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第二章
それぞれの結末2
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「……チッ」
今の音は、とキンミッコは驚いた。
「あなた今……」
舌打ちの音が聞こえた。
交渉の場では冷静さを失った人間の負けだ。
相手を威圧するような舌打ちなんてするのはもってのほか。
ようやく見えた隙だと思ってキンミッコがハンカチから顔を離してウカチルに顔を向けて難癖をつけようとした。
しかしそれ以上キンミッコは言葉を発せなかった。
これまでの温和な表情が消えてウカチルは冷たい殺気をキンミッコに放っていた。
テーブルを挟んでいるのにすぐ横で剣を首に押し当てられている感覚に陥る。
「人が大人しくしていれば調子に乗りやがって……」
「な、何を……」
「僕が知らないと思いますか?」
「何のことだか……」
キンミッコの目が泳ぐ。
本当に何のことだか分からない。
心当たりが多すぎるのだ。
「僕の妹に手を出したそうですね」
「それは、話を聞いてください!」
「しかもパノンの娘さんとも無理矢理結婚して交渉を有利に進めようとしたそうですね」
「なぜ、それも……」
キンミッコはエミナの連れ去りとヤノチの失踪は別物だと考えていた。
ヤノチの側にリュードとルフォンがいることは知っていたが2人を魔人化する魔人族だとは思っていなかった。
なのでエミナを助けに来た魔人化したリュードをリュードだとは認識しなかった。
そしてヤノチの方は相手の目撃情報がなかったのだが、一命を取り留めた者の証言では黒い格好をした者だとだけ報告があった。
1人で屋敷に忍び飲んでヤノチを救うとは想像もできない。
キンミッコはエミナのこととは別で腕の立つリュードとルフォンが2人して忍び込んで助けたのかもしれないとキンミッコは思っていた。
リュードもルフォンも髪などが黒く、黒い襲撃者と結びつけることはできる。
「少し調べれば分かることです」
てっきりそのことを話題に出さないし、ウカチルがそのことを知らないかもしれないと交渉を進めていた。
ヤノチがさらわれたことだけでなくエミナのことまで知っているとキンミッコは動揺した。
なぜ今そのことを口にして、なぜ強気な態度に出たのか。
必死に考えを巡らせて1つの結論に達した。
ヤノチとエミナがウカチルの元にいると。
キンミッコはみるみると汗をかき始めた。
国同士でほとんど決まった話をひっくり返しかねない卑怯な手を使ったことがバレてしまった。
最初に追求されると思って事前に用意していた言い訳も頭から消し飛んでしまった。
優位に進めるカードとしようとしてむしろ相手に責任を問われるようなカードにされてしまった。
「僕が知らないと思いますか?」
ウカチルはもう一度キンミッコに問いただす。
ヤノチのことはダカンから聞いていた。
誘拐されたと聞いてウカチルは交渉を諦めることすら考えていた。
はらわたが煮えくりかえるほどの大問題だった。
しかし交渉の直前になって事態が大きく急変した。
「そ、その結婚の話は……」
これ以上のことなどない。
この交渉を左右する悪事は他に思いもつかない。
キンミッコは滝のような汗をかきながら言い訳を口にしようとした。
「コツマという者を知っていますか?」
「コツマ?」
しかしウカチルはキンミッコの責任を追及せず、また別の名前を口にした。
キンミッコは頭をこれまでにないほど回転させて名前の出た人物が誰か思い出そうとする。
最近投獄した連中か、キンミッコを告発しようとした愚か者か、過去に切り捨てたものか、考えれば考えるほど汗が噴き出し、ウカチルにもキンミッコが知恵を絞る音が聞こえてきそうだ。
交渉に当たって、カードを手にしているのはキンミッコだけではなかった。
ウカチルも交渉を優位に進めるためのカードを手にしていた。
「分からないようですね」
考える十分な時間は与えた。
分かるはずもないと思っていたので意外性もない。
「誰、なんでしょうか」
このような質問をぶつける理由は、まだ何か許してくれるようなチャンスがあるからだ。
そうすがるように思ってキンミッコは答えを尋ねる。
それから思い出しても遅くない。
「コツマさんはパノンさんの下で副隊長をやられていた方です」
そんなの分かるわけがない!
