モブで薬師な魔法使いと、氷の騎士の物語

みん

文字の大きさ
88 / 123
第二章ー同棲ー

繋がり

しおりを挟む
ここ、王都のパルヴァン邸にも、地下に広い部屋がある。宮下薫を日本に還した時のように、今回も地下にある部屋で悠兄さんを還す事になった。
この部屋に居るのは─ゼンさん、ミヤさん、エディオルさん、リュウ、私─だけだ。




「悠兄さん、また会えた事は…嬉しかった。日本に還っても、元気でね。」

「俺も、またハルに会えて嬉しかったよ。元気でな。その…エディオルさんと…幸せにな。」

私との挨拶が終わると、悠兄さんがミヤさんへと視線を向ける。それに気付いたミヤさんが、悠兄さんの方へと近付いて来た為、私は悠兄さんから離れてエディオルさんの居る方へと戻った。





「ミヤ…本当に、色々とごめん。」

「浮気の事ならもう済んだ事だし、今回の事なら私に謝る必要なんて無いわよ。悠介が謝らなければならないのは、ハルとネージュだけよ。」

「そう…だな……。」

悠介は、哀し気に笑う。

「俺、本当にミヤの事好きだったんだ。浮気しといて何言ってるんだ─って感じだけど。もう……二度と会えないんだよな?」

「そうね。住む世界─生きていく世界が違うから。」

「…だな。みや、元気で…今迄…ありがとう。」

「悠介も、元気でね。」

そのまま、ミヤさんは悠兄さんに背を向けて離れて行く。それとすれ違うように、リュウが悠兄さんに近付いて行く。

「悠介、日本で元気でな。」

「リュウ…ありがとう。」

『眞島悠介。ハルのお願いを叶えた後、一晩ぐっすり眠れば、今回の事もミヤ様やハル達の事も、キレイサッパリよ。』

「──え?」

悠介は少し目を見開いた後

「そうだと良いけどね。」

と呟いた。そんな悠介を、いつもとは違う冷たい目で見ていたリュウだが、悠介は勿論の事、その場に居る誰もが気付かなかった。






「ハル、大丈夫か?」

「はい。私はいつでも大丈夫です。えっと、皆さんはもう少し離れていてくれますか?」

悠兄さんとのお別れの挨拶も済み、魔法陣の展開の準備に入る。

ーミスのないように、悠兄さんが怪我とかしないように、慎重にやらないとねー

目を瞑って魔力の流れを整えて、魔法陣をゆっくりと展開させていく。すると、悠兄さんの足元に魔法陣が現れて、そこから水色の光がキラキラと輝き出した。

ー出来る事なら、悠兄さんが池に落ちたって言ってた時と場所に戻れたら良いんだけどー

そんな、少しの願いを込めて魔法陣に魔力を流し続ける。水色の光がフワフワと広がって、一際大きく輝いて──

その輝きが落ち着けば、もうそこに、悠兄さんの姿は無かった。




「ふぅー。終わりました。悠兄さん、無事に…還れてると良いけど…。」

「ハルが還したのよ?大丈夫に決まってるわ。怪我の一つ位してても良い位じゃない?さぁ、上に戻りましょうか。」

「そうですね。ハル様、お疲れ様でした。ロンにお茶を用意させていますから、サロンに行きましょうか。」

ミヤさんとゼンさんの掛け声に、皆でサロンへと向かった。














*****


コポコポ……ゴボッ……








ザバザバザバッ──


「何でまた水の中なんだよ!」

「「「悠介!」」」

「え!?」

「お前が池に落ちて、なかなか上がって来ないから心配しただろう!!ほら、俺に掴まれ!早く上がって来い。」

ー向こうの世界に飛ばされた時に…戻ってる?ー

「眞島さん、大丈夫ですか?今、タオル持って来ますね。」

「あ…あぁ。ありがとう…。」

目の前には、会社の同僚達が俺を心配してくれている。

ーえ?は夢だった?ー

お腹に手をあてると─カサリ─と、音がする。

ー夢じゃないなー

俺は、ハル─琴音から頼まれた物を失くさないように、お腹周りに括りつけておいたのだ。それがあると言う事は、夢じゃなかったって事だ。

現実だった事にホッとしたのと同時に、もう二度と咲には会えないのだ─と言う事実に胸が軋んだ。










*****


「「咲と琴音(琴ちゃん)に会った!?」」

こっちに還って来てから一週間後。ようやく小宮さんと藤宮さんと会う事ができた。

「はい。何だかよく分からないけど、気が付いたら異世界に飛んでて…。それで、そこで2人に会って…。」

小宮さんも藤宮さんも、最初は“信じられない!”と言う顔をしていたが、俺が異世界で過ごした話をすると信じてくれたようで、それからは、異世界の事や咲と琴音の事を色々と訊かれた。



「えっ!?琴ちゃんとエディオルさんが婚約!?琴ちゃんは大丈夫なの!?」

「ある意味、琴音が大丈夫じゃない位溺愛されてますよ。」

「「溺愛っ!?」」

琴音とエディオルさんの婚約には、あまり納得?のいかない2人。

「信じられないけど、見て来た人が言うのなら…そうなんてしょうね…。えっと、それで?私達に渡したい物って?」

ある程度話が落ち着いた時に、小宮さんから言われて思い出す。

「あ、そうだった。還って来る前に、琴音に頼まれたんだ。これを、2人に渡して欲しいって。琴音からだ─と言えば分かるからって。」

言いながら2人に袋を渡すと、2人がそれを受け取り、中身を開けて確認する。

「これ…」

中から出て来たのは、水色と黒色の魔石で出来たブレスレットだった。

「ふふっ。また、最強のアイテムが戻って来たって事ね。」

「これを持ってると、あの2人と繋がってるんだって思えるよね。何と言うか…眞島さんのした事は許せないけど、コレを持って来てくれた事は感謝するわ。」

小宮さんと藤宮さんがニッコリ笑ってるけど…

ー目が笑っていない…よな?ー
















“これを持ってると、あの2人と繋がってるんだって思えるよね”

