公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間

みん

文字の大きさ
7 / 23

7 3日目

しおりを挟む
3日目の朝食は、味の無い蒸したチキンだった。

「生肉を食べないヤモリ……本当に珍しいな。やっぱり飼い主が居て、偏食に育てられたのか?」

俺にチキンを食べさせているマルクが、不思議そうな顔をして見ている。

『ギューギュー(中身が人間だから仕方無いだろう)』
「ノクスって、よく鳴くわね。私、ヤモリが鳴くって知らなかったわ」
「よく鳴くのも、珍しいと思いますよ?」

今日の朝食も、自室で食べているシャーリー。相変わらず、この部屋にはミシェルとマルク以外の使用人は来ていない。夫人やデライラの姿さえ、あれから見ていない。

「ミシェル、今日は書庫に行くわ」
ですか?謹慎を言い渡しておいて…」
「私が“暇をしている”からだそうよ」
「どの口が………」

シャーリーとミシェルは、時々よく分からない会話をしては、ミシェルが怒ってシャーリーが苦笑いをしている。否、苦笑いと言うより諦めに近い笑顔か?兎に角、どう言う意味なのか?と、人間の姿であれば訊く事もできるが、今はヤモリでしかないから訊く事すらできない。少しモヤモヤとした気持ちで、俺は部屋を出て行くシャーリー達を見送った。





「相変わらず辛気臭い部屋ね」

シャーリー達が出て行って1時間程してから、部屋にやって来たのはデライラと1人の侍女だった。
部屋の主が不在の時に、使用人が掃除の為に部屋に入る事はよくあるが、姉妹が入ると言う事は滅多にない。特に、自分よりも上の立場ともなると、尚更有り得ない事だ。それなのに──と思いながら、デライラの様子を窺っていると、侍女は扉近くで立ち止まり、デライラは無遠慮のまま部屋の奥へと進んで行った。

「今日は何も無いわね」
「この数日はシャーリー様はお出掛けもしてませんし、贈り物などもありませんから」
「それもそうね。動きを制限し、シャーリーに贈り物をする人なんて居ないものね…あら、本当にここに居たのね」

汚いモノを見る様な目を俺に向けるデライラ。俺の姿がヤモリだから仕方無い──と、自分に言い聞かせる。

「黒いトカゲなんて不吉よね」

と言いながら、俺が入っているケースに近付いて来るデライラを見る。

ーん?ー

そこで、ふと見覚えのある物が目に入った。目の前のデライラが着けているブレスレット。青色と琥珀色の2粒のサファイアが付いた、シルバーチェーンのブレスレット。

ー何故、アレをデライラが?ー

見間違える筈はない。アレは既製品ではなく、シャーリーの学園入学祝いを兼ねて、俺が注文して贈った物だ。会って直接渡せずに遣いをやって贈ったけど、お礼の手紙すら無かったから、気に入らなかったのか?と思ったりもして──今迄手紙の返事すら無かった事もあって、「俺はシャーリーに嫌われているのか?」と思うようになって疎遠になってしまったのだが─

ーもし、手紙や贈り物が、シャーリー本人に届いていなかったとしたら?ー

「最近は、ネイサン様からの手紙すら来てないし、今回の謹慎もあるから、そろそろシャーリーも捨てられるかもしれないわね」
「そう言えば、ナターシャ様からシャーリー様に手紙が来ていましたけど、どうされますか?」
「お姉様から!?それも渡さなくて良いわ。お姉様は、何故実の妹の私よりシャーリーを優先するの!?義理の兄になったリュシアン様にも会わせてくれないし!酷いお姉様だわ!ここには何も無いから部屋に戻るわ」
『──っ!?』

ガツンッと、デライラは俺が入っているケースを殴ってから部屋から出て行った。

ー“デライラ=カシリストは、心優しい令嬢”ではなかったのか?ー

王太子妃ナターシャからの手紙さえ握り潰しているのなら、俺からの手紙がシャーリーに届いていなかった可能性が高い。しかも、シャーリーが入学してからはお茶どころか会う事も殆ど無かった。となれば、シャーリーからすれば「俺に嫌われている」と思っていてもおかしくない。

『ブロンディオ様』

久し振りに会ったシャーリーに、家名で呼ばれた。以前は『ネイサン様』と名前で呼ばれていたのに。

『キュウ………』

初めてシャーリーに会った時は、可愛い妹の様な感覚だった。王太子リュシアン王太子妃ナターシャが勧めた婚約だから、断わる事ができないと言うのもあったけど、会って話をしていくうちに、シャーリーとなら信頼を築いて仲良く過ごしていけると思うようになった。だから、入学祝いを兼ねて特注で贈ったブレスレットは、無意識のうちに青色と琥珀色の宝石を選んでいたのだ。そのブレスレットを──今すぐ取り返したいが、ヤモリな姿では無理だ。

