公爵令息と悪女と呼ばれた婚約者との、秘密の1週間

みん

文字の大きさ
13 / 23

13 シャーリーの思い

しおりを挟む
「やっぱり婚約破棄になるのかなぁ?」
『キューキュー(ならないからな)!』
「ん?また、慰めてくれるの?」

シャーリーが、ケースの蓋を開けて俺を摘み上げて、手の平に乗せて、俺の頭をヨシヨシと撫でる。

「ノクスが黒色で良かった。黒色だったから、何も考えずに触る事ができたから……」
『キュッ(何故)?』

コテン─と小首を傾げてシャーリーを見上げれば「可愛い!」と言って、更に頭を撫でられた。

ーうん。気持ち良いから問題無いー

それから暫くの間「可愛い」と言いながら撫でられまくってから、シャーリーはポツポツと話をしだした。



お義姉様ナターシャが居なくなってから、シャーリーの言葉を聞いてくれる人が居なくなった事。それでも学校に行けば、言葉を聞いてくれる友人ができて楽しかった事。でも、それらがこの半年程で失われてしまった事。

「ブロンディオ様も、婚約が決まった頃の私はまだまだ幼かったけど、私の言葉を聞いてくれたの。私の欲しい言葉をくれるだけじゃなくて、駄目なものは駄目なのだと言ってくれたの。一緒に過ごすティータイムは穏やかでも楽しい時間だったの」
『キュー(シャーリー)………』

ーそんな風に思ってくれていたのかー

シャーリーの話を聞くだけで、あまり気の利いた言葉を掛けた記憶は無い。ただ、シャーリーが嬉しそうに笑っていたから、つられて笑顔になっていたと思う。

本当に、俺は何も気付いてなかった。ナターシャが無言で怒っているのも……納得だ。侯爵夫人は自分の実の母親だし、義父の侯爵もそれなりの地位にある。そして、自分は王太子妃ともなれば、実家のゴタゴタに首を突っ込む事は難しい。王太子妃の言葉が命令になるから。そこで、俺を信頼して─と言ったところだろうが………それならそうと最初から言ってくれても良かったのでは?とは言い訳でしかない。

「謹慎期間が終わったら、ブロンディオ様に会えるかどうか、手紙を送ってみようかな……返事があるかどうか、読んでくれるかどうかも分からないけど」
『キュッ!』

その手紙はミシェルに頼もう。否、手紙が届かなくても元の姿に戻ったら俺が会いに来れば良い。

「取り敢えず、書類を何とかしないとね…できる気がしないけど……」

そう言ってまたため息を吐いた後、シャーリーはまた書類とにらめっこを始めた。





******


『シャーリーは、いつからやらされているんだ?』
「2年生になって暫くしてからなので、1年前からですね」
『侯爵も承知しているのか?』
「旦那様は今、外交で国内にいらっしゃらないですし、手紙のやり取りも奥様か執事しかできないので、知らない可能性の方が高いですね。旦那様が、それを良しとするとは思えませんから」

ーこれは、絶対に知らないなー

侯爵への手紙は、リュシアンかナターシャに頼めば良い。“夫人とデライラが、シャーリーを領地に追いやって、デライラと俺の婚約を企んでいる”と手紙を出せば、侯爵も動くだろう。

「でも、シャーリー様本人は、将来の為の勉強になると思ってるところもあるので、負担には思ってないようで……本当に純粋な人ですよね。本当に天使……」

ー“天使”じゃなくて“女神”だろうー

『シャーリーを虐げたところで、何の得にもならないと、いつ気が付くのか……』
「気付かないんじゃないですか?あの2人は馬鹿ですから。ナターシャ様が奇跡なんですよ」
『そうだな……』

本当に、ナターシャとあの2人は血が繋がっているのか不思議なぐらいだ。ナターシャとシャーリーが本当の姉妹だと言う方が、俺にはしっくりくる。

「あ、そう言えば……私が第四騎士団に入団した頃、ある噂を耳にした事があって……」
『噂?』

それは、夫人に関する噂だった。
侯爵夫人─ジャクリーヌ─が男爵令嬢だった頃から、カシリスト侯爵に恋心を抱いていたが、カシリスト侯爵が選んだのは(シャーリーの母親となる)伯爵令嬢だった。そして、ほぼ同じ時期にジャクリーヌ自身も同じ家格の男爵家の嫡男と婚約が調い、その1年後に結婚した。それが、ジャクリーヌも侯爵も伴侶を亡くし、再婚した。

「未練があった旦那様に迫って、無理矢理再婚に漕ぎ着けたとか、娘のナターシャ様を王太子妃にさせる為に侯爵と再婚したとか言われてました」
『なるほど……』

どちらの噂も的を射ている。
ナターシャを王太子妃に─とは、リュシアンにとっては渡りに船だった。ナターシャをリュシアンの婚約者にするには、男爵令嬢とは難しい状態だったが、侯爵と再婚した事によって、問題無く婚約者にする事ができたのだ。ただ、愛妻家だったカシリスト侯爵が、迫られただけで再婚したとは思えない。

『カシリスト侯爵と、直ぐに連絡を取った方が良いな……』
「では、直ぐに手紙の準備をします」

そうして、その日のうちに手紙を書いて、リュシアンとナターシャにその手紙を託した。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。

灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。 曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。 婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。 前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。

白い結婚を告げようとした王子は、冷遇していた妻に恋をする

夏生 羽都
恋愛
ランゲル王国の王太子ヘンリックは結婚式を挙げた夜の寝室で、妻となったローゼリアに白い結婚を宣言する、 ……つもりだった。 夫婦の寝室に姿を見せたヘンリックを待っていたのは、妻と同じ髪と瞳の色を持った見知らぬ美しい女性だった。 「『愛するマリーナのために、私はキミとは白い結婚とする』でしたか? 早くおっしゃってくださいな」 そう言って椅子に座っていた美しい女性は悠然と立ち上がる。 「そ、その声はっ、ローゼリア……なのか?」 女性の声を聞いた事で、ヘンリックはやっと彼女が自分の妻となったローゼリアなのだと気付いたのだが、驚きのあまり白い結婚を宣言する事も出来ずに逃げるように自分の部屋へと戻ってしまうのだった。 ※こちらは「裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。」のIFストーリーです。 ヘンリック(王太子)が主役となります。 また、上記作品をお読みにならなくてもお楽しみ頂ける内容となっております。

教養が足りない、ですって

たくわん
恋愛
侯爵令嬢エリーゼは、公爵家の長男アレクシスとの婚約披露宴で突然婚約破棄される。理由は「教養が足りず、公爵夫人として恥ずかしい」。社交界の人々の嘲笑の中、エリーゼは静かに会場を去る。

挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました

結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】 今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。 「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」 そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。 そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。 けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。 その真意を知った時、私は―。 ※暫く鬱展開が続きます ※他サイトでも投稿中

愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。

石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。 ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。 それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。 愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。

私達、婚約破棄しましょう

アリス
恋愛
余命宣告を受けたエニシダは最後は自由に生きようと婚約破棄をすることを決意する。 婚約者には愛する人がいる。 彼女との幸せを願い、エニシダは残りの人生は旅をしようと家を出る。 婚約者からも家族からも愛されない彼女は最後くらい好きに生きたかった。 だが、なぜか婚約者は彼女を追いかけ……

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

処理中です...