その日の夜、寝る前にふと思い出した小宮さんの言葉。

「俺には…何も残らなかったな…。」

琴音に頼まれた物以外、何も持って還って来なかった。もう、思い出だけしか残っていない。

「俺も、ちゃんと吹っ切れないとな…。」

胸がチクリと痛むのを無視して、そのまま現実から逃げるように眠りに就いた。










*****


『眞島悠介。ハルのお願いを叶えた後、一晩ぐっすり眠れば、今回の事もミヤ様やハル達の事も、キレイサッパリよ。』


リュウは、悠介の記憶に干渉した。
意図はなかったとは言え、ハルとネージュが被害を被った。一番最悪な形で。自分のした事を棚に上げて…怒りを覚えた。
悠介が、こちらの記憶を持ったままだと、どうなるか分からない─また、こっちに来られたりしたら─

そう思って、俺は、悠介がハルとの約束を果たした後、ここでの記憶やミヤ様やハルの事を忘れるようにと、悠介の精神に干渉した。

本当は駄目なんだろうけど。

もう、今頃は、この世界やミヤ様やハルの事を忘れて、今迄通りの生活を送っているだろう。


「その、胸にポッカリ空いた穴は…二度と埋まる事はないだろうけどね。」


と、リュウは一人、ひっそりと呟いた。



しおりを挟む
感想 134

あなたにおすすめの小説

喪女なのに狼さんたちに溺愛されています

和泉
恋愛
もふもふの狼がイケメンなんて反則です! 聖女召喚の儀で異世界に呼ばれたのはOL・大学生・高校生の3人。 ズボンを履いていた大学生のヒナは男だと勘違いされ、説明もないまま城を追い出された。 森で怪我をした子供の狼と出会ったヒナは狼族の国へ。私は喪女なのに狼族の王太子、No.1ホストのような武官、真面目な文官が近づいてくるのはなぜ? ヒナとつがいになりたい狼達の恋愛の行方は?聖女の力で国同士の争いは無くすことができるのか。

【完結】秀才の男装治療師が女性恐怖症のわんこ弟子に溺愛されるまで

恋愛
「神に祈るだけで曖昧にしか治らない。そんなものは治療とは言わない」  男尊女卑が強い国で、女であることを隠し、独自の魔法を使いトップクラスの治療師となり治療をしていたクリス。  ある日、新人のルドがやってきて教育係を押し付けられる。ルドは魔法騎士団のエースだが治療魔法が一切使えない。しかも、女性恐怖症。  それでも治療魔法が使えるようになりたいと懇願するルドに根負けしたクリスは特別な治療魔法を教える。  クリスを男だと思い込み、純粋に師匠として慕ってくるルド。  そんなルドに振り回されるクリス。  こんな二人が無自覚両片思いになり、両思いになるまでの話。 ※最初の頃はガチ医療系、徐々に恋愛成分多めになっていきます ※主人公は現代に近い医学知識を使いますが、転生者ではありません ※一部変更&数話追加してます(11/24現在) ※※小説家になろうで完結まで掲載 改稿して投稿していきます

辺境のスローライフを満喫したいのに、料理が絶品すぎて冷酷騎士団長に囲い込まれました

腐ったバナナ
恋愛
異世界に転移した元会社員のミサキは、現代の調味料と調理技術というチート能力を駆使し、辺境の森で誰にも邪魔されない静かなスローライフを送ることを目指していた。 しかし、彼女の作る絶品の料理の香りは、辺境を守る冷酷な「鉄血」騎士団長ガイウスを引き寄せてしまった。

こわいかおの獣人騎士が、仕事大好きトリマーに秒で堕とされた結果

てへぺろ
恋愛
仕事大好きトリマーである黒木優子(クロキ)が召喚されたのは、毛並みの手入れが行き届いていない、犬系獣人たちの国だった。 とりあえず、護衛兼監視役として来たのは、ハスキー系獣人であるルーサー。不機嫌そうににらんでくるものの、ハスキー大好きなクロキにはそんなの関係なかった。 「とりあえずブラッシングさせてくれません?」 毎日、獣人たちのお手入れに精を出しては、ルーサーを(犬的に)愛でる日々。 そのうち、ルーサーはクロキを女性として意識するようになるものの、クロキは彼を犬としかみていなくて……。 ※獣人のケモ度が高い世界での恋愛話ですが、ケモナー向けではないです。ズーフィリア向けでもないです。

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!

楠ノ木雫
恋愛
 貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?  貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。  けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?  ※他サイトにも投稿しています。

捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。

蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。 これで、貴方も私も自由です。 ……だから、もういいですよね? 私も、自由にして……。 5年後。 私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、 親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、 今日も幸せに子育てをしています。 だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。 私のことは忘れて……。 これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。 はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?

キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる

藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。 将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。 入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。 セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。 家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。 得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。

処理中です...