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17 カシリスト侯爵
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「これは一体どう言う事だ?」
その声だけで、声の主が怒っている事が分かる程に冷たくて低い。
「旦那様!?」
「お父様!?」
それに反応したのは、夫人とシャーリーだった。
“旦那様”“お父様”と言う事は、声の主は─カシリスト侯爵だ。侯爵に知らせを飛ばしたのは昨日。今、ここに居ると言う事は、転移の魔法陣を展開させて帰って来たと言う事だ。
「お戻りになると分かっていれば、お迎えの準備をして──」
「迎えは結構だ。それよりも、どうしてシャーリーをひっぱたいたのかを教えてくれ」
ー夫人がシャーリーを叩いたのか!?ー
「あぁ、ご説明しますわ。実は──」
侯爵に促されて、夫人はシャーリーが聖女を苛めた挙句、怪我をさせて1週間の謹慎処分を受けたにも関わらず、全く反省していないから地下の部屋に入れようとした──と説明した。
「あまりにも反抗的だったので、思わず手が……」
「聖女の件や謹慎について、私には一切の報告がされていなかったのは何故だ?」
「それは、こんな事で旦那様を煩わせる必要はな─」
「“こんな事”かどうかは、お前が勝手に判断する事ではない。それに、私には些細な事でも必ず報告するようにと言ってあった筈だが?報告するだけと言う簡単な仕事もできないのか?」
「も…申し訳ございません。ですが、シャーリーが聖女を苛めたのは事実で───」
「私を馬鹿にするのも……大概にしろよ?」
「──っ!」
ーこれが、あのカシリスト侯爵なのか?ー
カシリスト侯爵は愛妻家として有名だった。シャーリーの実の母親とは恋愛結婚をして、結婚した後もとても仲が良く、パーティーでも夫婦以外とダンスをする事は一切無く、夫人のお茶会には、必ず侯爵が送迎に同行していたそうだ。
そこまで愛していた夫人が亡くなった後に迎え入れたのがジャクリーヌ。そこに何かしらの感情できたのか?と思っていたが、愛情は勿論の事、家族愛らしきものも無いように感じる。今は、殺意をジャクリーヌに向けている。
「私が何故お前を迎え入れたのか……ちゃんと理解できていなかったようだな」
「それは!旦那様が私を必要としてくれたからですよね!?私に、少しでも気持ちがあったから──」
「“気持ち”とは?私は、一番最初に伝えた筈だ。『私は亡き妻以外に愛する事は無い』とな。それは、あの時から今でも変わらない」
「それは建前で──」
「私がお前を迎え入れたのは、お前がエレーヌの幼馴染みで、お互い既に子供が居て夫婦としての関係が不要だと言う事と、私の長期の国外派遣が決まっていたからだ。お前が『エレーヌの大切な子であるシャーリーを護る為にも』と言ったからだ」
「お父様……」
ソッとカーテンから顔を出して様子を見てみると、左頬が少し赤くなったシャーリーが、父親であるカシリスト侯爵を呆然とした顔で見つめていた。侯爵は背中しか見えない。
「私は、てっきりお父様には見捨てられたのだと…」
「そんな事をする訳がないだろう!シャーリーは、エレーヌが最も大切に愛した子なのだから。私にとっても、エレーヌと同じようにシャーリーが大切で愛しているのに」
「でも……手紙を書いても返事がなくて、お父様からの手紙も、ここ何年も無くて………」
「手紙?何年も?ジャクリーヌ──っ!」
「ひ────っ!」
『ギュッ!?』
文官の侯爵の殺気が凄まじい。一般的な騎士でさえここまでの殺気は出せないだろう。ヤモリな俺にはかなり堪える。
ジャクリーヌと執事が、侯爵とシャーリーとの手紙を握り潰していたのは確かだ。そして、ジャクリーヌ達は、侯爵に嘘の報告をしていたのだろう。
「お前からの手紙では、“特に問題は無い。シャーリーとも仲良くやっている”と。私はそれを信じていた。シャーリーからの手紙が無い事は気にはなっていたが、学校が始まって忙しいのだろうと思っていた。何と愚かな考えだったのか……すまない、シャーリー。私があの女を信じたばかりに……」
ジャクリーヌを信じたと言うのではなく、エレーヌ様の幼馴染みのジャクリーヌを信じていたんだろう。
「聖女の苛めに関しても、シャーリーが濡れ衣を着せられている事は分かっている」
「お……お義父様も私の事を疑うんですか!?私は、王太子妃の実の妹ですよ!?」
「それがどうしたと言うんだ?王太子妃はナターシャであって、デライラはただの男爵令嬢でしかない」
「男爵!?私は、カシリスト侯爵家の……」
侯爵の言葉に、サッと顔色を悪くしたのは夫人だった。シャーリーとデライラは戸惑いを隠せず、夫人と侯爵に視線を向けている。
「正確には、私はこの女とは再婚していない。ナターシャだけを養子に迎え入れたんだ。王太子殿下の為に。そして、その母親とデライラはナターシャの後見人と言う形で我が家に迎え入れた。私が不在の間、シャーリー達の面倒をみてもらう条件として、再婚したように装ってな。契約婚のようなもので、書類は作成したが、婚姻届は提出していないし、国王陛下の了承も得ている」