キンミッコはそう叫んでしまいそうになった。
自分の部下であっても名前を覚えるのはせいぜい部隊長クラスぐらいのもの。
まして隣の領地を治めていたものの副隊長なんて覚えているわけがない。
そもそも知っていたかすら怪しい。
「そ、そのような者がいらっしゃったとは存じ上げませんでした。今この場に何か関係でも?」
何にしてもパノンの兵士は皆死んでいるはず。
副隊長なら現場にいなかったはずもない。
「敵国のスパイとして捕らわれていたので知らないでしょうがコツマさんは我が国で長いこと捕らえていた人物なのです」
「では……」
「あの時の生き残りがいたんですよ」
ゆっくりとキンミッコは右手を上げて親指を噛み始める。
思考が停止し、もう汗すらも止まる。
「そうですか、じゃあ……僕が知らないと思いますか?」
再三の質問。
ウカチルは万全の準備をしてきている。
知らないことなんて何もない。
キンミッコはただ血が出るほど親指を噛むことしかできない。
「今回の交渉は国同士で決まっていました。和平を結び、その代わりにトキュネスはヒダルダを返還し、カシタコウはトキュネスに金銭的、物的支援をする。……そしてもう1つ決まったことがあります」
決まっていたこととはなんだろう。
考えることを放棄したキンミッコが次の言葉を待っているとウカチルがテーブルを掴み、ひっくり返す。
「トキュネスはあなたの命も差し出すことに決めたのです」
視界がテーブルに染まり、何も見えない。
その向こうでウカチルは剣を抜いて振り下ろした。
テーブルとキンミッコの腕が切れ始めた時、ウカチルはテーブルの影から飛び出してキンミッコの護衛の1人を切り捨てた。
さらにそのままもう1人の護衛も、何も分からないままにウカチルの剣に貫かれた。
今の音は、とキンミッコは驚いた。
「あなた今……」
舌打ちの音が聞こえた。
交渉の場では冷静さを失った人間の負けだ。
相手を威圧するような舌打ちなんてするのはもってのほか。
ようやく見えた隙だと思ってキンミッコがハンカチから顔を離してウカチルに顔を向けて難癖をつけようとした。
しかしそれ以上キンミッコは言葉を発せなかった。
これまでの温和な表情が消えてウカチルは冷たい殺気をキンミッコに放っていた。
テーブルを挟んでいるのにすぐ横で剣を首に押し当てられている感覚に陥る。
「人が大人しくしていれば調子に乗りやがって……」
「な、何を……」
「僕が知らないと思いますか?」
「何のことだか……」
キンミッコの目が泳ぐ。
本当に何のことだか分からない。
心当たりが多すぎるのだ。
「僕の妹に手を出したそうですね」
「それは、話を聞いてください!」
「しかもパノンの娘さんとも無理矢理結婚して交渉を有利に進めようとしたそうですね」
「なぜ、それも……」
キンミッコはエミナの連れ去りとヤノチの失踪は別物だと考えていた。
ヤノチの側にリュードとルフォンがいることは知っていたが2人を魔人化する魔人族だとは思っていなかった。
なのでエミナを助けに来た魔人化したリュードをリュードだとは認識しなかった。
そしてヤノチの方は相手の目撃情報がなかったのだが、一命を取り留めた者の証言では黒い格好をした者だとだけ報告があった。
1人で屋敷に忍び飲んでヤノチを救うとは想像もできない。
キンミッコはエミナのこととは別で腕の立つリュードとルフォンが2人して忍び込んで助けたのかもしれないとキンミッコは思っていた。
リュードもルフォンも髪などが黒く、黒い襲撃者と結びつけることはできる。
「少し調べれば分かることです」
てっきりそのことを話題に出さないし、ウカチルがそのことを知らないかもしれないと交渉を進めていた。
ヤノチがさらわれたことだけでなくエミナのことまで知っているとキンミッコは動揺した。
なぜ今そのことを口にして、なぜ強気な態度に出たのか。
必死に考えを巡らせて1つの結論に達した。
