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87話 あいこだぞ
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さて、里に戻ったわけだが、最初にやるのは戦死者の片付けだ。
すでにスケルトン隊の一部が人間の死体を回収していたようだが、全然間に合っていない。
森の中ではすでに獣に食い荒らされている者もいるようだ。
戦場跡は掃除しなければ獣が集まるし、瘴気から病が生まれてしまう。
なにごとも後始末が肝心なのだ。
女衆も総出で森から遺体を集め、里のほど近くに大きな穴を掘る。
ここに敵味方の区別なく遺体を納めた墓を作るのだ(スケルトンたちは何らかの基準で人間の遺体を選別して持ち去るが、詳細は分からない)。
大多数は追撃戦のものだ。
人間が多い。
獣に荒らされないように土を厚く被せると、大きくこんもりとした土まんじゅうのような塚が完成した。
「よーし、みんなご苦労さん。とりあえずはこれでいいだろ。今日は塚を囲んで宴会するぞ!」
俺が声をかけると皆から歓声が上がった。
大勢が死ぬような戦いは、勝っても負けても引きずらないようにしなければならない。
勇ましく戦った者は自らを誇り、身内を喪った者は大いに泣く。
そうしなければ、触れた死者に心が引かれて狂気を発するのだ。
皆で酒を飲み、騒ぐ。
戦勝の宴は別れの宴、どれほど勝っても死ぬ仲間はいる。
泣き笑いの複雑な宴だ。
他の里から来た応援のものにも酒をふるまい、俺も飲む。
多少ハメを外す者がいても誰も咎めはしない。
正体を失くすまで酒を飲み、塚にすがりついて泣きわめく者がいる。
酒精で意識を朦朧とさせ、死者と語らう者もいる。
死んだ戦士を称える歌を吟ずる者もいる。
ここはごちゃ混ぜの里なのだ。
死者との向き合い方もそれぞれである。
「あいこだぞ」
突如、背後から声をかけられた。
アシュリンである。
彼女は娘のシーラを抱え、口をへの字に曲げていた。
「なんだ? あいこって」
「わ、私は間違ってない。でも、ベルクも間違ってない。だからあいこだ」
どうやら喧嘩の仲直りを持ちかけてきたらしい。
連日の戦闘でスッカリ忘れていたので面食らってしまった。
「だ、だめか?」
そんな俺の様子を勘違いしたのか、形のよいアシュリンの眉毛が八の字になる。
「いや、ダメじゃない。俺も悪いことしたと思ってるし、アシュリンも思ってくれてる。あいこだな」
「そ、そうかっ! あいこか!」
アシュリンが俺の隣に座り「本当に、わ、悪かったって思ってくれてるのか?」と尋ねてくる。
俺は「まあな」と答えただけだが彼女は嬉しげだ。
俺たちは夫婦なのだ。
夫婦だからこそ些細なことで喧嘩をするし、仲直りもできる。
これは理屈ではない。
「とうちゃん」
「ん? とうちゃんだ。やっと俺を覚えてくれたか」
アシュリンに抱かれていたシーラが初めて俺のことを父と呼んだ。
今まで全く喋らなかったわけではないが、新たな変化だ。
(そうか、オマエは俺を父と呼んでくれるのか)
なんだか鼻の奥がツンとしてしまった。
俺はアシュリンからシーラを受け取り、そっと抱く。
シーラは周囲の大騒ぎが不思議なのか、きょとんとした顔をしていた。
(娘が産まれてくれたから……なんというか、俺は本当の意味で土地に根づいたのかもな)
考えてみれば、見ず知らずの異種族が夫婦になり、子供が産まれたのだ。
不思議な巡り合わせである。
俺は心の内で父と呼んでくれた娘に感謝を捧げた。
どこまで行っても俺個人は他所から来た流れ者だ。
しかし、シーラは森の子、その父となり、俺もやっと森の民になれた気がする。
「ど、どうしたんだ? シーラがオシッコしちゃったか?」
「いや、そうじゃない。シーラが初めて俺のこと『とうちゃん』って呼んだんだ。嬉しくてさ」
俺の感激をよそに、アシュリンは「いままでも呼んでたぞ?」と不思議そうな顔をした。
「そりゃ嘘さ。初めて呼ばれたよ」
「違うぞっ、シーラはもうだいぶ話すようになったんだ。べ、ベルクが知らないだけだっ」
俺の決めつけにアシュリンが頬を膨らます。
そして、互いに顔を見合わせて大笑いをした。
子は夫婦の縁つなぎとはよくいったものだ。
この日、久しぶりにアシュリンと体を重ねた。
寝ているシーラを起こさないように声を潜めた行いであったが、これはこれですごく燃えた。
なんだかんだ体の繋がりも夫婦に大切なモノなのである。
■■■■
供養塚
敵味方数百もの戦死者を納めた供養塚。
大半が人間ではあるが、ごちゃ混ぜ里の住民も戦死・戦傷死を併せて27人、力尽きたスケルトン隊員11人が埋葬されている。
土を饅頭のように固めただけの質素なものであったが、後に石で固められ、立派な供養塚になった。
