしょう。この私、ヤーカーラムにお任せを。」
不気味な嗤い声と共に、杖を掲げた男は何やら呪文の様な言葉を紡ぎ、嗤い続けた。
そして、その翌日、雨は降った。
誰も気づいていなかったが、その雨粒一滴一滴は黒く濁っていた。
雨が降った事に喜びを露わにした男爵たちは、急ぎ隣の子爵家まで馬を走らせた。
子爵家から金を得る為に、ジョッシュと子爵の娘との婚姻の話をする為である。
この事に不満を抱いたジョッシュは、父親に懇願した。
「父上、結婚は今少し待って頂けませんか? 実はカリーナとの事で………。」
「またその話か、お前も貴族家の一員ならば理解していよう。今は男爵家を潰す訳にはいかぬのだ。解ってくれジョッシュ。」
「………………。」
そんなやり取りがあったのだが、時を同じくして村人達が次々と倒れるという事態に直面していた。
男爵家の門番は、その原因を探る為に村を訪れて、事情を村人から聞いていた。
「つまり、雨が降って来た時から、調子が悪くなったと言う事だな?」
「へい、雨が降って来た時は嬉しかったのですが、今は村人がバタバタと倒れていくんで、もうどうしたもんかと思いまして。」
やはり怪しい男がもたらした雨が原因かと思い至った門番は、黒ローブの男を探した。
丁度そこへ男爵たちが帰って来たので、事の事情を話し、男の捜索に乗り出す。
ジョッシュは婚姻の事をカリーナに伝える為、彼女の下へ急いだ。
「今すぐは無理でも、いつかきっと。カリーナ、待っていてくれ。」
そして、ジョッシュが目にしたのは、亡骸になったカリーナの姿だった。
「な、何故? こんな事に………………。」
カリーナだけではない、他にも大勢の村人たちが、倒れて死んでいたのだった。
「ふっふっふ、私の実験は完璧だ。」
不意に声のする方へ視線を向けると、そこに立っていたのは件の男だった。
「ま、まさか、この雨のせいで皆は!」
「ふっふっふ、さあて、どうですかな? 私は雨を降らせて欲しいと頼まれただけですが。」
だが、状況が物語っていた。この雨のせいで人が倒れている事に。
「今すぐ雨を止めろ!! 今すぐにだ!!!」
怒りの剣幕に顔を変え、ジョッシュは男に掴みかかる。だが。
「!?」
ジョッシュもまた、その姿が変質していくのだった。
「ああ、ああ、あああああ。」
男は嘲笑い、ローブを翻してこの場を去って行った。
「この呪いの雨は私の実験結果に大いに役に立ちましたよ。では、御機嫌よう。」
こうして、この村を含めた男爵領の土地は、瘴気が立ち込め、不毛の土地へと変わっていったのだった。
瘴気は魔物を呼び、人を変え、男爵家は衰退し、滅びゆくのであった。
現在――――
「とまあ、この様な経緯があったのです。この屋敷に人骨が沢山転がっているのは、全て村人達をここに集めたからなのです。」
場に重苦しい空気が垂れ込める。
ナナ少尉が気遣う様に言葉を選ぶ。
「何と申しましょうか、お悔やみ申し上げますわ。男爵様。」
「いえ、話を聞いてくれただけでも、幾らか気が楽になりましたよ。今まで誰も居ませんでしたからね。」
ジョッシュ男爵とナナ少尉のやり取りを横に、俺はある懸念を抱いた。
(ヤーカーラムだと!?)
ヤーカーラム、その名は知っている。「ラングサーガ」に登場した裏ボスだ。
死霊術士、ネクロマンサー。実在するかどうかも解らないとされる存在。
だが俺は知っている、ネクロマンサーは居る。ヤーカーラムが正にそれだ。
やれやれ、どうなってんだこの世界は。
問題だらけじゃないか、こんなの一々付き合ってられんぞ。
よりによってヤーカーラムかよ。しかもゲームのエンディングから二百年前って事はまだ生きている、いや、定命の者ではなくなったと言うべきか。
恐らくノーライフキングのリッチか何かにでもなったんだろうな。まったく。
リッチでネクロマンサーかよ! 厄介極まりねえじゃねえか!!
こんなのどう対処していきゃあいいんだ?
まあ、今の段階では何とも言えんが、少なくとも今回の件ではだが。
「お話して頂き、ありがとう存じます。」
「いえ、この様な話で、何か解決策はおありですかな?」
ふーむ、解決策か。簡単に成仏してくれればいいんだが。
「そうですねえ、成仏すれば良い訳ですので、後は何が心残りかという事ですね。」
「そんなの簡単ですわ、カリーナ嬢とジョッシュ様を会わせれば良いのでは?」
ふーむ、普通に考えてその線で動いた方が良さそうだ。
「ところで男爵様、そのカリーナさんは今どちらに?」
「はい、それならば今はこの屋敷にてメイドゴーストとして働いてくれておりますが。」
「ん? 既に出会えていると? では、何が心残りですかな?」
「実はそのう、私は奥手でして。彼女をダンスに誘えない程に気弱なのです。それに彼女は怒っているかもしれません、子爵家との婚姻話があったものですゆえ。」
ふーむ、男爵は繊細で気弱な性格と門番も言っていたっけ。
ここでナナ少尉が手をパンッと叩き、何かを閃いた様に言い放つ。
「でしたら、男爵様。ダンスパーティーなど開かれては如何でしょうか?」
「舞踏会ですかな? カリーナは付き合ってくれるでしょうか?」
ふーむ、こればかりはやってみなければ解らんな。
「大丈夫ですわ、女性というものは嫌いな殿方とは一秒も一緒に居たくありませんもの。つまり、今メイドとしてお傍にお仕えしているという事は………………。」
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