公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間

みん

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思いの外、ヤモリの姿は便利だった。
垂直の壁に張り付く事ができるし、狭い隙間に身を隠す事もできて、あちこち歩き回る事ができた。ただ、体が黒色と言うのは目立ってしまうから、人目を避けて慎重に進まないといけない事が大変だった。それでも、少しずつだが、おかしい事が分かって来た。

侯爵夫妻の部屋とデライラの部屋は2階の南側に面した広い部屋なのに、シャーリーだけ3階の角部屋だと言うと事。夫妻の部屋とデライラの部屋は、毎日使用人達が掃除をしているが、シャーリーの部屋には、俺が居るこの3日間では一度だけ。

シャーリー専属の侍女はミシェルだけで、日替わりで“ミシェルの補助”程度の侍女が1人いるだけなのに、夫人とデライラには専属だけで3人居る事。

謹慎中だからかもしれないが、シャーリーは毎食自室で1人で食べているが、夫人とデライラは食堂で一緒に食べている。

ーカシリスト侯爵は外交官で仕事人間だからなぁー

仕事もできて有能で、国王陛下からの信頼も厚い。外交官と言う事もあり、他国を行き来している為、年中殆ど不在状態だ。

“愛妻家だ”と言われていたが………



そして、今、俺が目にしているのはシャーリーの部屋のクローゼット。

『ギュッ?』

思わず小首を傾げる。
邸内をある程度偵察した後、シャーリーの部屋に戻って来ると、クローゼットが少し開いていた。部屋を出る時は閉まっていただろうから、シャーリーかミシェルが居るのか?と思って覗いてみれば──クローゼットには、ドレスが2点と数点のワンピースと制服しか掛かっていなかったのだ。しかも、ワンピースはまだマシだが、ドレスはシャーリーには似合わない色や形の物だった。

ー一体誰の趣味だ?ー

否、その前に、侯爵令嬢の服がこれだけと言う事に驚く。この部屋に他にクローゼットは……見た限りでは無い。まだ社交デビューしていないとは言え、侯爵令嬢で王太子妃の妹ともなれば、デビュー前でもお茶会や個人の邸でのパーティーに参加する事はよくあるから、もっとドレスを持っていてもおかしくはない。
それに、貴重品を収めているような棚がない。

『…………』

改めて、シャーリーの部屋をぐるりと見渡す。

ー質素な部屋だなー

女性の部屋は、母の部屋や従姉妹の部屋しか見た事はないが、明るい部屋だった。決して質素が悪い訳ではない。“落ち着く”と言うより“寂しい”と言う感じがする部屋だ。
誰かがシャーリーを虐げていると言う事は無い──ように見えているのなら質が悪い。

ーひょっとして……その事に、ナターシャが気付いていたなら?ー

『ナターシャの機嫌が悪くなったのは、ネイサンのせいだからね?お前なら大丈夫だろうと思ったんだけど……』

2人の幼馴染みで、格上の公爵家の息子の俺が婚約者となれば、シャーリーをこの環境から救えるかも─と、思っていたのか?

笑った顔が可愛かった──が、最後にあの笑顔を見たのはいつだった?会えば色んな話をしてくれたシャーリーが、俺からの手紙に返事をくれないなんて事があるのか?

ーデライラの部屋を探ってみるか?ー

俺がシャーリーに贈ったブレスレットを平気で使っているぐらいだから、ひょとしたらデライラの部屋に他にも色々とあるのかもしれない。そうなれば、シャーリーが聖女を苛めていたと証言したデライラの信憑性は低くなる。そもそも、俺はもともとシャーリーが苛めていたとは思っていないし、噂を信じてもいなかった。


『──お前はもっと、他人に関心を持つべきだ』


ーもっと、シャーリーの事を気に掛けるべきだったー

「あら?ケースから出て来てしまったの?」
『キュッ(シャーリー)!?』
「逃げて、デライラに見つかったりしたら大変だわ。えっと…掴まえても良いかなぁ?」

書庫から戻って来たシャーリーが、俺の頭をツンツンと突いてから俺を掴み上げて手の平に乗せた。

「本当にノクスの目は綺麗ね。光が当たると黒色の瞳の中に、青色がキラキラと光って見えるわ」
『キュー(ありがとう)』
「本当によく鳴くレオパですね。まるで、返事をしているみたいに」

そう言って、じっと見つめて来るのは侍女のミシェル。ミシェルからの視線が冷たく感じるのは、ミシェルが爬虫類が嫌いだからか?

「お利口なヤモリって事ね?ふふっ…」

ミシェルとは対象的に、優しい目をして微笑むシャーリー。

『キュウー(可愛いなぁ)……』

思わず声が漏れたが、シャーリー達には“キュウー”としか聞こえないから大丈夫だろう。
それから、マルクが持って来たお昼ご飯の蒸したチキンを食べた後、ケースに戻された。歩き回ったせいで疲れていたようで、昼寝をする事にした。




******

「───さい。───きて─さい」
『ギュ………?』
「起きて下さい。!」
『ギュッ!?』

名前を呼ばれて目を開けると、ケースの外から俺を見下ろすミシェルが居た。

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