ヤノチとエミナがウカチルの元にいると。
キンミッコはみるみると汗をかき始めた。
国同士でほとんど決まった話をひっくり返しかねない卑怯な手を使ったことがバレてしまった。
最初に追求されると思って事前に用意していた言い訳も頭から消し飛んでしまった。
優位に進めるカードとしようとしてむしろ相手に責任を問われるようなカードにされてしまった。
「僕が知らないと思いますか?」
ウカチルはもう一度キンミッコに問いただす。
ヤノチのことはダカンから聞いていた。
誘拐されたと聞いてウカチルは交渉を諦めることすら考えていた。
はらわたが煮えくりかえるほどの大問題だった。
しかし交渉の直前になって事態が大きく急変した。
「そ、その結婚の話は……」
これ以上のことなどない。
この交渉を左右する悪事は他に思いもつかない。
キンミッコは滝のような汗をかきながら言い訳を口にしようとした。
「コツマという者を知っていますか?」
「コツマ?」
しかしウカチルはキンミッコの責任を追及せず、また別の名前を口にした。
キンミッコは頭をこれまでにないほど回転させて名前の出た人物が誰か思い出そうとする。
最近投獄した連中か、キンミッコを告発しようとした愚か者か、過去に切り捨てたものか、考えれば考えるほど汗が噴き出し、ウカチルにもキンミッコが知恵を絞る音が聞こえてきそうだ。
交渉に当たって、カードを手にしているのはキンミッコだけではなかった。
ウカチルも交渉を優位に進めるためのカードを手にしていた。
「分からないようですね」
考える十分な時間は与えた。
分かるはずもないと思っていたので意外性もない。
「誰、なんでしょうか」
このような質問をぶつける理由は、まだ何か許してくれるようなチャンスがあるからだ。
そうすがるように思ってキンミッコは答えを尋ねる。
それから思い出しても遅くない。
「コツマさんはパノンさんの下で副隊長をやられていた方です」
そんなの分かるわけがない!
キンミッコはそう叫んでしまいそうになった。
自分の部下であっても名前を覚えるのはせいぜい部隊長クラスぐらいのもの。
まして隣の領地を治めていたものの副隊長なんて覚えているわけがない。
そもそも知っていたかすら怪しい。
「そ、そのような者がいらっしゃったとは存じ上げませんでした。今この場に何か関係でも?」
何にしてもパノンの兵士は皆死んでいるはず。
副隊長なら現場にいなかったはずもない。
「敵国のスパイとして捕らわれていたので知らないでしょうがコツマさんは我が国で長いこと捕らえていた人物なのです」
「では……」
「あの時の生き残りがいたんですよ」
ゆっくりとキンミッコは右手を上げて親指を噛み始める。
思考が停止し、もう汗すらも止まる。
「そうですか、じゃあ……僕が知らないと思いますか?」
再三の質問。
ウカチルは万全の準備をしてきている。
知らないことなんて何もない。
キンミッコはただ血が出るほど親指を噛むことしかできない。
「今回の交渉は国同士で決まっていました。和平を結び、その代わりにトキュネスはヒダルダを返還し、カシタコウはトキュネスに金銭的、物的支援をする。……そしてもう1つ決まったことがあります」
決まっていたこととはなんだろう。
考えることを放棄したキンミッコが次の言葉を待っているとウカチルがテーブルを掴み、ひっくり返す。
「トキュネスはあなたの命も差し出すことに決めたのです」
視界がテーブルに染まり、何も見えない。
その向こうでウカチルは剣を抜いて振り下ろした。
テーブルとキンミッコの腕が切れ始めた時、ウカチルはテーブルの影から飛び出してキンミッコの護衛の1人を切り捨てた。
さらにそのままもう1人の護衛も、何も分からないままにウカチルの剣に貫かれた。
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