ゲーム内転移ー俺だけログアウト可能!?ゲームと現実がごちゃ混ぜになった世界で成り上がる!ー

びーぜろ

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第368話 二人目

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「――うん?」

 アース・ブリッジ協会の代表理事。友田が電話に出ない。
 一体どういうつもりだ?
 権力を持った老害にして絶対的強者である与党幹部、仁海は電話にでない友田の名前をスマートフォンの画面越しに見ながら呟く。

 私からの電話はワンコールで出るよう言い聞かせていたというのに、最近の若造と来たら……。まあいい。
 友田はただの情報提供者。
 事が成れば、切り捨てるだけの存在。
 高橋翔の情報を聞きだせるだけ聞き出したかったが仕方がない。氷樹の件を聞き出せただけ良しとするか。
 受話器を置くと、仁海は手を叩き、秘書官を呼び付ける。

「おい。高橋翔の事を調べさせろ」
「はい」

 仁海は二人の秘書官を雇っている。
 第二秘書の遠藤が返事をし、部屋を出た所で、第一秘書の山田が一人の男を連れ、部屋の中に入って来た。

「失礼します。お客様をお連れしました」
「おお、よく来てくれた。まあ、とりあえず腰でも掛けてくれ」

 男は勧められるままソファに座ると、仁海に向かって笑みを浮かべる。

「うむ。いい笑顔だ」

 人を騙すのに申し分ない。
 仁海は軽く片手を挙げ、第一秘書官を部屋の外に下がらせる。

「単刀直入に言おう。もうじき都知事選が始まる。君には、私の孫として都知事選に出馬して欲しい。勿論、応援は惜しまない。必要なものがあれば遠慮なく言ってくれ」
「――私でよろしいのでしょうか?」
「ああ、勿論だとも。諸々手続きは済ませておいた。君から受け取った例の物を利用してね。ミズガルズ聖国の教皇によろしく頼むよ」

 仁海の口から出たミズガルズ聖国という単語。その言葉を聞き、男は深い笑みを浮かべる。

「分かりました。その話、引き受けましょう」

 男の名は、セイヤ・ミズガルズ。
 ピンハネと同じく神に選ばれ、ゲーム世界と現実世界を行き来する事のできる六人のうちの一人である。

「しかし、耳を疑ったよ。君が北極海に浮かぶアレから来たと聞いた時にはね」

 東京都知事である池谷の下に、あちら側の世界からの来訪者がいたという話は仁海にとって衝撃的だった。それと同時に納得した。
 最近の東京都は何かがおかしかった。
 その原因が、あちら側からの来訪者により齎されたものだと知った時の衝撃ときたら。
 池谷を除く殆どの者が知らぬ真実。
 それが仁海の下に転がり込んできたという事実。

「……これの存在にも驚いた」

 仁海はセイヤから受け取った契約書を鞄から取り出し笑みを浮かべる。
 契約書。それは、結ばれた契約を強制するあちら側の世界のアイテム。
 このアイテムの前では、法など最早関係ない。
 長年、仁海が求めていた力にして、高橋翔から氷樹を奪う為の自信の源。

「それで? 奴があちら側の世界の人間でないというのは本当だろうな?」

 高橋翔が、あちら側の世界の人間かどうか。
 それにより取れる手段が変わってくる。

「ええ、間違いありません」

 仁海はセイヤの回答を聞き笑う。

「そうか、そうか。それは良かった」

 こちらの世界の人間である事が確認できればそれでいい。
 人間は生きているだけで柵に囚われ雁字搦めとなっていく。
 仁海自身も高橋翔と同じ。
 柵に囚われ雁字搦め。ただ、高橋翔と違う点。それは、仁海がこれまで築いてきた圧倒的権力者としての立場。
 違法を合法に変え、甘い汁を啜る事も、権力者と結託して一人の人間を社会から弾き出す事も、人知れずこの世から消す事も仁海にとっては容易。

 高橋翔が目の前の男と同じ、超常の力を持っていても関係ない。
 知人、友人、親、親戚、同僚、恋人と、高橋翔が他を圧倒する力を持っていようが柵の前には無力。

 追い詰めてやろうじゃないか。策謀を巡らせ、奴の全てを奪い取ってやる。
 まだ二十代そこそこのガキが氷樹とレアメタルの流通網を持っている事自体が不遜。それは私にこそ相応しい。

「私にできる事があれば何でも言って下さい。できる限りの事を致しましょう」
「それは有難い。お言葉に甘えさせて貰おう。そうだな。追加で千枚。この契約書を用意してくれ」

 契約書の効果は使った者しか分からない。
 セイヤは笑いながら言う。

「ええ、勿論構いませんよ。ただこれは希少価値が高く揃える為には多額のお金が掛かります。こちらの世界の通貨で一枚当たり二百万円。それだけの金額を頂けるのであれば、揃えましょう」

 その言葉に仁海は顔を引き攣らせる。

「に、二百万円だと? それはあまりにボり過ぎなのではないか?」

 千枚で二十億円。昔であればいざ知らず、二十億円という金額は仁海でもすぐには動かせない。

「最初にお渡しした十枚については、お近づきの印として無料としますが、契約書の入手にはそれだけの金額が掛かるのです。流石の私もタダでは渡せません」
「うむむっ……。で、では、百枚。取り合えず、百枚でいい」