ー後4日か……ん?ー

ケースの天井フタを見ると、デライラがケースを殴ってくれたお陰で、フタがズレて隙間ができていた。 

ー 少し、探ってみるか?ー



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

殿下、私以外の誰かを愛してください。

ハチワレ
恋愛
公爵令嬢ラブリーは、第一王子クロードを誰よりも愛していました。しかし、自分の愛が重すぎて殿下の負担になっている(と勘違いした)彼女は、愛する殿下を自由にするため、あえて「悪役令嬢」として振る舞い、円満に婚約破棄されるという前代未聞の計画を立てる。協力者として男爵令嬢ミリーを「ヒロイン役」に任命し、準備は整った。

旦那様。私が悪女ならば、愛人の女は何になるのかしら?

白雲八鈴
恋愛
 我が公爵家主催の夜会の最中。夫が愛人を連れてやってきたのです。そして、私を悪女という理由で離縁を突きつけてきました。  離縁して欲しいというのであれば、今まで支援してきた金額を全額返済していただけません?  あら?愛人の貴女が支払ってくれると?お優しいわね。  私が悪女というのであれば、妻のいる夫の愛人に収まっている貴女は何なのかしら?

地味顔令嬢の私を「嘘の告白」で笑いものにするつもりですか? 結構です、なら本気で惚れさせてから逆にこっちが盛大に振ってあげます!

日々埋没。
恋愛
「お前が好きだ。この俺と付き合ってくれないか?」    学園のアイドル、マルスからの突然の告白。  憧れの人からの言葉に喜んだのも束の間、伯爵令嬢リーンベイルは偶然知ってしまう。それが退屈しのぎの「嘘の告白(ウソコク)」だったことを。 「あの地味顔令嬢が俺に釣り合うわけないだろ。ドッキリのプラカードでも用意しとくわ」  親友のミネルバと共に怒りに震える彼女は、復讐を決意する。まずは父の言いつけで隠していた「絶世の美貌」を解禁! 嘘の恋を「真実の恋(マジコク)」に変えさせ、最高のタイミングで彼を地獄へ突き落とす――。 「……今さら本気になった? 冗談はやめてください、これドッキリですよ?」

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

私との婚約は政略ですから、恋人とどうぞ仲良くしてください

稲垣桜
恋愛
 リンデン伯爵家はこの王国でも有数な貿易港を領地内に持つ、王家からの信頼も厚い家門で、その娘のエリザベスは10歳の時にコゼルス侯爵家の二男のルカと婚約をした。  王都で暮らすルカはエリザベスより4歳年上で、その時にはレイフォール学園の2年に在籍中。  そして『学園でルカには親密な令嬢がいる』と同じ学園に通う兄から聞かされたエリザベス。  エリザベスはサラサラの黒髪に海のような濃紺の瞳を持つルカに一目惚れをしたが、よく言っても中の上の容姿のエリザベスが婚約者に選ばれたことが不思議だったこともあり、侯爵家の家業から考え学園に入学したエリザベスは仲良さそうな二人の姿を見て『自分との婚約は政略だったんだ』と、心のどこかでそう思うようになる。  そしてエリザベスは、侯爵家の交易で使用する伯爵領地内の港の使用料を抑える為の政略結婚だったのだと結論付けた。    夢見ていたルカとの学園生活は夢のまま終わり、婚約を解消するならそれでもいいと考え始めたエリザベス。  でも、実際にはルカにはルカの悩みがあるみたいで……   ※ 誤字・脱字が多いと思います。ごめんなさい。 ※ あくまでもフィクションです。 ※ ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※ 実在の人物や団体とは一切関係はありません。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

危害を加えられたので予定よりも早く婚約を白紙撤回できました

しゃーりん
恋愛
階段から突き落とされて、目が覚めるといろんな記憶を失っていたアンジェリーナ。 自分のことも誰のことも覚えていない。 王太子殿下の婚約者であったことも忘れ、結婚式は来年なのに殿下には恋人がいるという。 聞くところによると、婚約は白紙撤回が前提だった。 なぜアンジェリーナが危害を加えられたのかはわからないが、それにより予定よりも早く婚約を白紙撤回することになったというお話です。

婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。

パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。

処理中です...