俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる

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ある男視点の伝説

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先輩はとても優しい。それは俺はよく知っている。

それは数年前の蝉がけたたましく鳴く夏の頃。
俺が小学2年生の頃、地元の夏祭りに参加した際に迷子になった事がある。
当時の俺は極度の人見知りであった為、大人に声をかけることもできず人混みから外れただ親が現れる事を待っていた。
実際の時間にしてしまえば大した時間は流れて居なかったと思うが、まるで永遠のように感じたその恐怖を今でも覚えている。

「きみ迷子?おれも迷子」

迷子が迷子に声をかける。それが先輩と俺の出会いだった。

親に買って貰ったであろう戦隊ヒーローのお面と戦隊ヒーローの絵柄の描いた綿飴を抱きしめていた先輩は、自分達の両親が見つけてくれる迄ずっと一緒に傍にいてくれた。自分の綿飴を俺に分け与えて、暢気に鼻歌を歌いながら楽観的であった。
なんて強い人なんだろうと、俺にとって先輩は大人のように見えた。お面のヒーローよりも俺にとってはかっこ良く見えていたのだ。
暫くしてから、先に俺の親が俺を見つけた際は「よかったねー!」と笑顔で声をかけた。
俺はすっかり先輩のファンになっていた為、人見知りもあるがお礼が言いたくても照れて中々口に出来ない。
そうこうしている時に先輩の両親も現れ先輩に声を呼びかけた瞬間、先輩はお母様の元へと走って行った。

「あら、あんた泣いてるの?怖かったねぇ、ごめんね。よしよし」
「っ…」

後に知る事になったが、当時の先輩は小学4年生。親とはぐれて祭りとは云え夜に子供1人、心細くない訳がないのだ。
ただ、自分よりも明らかに年下の子供を前に強くあろうとしただけだった。彼は本当に優しい人だから。
母親の足にしがみついて離れなくなった先輩の背中を見て、自分の胸が熱くなった事を覚えている。これが俺の初恋である。



地元の祭りに参加する点でもしやと思っていたが、小中も先輩とはは同じ学校に通った。
嬉しくてでも、小学生の頃は人見知りであった自分は先輩に声をかける勇気がでず陰から見守り、中学生の頃は人見知りも無くなっていったが数年既に想いを拗らせていた為恐れ多く見かければ隠れて観察をする日々を数年間を過ごした。
先輩との別れである小学校、中学校の卒業式どちらも周囲の目を気にせず泣いたものだ。


好きだから知っている、先輩は頼られたら断れない。
必要とされたら拒否が出来ない。いつも嫌な委員会会議の司会も押しつけられてもやっていたし、放課後の掃除も皆がさぼる中で1人で文句を言いながらもやっていた。先輩はそういう人なのだ、なんて愛おしいんだろう。

先輩が高校に進学すると、同じ進学校に受験した他地域に住む従兄弟も受かっており、先輩と同じクラスになったと聞いた時は羨ましくて悶えた。
もし先輩を好きになったら殺すと予め存在を伝えてせいで従兄弟と先輩は友人同士になっていた。俺よりも先に認知されていて羨ましいどころの話じゃ無かった。

それだけじゃ飽き足らず、その従兄弟が先輩を当て馬に使って自分が好きな男とつき合う為に偽でも先輩に告白したと聞いた時は殺意が抱いた。一発だけ殴った。

後々、従兄弟が当て馬扱いをした事がきっかけで先輩が色んなよく分からない男から告白される異常な環境に身を置くきっかけとなったと聞き出した時は、殺意を抱ききる前に意識外で既に拳が従兄弟を殴っていた。


先輩は小学生の頃の話なんて覚えてはいないだろう。あの人が人の手助けをする事は珍しい事じゃない。俺は先輩にとって所詮モブの1人でしかない。だから妙な噂にまで真摯につき合ってしまうんだ。なんてお人好しなんだろうそんな所も好きだけど。


猛勉強して先輩と同じ高校に進学出来ても、また今まで通り遠くから見ているだけだと思っていた。だけど、無理だった。
フリだとしても、他の男から先輩が告白されている姿を見るのが嫌だった。実際の光景を見かけた瞬間、もう駄目だと思った。


「馬場先輩、好きです」


数年間何度も言いたかった言葉。何千回と心の中で唱えていた。
ただ、声に出すのは初めてで声が震えそうになった。
昨日見かけた、先輩に気色の悪い伝説とかの目的で告白していた男よりも声は小さかったし情けない声でダサかったと思う。

数年ぶりに、先輩の瞳が俺を捉えた。死ぬかと思った。

俺だけに向けられる視線、俺だけに向ける言葉にかなり興奮した。
今後の人生、この録音したデータは何度も聞き直す事だろう。テンションにまかせて先輩の腕にまで触ってしまった。もう風呂に入りたくない。

……先輩は、先程の俺の告白も本気では無いと流そうとしていた。
本気じゃ無い、心がこもっていない返事だなんて事は数年間先輩をスト……見守ってきたのだから俺が一番解っている。先輩が男から告白される事に慣れさせる、隙だらけになったきっかけの従兄弟と先輩を利用した全ての男ども全員始末するしかないかもしれない。

だけど、そんな状況だからこそ俺はやっと動けたのだと思う。
こんなチャンスを見逃したら俺は一生後悔する。俺は先輩のその隙につけ込んだ。先輩のように俺は良い人ではないから。

「ふふ、走ってる。今日は近道通って行くんですね」

それに分かっているんだ、俺が先輩を一番幸せに出来る。


――恋愛成就率100%


「(100%になるよう俺も頑張ります、先輩)」

俺に告白をされて戸惑いながらも、真面目だから遅れないように走ってバイト先のファミレスへ向かう先輩の姿を見守った。

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