まさかの事実が隠されていた。王太子妃ナターシャと、夫人とデライラは他人になっていた。
その声だけで、声の主が怒っている事が分かる程に冷たくて低い。
「旦那様!?」
「お父様!?」
それに反応したのは、夫人とシャーリーだった。
“旦那様”“お父様”と言う事は、声の主は─カシリスト侯爵だ。侯爵に知らせを飛ばしたのは昨日。今、ここに居ると言う事は、転移の魔法陣を展開させて帰って来たと言う事だ。
「お戻りになると分かっていれば、お迎えの準備をして──」
「迎えは結構だ。それよりも、どうしてシャーリーをひっぱたいたのかを教えてくれ」
ー夫人がシャーリーを叩いたのか!?ー
「あぁ、ご説明しますわ。実は──」
侯爵に促されて、夫人はシャーリーが聖女を苛めた挙句、怪我をさせて1週間の謹慎処分を受けたにも関わらず、全く反省していないから地下の部屋に入れようとした──と説明した。
「あまりにも反抗的だったので、思わず手が……」
「聖女の件や謹慎について、私には一切の報告がされていなかったのは何故だ?」
「それは、こんな事で旦那様を煩わせる必要はな─」
「“こんな事”かどうかは、お前が勝手に判断する事ではない。それに、私には些細な事でも必ず報告するようにと言ってあった筈だが?報告するだけと言う簡単な仕事もできないのか?」
「も…申し訳ございません。ですが、シャーリーが聖女を苛めたのは事実で───」
「私を馬鹿にするのも……大概にしろよ?」
「──っ!」
ーこれが、あのカシリスト侯爵なのか?ー
カシリスト侯爵は愛妻家として有名だった。シャーリーの実の母親とは恋愛結婚をして、結婚した後もとても仲が良く、パーティーでも夫婦以外とダンスをする事は一切無く、夫人のお茶会には、必ず侯爵が送迎に同行していたそうだ。
そこまで愛していた夫人が亡くなった後に迎え入れたのがジャクリーヌ。そこに何かしらの感情できたのか?と思っていたが、愛情は勿論の事、家族愛らしきものも無いように感じる。今は、殺意をジャクリーヌに向けている。
「私が何故お前を迎え入れたのか……ちゃんと理解できていなかったようだな」
「それは!旦那様が私を必要としてくれたからですよね!?私に、少しでも気持ちがあったから──」
「“気持ち”とは?私は、一番最初に伝えた筈だ。『私は亡き妻以外に愛する事は無い』とな。それは、あの時から今でも変わらない」
「それは建前で──」
「私がお前を迎え入れたのは、お前がエレーヌの幼馴染みで、お互い既に子供が居て夫婦としての関係が不要だと言う事と、私の長期の国外派遣が決まっていたからだ。お前が『エレーヌの大切な子であるシャーリーを護る為にも』と言ったからだ」
「お父様……」
ソッとカーテンから顔を出して様子を見てみると、左頬が少し赤くなったシャーリーが、父親であるカシリスト侯爵を呆然とした顔で見つめていた。侯爵は背中しか見えない。
「私は、てっきりお父様には見捨てられたのだと…」
「そんな事をする訳がないだろう!シャーリーは、エレーヌが最も大切に愛した子なのだから。私にとっても、エレーヌと同じようにシャーリーが大切で愛しているのに」
「でも……手紙を書いても返事がなくて、お父様からの手紙も、ここ何年も無くて………」
「手紙?何年も?ジャクリーヌ──っ!」
「ひ────っ!」
『ギュッ!?』
文官の侯爵の殺気が凄まじい。一般的な騎士でさえここまでの殺気は出せないだろう。ヤモリな俺にはかなり堪える。
ジャクリーヌと執事が、侯爵とシャーリーとの手紙を握り潰していたのは確かだ。そして、ジャクリーヌ達は、侯爵に嘘の報告をしていたのだろう。
「お前からの手紙では、“特に問題は無い。シャーリーとも仲良くやっている”と。私はそれを信じていた。シャーリーからの手紙が無い事は気にはなっていたが、学校が始まって忙しいのだろうと思っていた。何と愚かな考えだったのか……すまない、シャーリー。私があの女を信じたばかりに……」
ジャクリーヌを信じたと言うのではなく、エレーヌ様の幼馴染みのジャクリーヌを信じていたんだろう。
「聖女の苛めに関しても、シャーリーが濡れ衣を着せられている事は分かっている」
「お……お義父様も私の事を疑うんですか!?私は、王太子妃の実の妹ですよ!?」
「それがどうしたと言うんだ?王太子妃はナターシャであって、デライラはただの男爵令嬢でしかない」
「男爵!?私は、カシリスト侯爵家の……」
侯爵の言葉に、サッと顔色を悪くしたのは夫人だった。シャーリーとデライラは戸惑いを隠せず、夫人と侯爵に視線を向けている。
「正確には、私はこの女とは再婚していない。ナターシャだけを養子に迎え入れたんだ。王太子殿下の為に。そして、その母親とデライラはナターシャの後見人と言う形で我が家に迎え入れた。私が不在の間、シャーリー達の面倒をみてもらう条件として、再婚したように装ってな。契約婚のようなもので、書類は作成したが、婚姻届は提出していないし、国王陛下の了承も得ている」
まさかの事実が隠されていた。王太子妃ナターシャと、夫人とデライラは他人になっていた。
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