余談ではあるが、他の里の戦死者はそれぞれの里で葬られるため、塚には納められていない。
すでにスケルトン隊の一部が人間の死体を回収していたようだが、全然間に合っていない。
森の中ではすでに獣に食い荒らされている者もいるようだ。
戦場跡は掃除しなければ獣が集まるし、瘴気から病が生まれてしまう。
なにごとも後始末が肝心なのだ。
女衆も総出で森から遺体を集め、里のほど近くに大きな穴を掘る。
ここに敵味方の区別なく遺体を納めた墓を作るのだ(スケルトンたちは何らかの基準で人間の遺体を選別して持ち去るが、詳細は分からない)。
大多数は追撃戦のものだ。
人間が多い。
獣に荒らされないように土を厚く被せると、大きくこんもりとした土まんじゅうのような塚が完成した。
「よーし、みんなご苦労さん。とりあえずはこれでいいだろ。今日は塚を囲んで宴会するぞ!」
俺が声をかけると皆から歓声が上がった。
大勢が死ぬような戦いは、勝っても負けても引きずらないようにしなければならない。
勇ましく戦った者は自らを誇り、身内を喪った者は大いに泣く。
そうしなければ、触れた死者に心が引かれて狂気を発するのだ。
皆で酒を飲み、騒ぐ。
戦勝の宴は別れの宴、どれほど勝っても死ぬ仲間はいる。
泣き笑いの複雑な宴だ。
他の里から来た応援のものにも酒をふるまい、俺も飲む。
多少ハメを外す者がいても誰も咎めはしない。
正体を失くすまで酒を飲み、塚にすがりついて泣きわめく者がいる。
酒精で意識を朦朧とさせ、死者と語らう者もいる。
死んだ戦士を称える歌を吟ずる者もいる。
ここはごちゃ混ぜの里なのだ。
死者との向き合い方もそれぞれである。
「あいこだぞ」
突如、背後から声をかけられた。
アシュリンである。
彼女は娘のシーラを抱え、口をへの字に曲げていた。
「なんだ? あいこって」
「わ、私は間違ってない。でも、ベルクも間違ってない。だからあいこだ」
どうやら喧嘩の仲直りを持ちかけてきたらしい。
連日の戦闘でスッカリ忘れていたので面食らってしまった。
「だ、だめか?」
そんな俺の様子を勘違いしたのか、形のよいアシュリンの眉毛が八の字になる。
「いや、ダメじゃない。俺も悪いことしたと思ってるし、アシュリンも思ってくれてる。あいこだな」
「そ、そうかっ! あいこか!」
アシュリンが俺の隣に座り「本当に、わ、悪かったって思ってくれてるのか?」と尋ねてくる。
俺は「まあな」と答えただけだが彼女は嬉しげだ。
俺たちは夫婦なのだ。
夫婦だからこそ些細なことで喧嘩をするし、仲直りもできる。
これは理屈ではない。
「とうちゃん」
「ん? とうちゃんだ。やっと俺を覚えてくれたか」
アシュリンに抱かれていたシーラが初めて俺のことを父と呼んだ。
今まで全く喋らなかったわけではないが、新たな変化だ。
(そうか、オマエは俺を父と呼んでくれるのか)
なんだか鼻の奥がツンとしてしまった。
俺はアシュリンからシーラを受け取り、そっと抱く。
シーラは周囲の大騒ぎが不思議なのか、きょとんとした顔をしていた。
(娘が産まれてくれたから……なんというか、俺は本当の意味で土地に根づいたのかもな)
考えてみれば、見ず知らずの異種族が夫婦になり、子供が産まれたのだ。
不思議な巡り合わせである。
俺は心の内で父と呼んでくれた娘に感謝を捧げた。
どこまで行っても俺個人は他所から来た流れ者だ。
しかし、シーラは森の子、その父となり、俺もやっと森の民になれた気がする。
「ど、どうしたんだ? シーラがオシッコしちゃったか?」
「いや、そうじゃない。シーラが初めて俺のこと『とうちゃん』って呼んだんだ。嬉しくてさ」
俺の感激をよそに、アシュリンは「いままでも呼んでたぞ?」と不思議そうな顔をした。
「そりゃ嘘さ。初めて呼ばれたよ」
「違うぞっ、シーラはもうだいぶ話すようになったんだ。べ、ベルクが知らないだけだっ」
俺の決めつけにアシュリンが頬を膨らます。
そして、互いに顔を見合わせて大笑いをした。
子は夫婦の縁つなぎとはよくいったものだ。
この日、久しぶりにアシュリンと体を重ねた。
寝ているシーラを起こさないように声を潜めた行いであったが、これはこれですごく燃えた。
なんだかんだ体の繋がりも夫婦に大切なモノなのである。
■■■■
供養塚
敵味方数百もの戦死者を納めた供養塚。
大半が人間ではあるが、ごちゃ混ぜ里の住民も戦死・戦傷死を併せて27人、力尽きたスケルトン隊員11人が埋葬されている。
土を饅頭のように固めただけの質素なものであったが、後に石で固められ、立派な供養塚になった。
余談ではあるが、他の里の戦死者はそれぞれの里で葬られるため、塚には納められていない。
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