 秘書は金庫から二億円を取り出すと、それをアタッシュケースに詰めセイヤの前に置く。
 セイヤはアタッシュケースに詰められた金を確認すると、アイテムストレージから契約書を取り出し、仁海の前に置いた。

「……確かに、それではこちらをどうぞ」
「ああ、ありがとう」

 本当は千枚欲しかったが、有料であれば仕方がない。
 しかし、これがあれば、派閥を纏め上げる事も可能。総理大臣になる事だって……。
 仁海は大切そうに契約書を受け取ると、クリアファイルに入れ鞄へと仕舞う。

「それで、私はこれからどうしたらよろしいでしょうか?」
「うん? ああ、しばらくは様子見だ。都知事選が始まるのは、現都知事である池谷が解散を宣言した後……なぁに、不安そうな顔をするな。あれだけの不祥事を連発したのだ。まず間違いなく勝てる」

 と、いうより勝って貰わなくては困る。
 東京都知事のポストにはそれだけの価値がある。
 勿論、目の前の男にも……。

 東京都を餌にこの男を手中に収める。それが仁海の目的。
 この男はこの国の法を知らない。
 東京都知事就任の時、契約書を使い、この男を仁海の支配下に置く。

 人は有頂天になっている時、注意力が散漫となる。
 若者が有頂天となっている時、絶望の淵に立たせ突き落とすのが大好きな仁海の趣味と実利の両立。
 仁海に取って東京都知事の地位は誰がなっても構わない。その程度の席。
 組織票を握っているのは仁海なのだから当然だ。

「だから、安心してくれ」

 それに例え、都知事選に負けたとしても、何かと理由を付けて契約書にサインさせ、絶対服従を強いるのは確定事項。
 結果として仁海に損はない。

「そうですか。安心しました。それでは、暫くの間、東京観光でもしてきたいと思います」
「ああ、それがいい」

 東京都知事選が始まれば、どの道、忙しくなる。そして、都知事選が終われば、この男は私の支配下……。

「もし必要なものがあれば手配させる。遠慮なく言ってくれ」

 そう言うと、仁海は深い笑みを浮かべた。

 ◆◆◆

 ……猿、猿、猿、猿、猿、猿。

 ミズガルズ聖国教皇の息子にして、神に選ばれた存在であるセイヤは憤っていた。
 老いた猿の分際で、高貴なるこの私を孫扱い。あり得ない。信じられぬ思考。
 所詮は獣か、だから、不敬の概念を知らず、この私を孫扱いできる。
 ふふふっ……。

 セイヤは心の中で笑う。

 しかも、この獣は我を孫扱いした上、教皇の息子であるこの我に小都市の長を決める選挙に出してやると宣った。
 底知れぬ愚かさ。圧倒的感性の相違。
 違うだろ、そこは長になって下さいと宣う所だ。老いた獣が何を対等な立場で我に喋り掛けている。貴様は何様だ。
 私は、ミズガルズ聖国、教皇の息子。
 薄汚い下賎な爺が気安く話しかけていい存在ではない。
 お前の役割は私にこの国を引き渡し、属国となること。薄汚い獣の分際で履き違えるな。

「いや……そうか。そうだったな」

 よく考えて見れば、あの猿は獣。
 それも老いた獣だ。元々、持っているスペックが低い。
 脳もパチンコ玉サイズに縮小している。
 つまり判断が付かないのだ。
 だから不敬を不敬と思わない。

 私とした事が、その視点が抜けていた。

 あの獣は高貴な血筋である私を孫扱いする事で自尊心を保っている。
 そう考えれば合点がいく。
 多少の不敬も仕方がないと思えてくる。
 だって、目の前にいたのは獣なのだから。
 獣に礼節を弁えろと言った所で意味はない。
 つまりは物と同じ。
 老いた獣を物として有効に活用せよとの神の啓示。神の試練。

「神も中々、厳しい試練を課してくる。まあ、私であれば余裕だが……」

 おそらく、東京都という小都市を足掛かりに日本という島国を掌握せよとの啓示なのだろう。
 ミズガルズ聖国教皇の息子である私ならば余裕だ。

「……仕方がない。今は東京都を貰うだけで勘弁してやるか」

 ミズガルズ聖国は教皇である親父の国。
 私の目的はこの世界で私を讃える新しい教えを広め、私だけの宗教国家を樹立する事にある。
 その為の足掛かりとして考えれば、東京都の譲渡は悪くない。

「あの猿だけでは不安が残る。仕方がない。私も動くか」

 物事に絶対はあり得ない。
 物事を突き詰める事で絶対に近付けるのがエイコウのやり方。

「まずは、私を支援すると言った猿の後ろ盾を奪うとしよう」

 幸いな事に、猿の後ろ盾は宗教団体。
 宗教国家であるミズガルズ聖国と相性がいい。最短で一ヶ月。私の持つノウハウを駆使すれば、宗教団体を籠絡するのは容易い。

「……どれ、観光がてら猿の後ろ盾共の貧相な生活でも見てみるか」

 上位者たる者、視察は欠かせない。
 そう呟くと、セイヤは黒い笑みを浮かべた。
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